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LEADING THE CHARGE: EVバッテリーのサプライチェーン

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EVで、よりクリーンな未来へ

電気自動車(EV)は、モビリティ分野における脱炭素の世界的な潮流の先頭に立ち、よりクリーンな未来の実現に向けて、化石燃料依存を大幅に減らすソリューションであるといえます。

世界的なEV推進の流れの中で、EVを構成する様々な部品への需要が急増しています。その中で最も重要なのはエネルギー源であるバッテリーです。EVバッテリー(及びそのサプライチェーン)は、EVの中で最も価値が高い部分であり、通常、車両価値の30~40%を占めます。このような高コストの主因は、EVバッテリーがリチウム、コバルト、マンガンニッケル及びグラファイトなどの重要な原料鉱物で構成されていることにあります。以下で述べるように、これらの鉱物は」入手が難しく、供給は少数の国に集中しています。[2][3]

 

ニッケルは、世界的にEVバッテリーの生産に使用されている重要な原材料です。インドネシアにおけるニッケルの採掘・生産をめぐる実態、傾向、問題点についての詳細な考察については、2023年10月12日付で公開した次の記事をご参照ください。 

https://www.kwm.com/global/en/insights/latest-thinking/indonesias-nickel-rush-riding-the-waves-of-the-ev-battery-revolution.html

EVバッテリーの正極は「カソード」と呼ばれ、負極は「アノード」と呼ばれます。正極はグラファイトなどで作られ、負極はリチウム、ニッケル、コバルト、マンガンなどで作られます。

EV業界は、環境や社会に配慮したサプライチェーン、貿易政策、及び、グローバル競争力、という3要素のバランスをとらなければならないという、難しい課題に直面しています。これらの問題の解決のためには、戦略的パートナーシップと革新的な調達ソリューションが、重要な役割を果たすこととなります。

EV市場と「ネットゼロ」(温室効果ガスの排出量の「正味」ゼロ)に関する最新情報は、定期購読記事:気候変動とESGに関するコンテンツも合わせてご活用ください

 

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中国企業の垂直優位性 | アメリカは現地のサプライチェーンを強化

EUにおける同盟形成と競争力の強化 | Tグローバルな変化:協力とイノベーション

 

EVバッテリーのサプライチェーンとは何か?

通常の自動車を構成する部品とは異なり、EV自動車用のバッテリーは、アップストリームの原料生産からバッテリー製造、そして最終的にはリサイクルに至るまで、EV サプライ チェーンの全体的な生産ライフサイクルに関係する重要な部品です。

EVバッテリーの生産国 - 中国が世界の生産リード

世界のEVバッテリーのサプライチェーンでは、中国企業がリードしています。

  • 中国におけるEVバッテリー生産量は全世界の約4分の3を占めており、中でも、カソードの生産能力では70%、アノードの生産能力では85%を占めています(カソードも、アノードも、重要な原材料を含んでいます。)。また、中国企業はグラファイト、コバルト、リチウムの加工能力の半分以上を支配しています。
  • アメリカ企業は、EV生産量において全体の10%、バッテリー生産能力において全体の7%を占めています。
  • ヨーロッパ企業は、コバルト加工においてサプライチェーンの20%を占めています。
  • 韓国企業や日本企業は、原料鉱物の加工、カソードやアノード材料の生産において、ダウンストリームに大きな影響力を持っています。韓国企業は、カソード材料生産において全体の15%を占めており、日本企業はカソード材料生産において全体の14%、アノード材料生産において全体の11%を占めています。[7]

国際エネルギー機関「世界の電気自動車用バッテリーサプライチェーン」(2022年7月発行): https://iea.blob.core.windows.net/assets/4eb8c252-76b1-4710-8f5e-867e751c8dda/GlobalSupplyChainsofEVBatteries.pdf

China’s Ministry of Industry and Information Technology pays car companies subsidies based on the number of EVs they produce. Through the end of 2022, the ministry had paid almost 39 billion yuan to subsidise the production of about 3.76 million new-energy vehicles, with BYD getting the highest amount of subsidies.

Giving an example, EV makers are deemed high-tech companies and so pay a lower corporate income tax rate of 15% compared to the standard 25%.

The Ministry of Finance has spent almost 20 billion yuan to promote electric vehicles, including subsidising charging infrastructure. China’s economic planning agency has pledged to subsidise public chargers to meet demand from over 20 million new-energy vehicles by the end of 2025.

中国企業の垂直優位性

The rare earth elements include yttrium, lanthanum, cerium, praseodymium, neodymium, promethium, samarium, europium, gadolinium, terbium, dysprosium, holmium, erbium, thulium, ytterbium, and lutetium.

EXPAND

重要な鉱物

中国企業は、ニッケル、リチウム、コバルト、グラファイト、マンガン生産にかかる、数多くのアップストリーム(上流)資源に対して着実に支配権を獲得してきました。

  • これらの化学元素は、リチウムイオンバッテリーセルの基本的な構成要素であり、EVを駆動するためのエネルギーを蓄え、放出する力を持っています。
  • 中国企業は、海外でリチウムを採掘し、バッテリー向けのリチウム製品を製造している多くの企業の過半数又は支配的な権利を保有しています。
    • Tianqi Lithium (天斉リチウム) 社は、世界最大級のリチウム鉱山の1つである西オーストラリア州のグリーンブッシュ鉱山の過半数の権益を保有しており、州内でバッテリー向けの水酸化リチウム精製所を運営しています。
    • コンゴでは、数十年にわたって多額の中国資本が流れ込みました。コンゴの豊富なコバルト埋蔵量は推定36億トンで、世界のコバルト埋蔵量の50.7%以上を占めています[11]。2022年、世界第2位のコバルト生産国であるChina Molybdenum (中国モリブデン) 社は、増加する需要を満たすためにコバルト生産量を倍増するべく25億米ドルの投資をしました。その結果、コンゴは、2023年には世界最大のコバルト生産国となりました。[12]

レアアース

レアアースは、EV(バッテリーと電気モーターの両方)を製造する際に欠かすことができない物質です。

レアアース鉱物は、「ネットゼロ」(温室効果ガスの排出量の「正味」ゼロ)の目標を達成するために必要とされる風力タービン、電解槽、送電線に使用されています。

レアアースは、重要な鉱物の中でも特に重要なグループに位置付けられ、しばしば、一様な岩石として現れます。岩石は、複数のレアアース鉱物に分離されますが、岩石中に分散して存在しているため、この分離プロセスは技術的に難しいものであり、多くの人手を要し、大量に生産することが困難なものです。[13]

1990年、中国政府は、レアアースを保護された戦略的鉱物群であると発表し、外国企業による中国での鉱業・製錬を禁止しました。同年12月に国有のレアアース鉱山会社3社が合併した後、2021年までに、中国は世界最大のレアアース生産国になりました。

中国企業は、

  • EVバッテリーに使われている世界のレアアース鉱物の60%を採掘・加工しています。[14]
  • 2022年には世界のレアアースの鉱山生産量の70%を占め、アメリカ、オーストラリア、ミャンマー、タイの会社がこれに続きます。
  • 2022年には、レアアース加工(岩からの鉱物の分離)の85%を支配しています。つまり、中国以外の採掘国は、採掘したレアアースを加工するために中国に送ることが不可避になります。

2023年1月、中国の自然資源部は、戦略的備蓄の強化として、国内での重要な鉱物やエネルギー資源の探査を強化すると発表しました。これは、経済安全保障を強化し、外部市場に依存することへのリスク回避のための取り組みの一環です。新たな政策では、鉱業探査への投資を奨励し、戦略的元素の採掘のための土地利用を優先することになります。[15]

採掘後、原料鉱物は、加工業者と精製業者によって精製され、精製後の鉱物を使用してカソードとアノードの活性バッテリー物質が製造されます。

  • バッテリー向けの硫酸ニッケル:
    • 現在、原料のニッケル鉱石から硫酸ニッケルを生産できる16社のうち、11社は中国企業です。
    • 2030年までに、この企業数は少なくとも24社に増加すると予想されており、そのうち14社は中国企業となる可能性が高いとされています。同年までに、中国は年間824,000トンの硫酸ニッケルを処理し、アメリカとEUは146,000トンを処理すると予測されています。[16]
  • マンガン:
    • ニッケルとともに、EVバッテリーに不可欠な物質です (ニッケル・マンガン・コバルト正極は、低コストと安全性の観点から増加傾向にあります)。
    • バッテリー用マンガンの需要は、2020年から2031年までに、15倍(年間120万トン)に増加すると予測されています[17]。
    • 中国企業は、マンガン鉱石を高純度の硫酸マンガンに変える世界の精製能力の約90%を握っています。[18]
  • アノード:
    • EVバッテリーのアノードは、通常、銅箔にコーティングされたグラファイトで作られます。グラファイトは各バッテリーセルの45%、バッテリー全体の28%を占めており、体積、質量ともに最大の構成要素を占めます。[19]
    • 中国企業は、2022年に85万トン(世界全体の65%を占める)のグラファイトを生産し、2位以下との間に圧倒的な差をつけて、グラファイトの最大の生産国となりました。マダガスカルは生産量2位であり、同年の生産量は17万トンです。近年の中国のグラファイト輸出抑制の方針(後述)は、この支配状況を強化するものといえます。[20][21]
    • 中国企業は、世界におけるEVバッテリーのアノード生産能力の80%以上を保有しています。[22]
  • カソード:
    • ニッケル、マンガン、コバルト、リチウム、鉄の混合組成物は、EVバッテリーの主なカソード材料です。
    • 中国企業のカソード生産能力は、急速な拡大を続けており、2030年には90%近くに達すると見込まれています。[23]

BMWやルノーなどの欧米の自動車メーカーは、中国でEVを組み立てており、その多くは中国製バッテリーに依存しています。中国は歴史的に、自動車産業を発展させるために欧米のノウハウを導入してきました。現在、中国企業はハンガリーとドイツにバッテリー工場を建設し、中国人マネージャーが現地で働き、ノウハウを共有しています。[24]

 「中国企業がEVのバリューチェーンにおいて強い競争力を有していることは明らかです。彼らは私たちよりも一世代先を行っていると思います。」 — ルノー最高経営責任者 ルカ・デメオ氏(2023年9月、フランスでのラジオ放送にて)[25]
  • 中国には、CATLとウォーレン・バフェット氏が支援するBYDを中心に、EVバッテリーメーカー上位10社のうち6社があり、市場シェアは60%に達しています。[26]
  • 中国では、2022年から2023年にかけてEVの新規登録台数が35%増加し、810万台に達しました。
  • アメリカでは、2022年から2023年の間にEVの新規登録数が40%増加し、合計で140万台となりました。[27]
  • 2023年上半期のオーストラリアにおけるEVを含む中国車の販売台数は、前年比でほぼ倍増し、16%以上の市場シェアを獲得しました。[28]

EV分野における中国企業がもたらす影響

中国企業は、先進的なバッテリー技術と生産技術の開発・実用化において、市場をリードしています。また、EV産業の競争において多大な貢献をしており、技術・インフラの発展を支え、消費者のEVへの乗り換えを促進しています。中国企業間の競争は、外国メーカーとの競争と同様に、技術コストの削減と、価格の低下に貢献しています。競争は、技術革新を促し、各国のグリーン目標の達成を支援する上でも重要です。

アメリカ政府が、 (インフレ抑制法を通じて)アメリカのEV産業で使用される中国産の重要鉱物を事実上禁止し、(エヌビディア製の高性能なAI向けチップの販売を停止することで)半導体の対中輸出を制限し 、これに対抗する形で、中国は、世界最大のグラファイト生産国・輸出国として、特定の種類のグラファイト(EVバッテリー用アノードに不可欠な原料)に対する特別な輸出許可を必要とするようになりました。[26][27]

こうした新たな輸出規制のもとで、中国は輸出業者に対し、EVバッテリーに使用される2種類のグラファイト(高純度、高硬度、高強度の合成グラファイト素材と、天然フレークグラファイト及びその製品)の出荷許可を申請するよう義務付けています。これらの規制は、2023年8月に中国が実施した、半導体や電子機器の主要な金属であるガリウムやゲルマニウムの規制に類似しています。[28]

エネルギー業界の行方

以上を踏まえ、EV業界では協力・連携を図る傾向にあります。企業や政府は、エネルギー面での安全保障を確保し (そして、高まる懸念を緩和するために)、国内のバッテリー製造に投資するとともに、グローバルなサプライチェーンの拡大を図っています。:

  • 欧州バッテリー同盟(European Battery Alliance)のような取り組みや、アメリカへの投資提案は、競争力のあるバッテリー製造産業の発展を促進しています。
  • 自動車メーカーは、サプライチェーン全体の利益率を管理し、鉱物の供給を確保するために、新しいビジネスモデルを採用しています。例えば、フォルクスワーゲンとステランティスは、ブラジルで鉱山会社を買収するための投資を行っており、フォード、ゼネラル・モーターズ、テスラは、自社のバッテリー工場とリチウム精製所を建設しています。
  • 中国は、海外の製造拠点を拡大している一方で、「鉱物安全保障パートナーシップ」のような戦略的パートナーシップにより、サプライチェーンの多様化を加速させています。
  • また、重要な鉱物資源の多様化や代替技術を模索する取り組みも行われています。

全体として、EV業界は、コラボレーション、多様化、新興技術といった要素によって、急速に進化しています。

アメリカは現地のサプライチェーンを強化

インフレ抑制法(IRA)

2022年8月16日に法律として成立したインフレ抑制法(IRA)の主な焦点は、クリーンエネルギー業界に対するアメリカ政府の財政支援を強化し、アメリカ国内のEVサプライチェーンを改善することです。これは、アメリカ国内から、あるいは、自由貿易協定の締結国からの重要な原材料の調達や、重要な材料の加工・精製・リサイクルを奨励し、アメリカ国内での生産に対するインセンティブを与えることによって行われます。

特に、消費者は、新たに認定されたEV又はプラグイン・ハイブリッド車を購入すると最大7500米ドル、中古EVを購入すると最大4000米ドルのクリーン・ビークル税額控除を受けることができます。この控除を受けるためには、以下のとおり、自国に関係する要件を満たす必要があります:[32]

  • EVバッテリーに使用される特定の重要な原材料がアメリカ又は自由貿易協定の締結国において採掘、加工、又はリサイクルされていること、及び[33]
  • バッテリー部品がアメリカで製造又は組み立てられていること。

これに対し、中国は、世界貿易機関(WTO)に対し、IRAに基づく税額控除がWTOルールに合致しているかどうかを判断するため、小委員会(パネル)の設置を求める2度の要請をしました。アメリカは、2024年7月に中国が行った1度目の要請を拒否しており、アメリカの行動は気候変動に対処するために必要なものであって正当な行為だと反論しています。他方、中国は、IRAの補助金が輸入品よりもアメリカ国内製品を優遇しているため、このような差別を禁止するWTOルールに違反していると主張しています。今回、中国による2度目の要請を受けて、WTOの紛争解決機関(DSB)は、2024年9月23日、IRAの税額控除が国際貿易ルールに適合するかどうかを裁定する委員会を設置することで合意しました。[34]

解釈指針となるガイダンスの案では、外国企業は、次のような場合、FEOCとなるとされています。[35]

2024年、アメリカ合衆国内国歳入庁は、消費者が返金できない税額控除を申請するか、又は、ディーラーに税額控除を譲渡して販売時に自動車の価格を引き下げる選択ができるように、税額控除の利用方法を拡大することを計画している。

同法案の対象リストには、オーストラリア、カナダ、チリ、韓国、メキシコなど、米国と自由貿易協定を結んでいる20カ国が含まれている。

アメリカエネルギー省が2023年4月12日(https://www.federalregister.gov/documents/2023/12/04/2023-26479/interpretation-of-foreign-entity-of-concern)及び2023年12月1日(https://www.regulations.gov/document/IRS-2023-0059-0001)に発表した、インフラ投資・雇用法に基づくFEOCの定義。

…対象国の政府の管轄下にある。
…(対象国の政府によって)所有、支配され、又はその指揮の対象となる。

(i) 外国企業が、対象国において設立され、若しくは住所を有し、又はその主たる事業所を有する場合、又は

(ii) 特定のバッテリーにとっての重要な鉱物、部品又は材料に関して、外国企業が、対象国において、当該重要な鉱物の採掘、加工、若しくはリサイクル、当該構成部品の製造若しくは組立、又は当該材料の加工に従事する場合。

(i) 当該企業の取締役会の議席、議決権又は持分の25%以上を、直接・間接を問わず、1つ又は複数の中間企業を通じて、他の企業が累積的に保有している場合、又は

(ii) 特定のバッテリーにとっての重要な鉱物、バッテリー部品又はバッテリー材料に関して、当該企業が他の企業(請負業者)とライセンス契約やその他の契約を締結しており、当該他の企業が、その企業に帰属することになる重要な鉱物、バッテリー構成部品、電池材料の採掘、加工、リサイクル、製造、組立(以下、総称して「生産」という)を実質的に支配する権利を有している場合。

このような状況に応じて形成された新たなビジネス関係

中国企業は、アメリカの自動車メーカーとの合弁事業の形で存在感を増しています。

  • フォードは、ミシガン州に 35億米ドルの工場を建設中で、中国のCATL社の技術を使ってバッテリーを製造する予定です。
  • アップルのiPhoneを中国で製造しているフォックスコン社は、昨年、ローズタウン・モーターズと合弁会社を設立した後、オハイオ州でEVピックアップトラックを製造しています。
  • 中国のEVメーカーBYDは、メキシコでの足場固めのため、同地域でのバッテリー工場建設に本腰を入れています。[36]

世界の舞台では、中国企業が韓国企業と提携することにより、米韓のFTA(自由貿易協定)の恩恵を受けています。つまり、韓国製EVバッテリーをアメリカ製EVに搭載することで、IRA税制優遇措置を受けることができます。今年、中国企業と韓国の現地パートナーによって、価値にして約44億米ドルに相当する、5つのバッテリー材料工場の建設が発表されました。

  • セッコウ・ホワヨウ・コバルト社(浙江華友鈷業股分有限公司 / Zhejiang Huayou Cobalt Co.)は、LG Chem Ltdとの10万トンの電池前駆体工場、及びPOSCO Future M Co.との高純度ニッケル材料及び電池前駆体工場を立ち上げることに合意しました。
  • 中国のGME Resources社は、SK On社と提携して5万トンの電池前駆体工場を建設し、2024年に生産を開始することに合意しました。

その結果生まれるEVに対して、アメリカエネルギー省(DOE)が税額控除を認めるかどうかは、まだ分かりません。

DOEの指針によれば、中国国内で加工又は採掘された鉱物は、所有権の有無にかかわらず税額控除の対象外となるところ、IRAが中国における外国企業の事業にどのような影響を与えるかについては未知数です。

  • アメリカのアルベマール社は、来年初めまでに四川省で5万トンの水酸化リチウム転換工場を完成させる予定。
  • チリのSQMとアメリカ企業のアルカディウム・リチウムは、中国の新しいリチウム加工工場に投資している。

以上につき、問題の核心は、次の点にあるといえます。

  • もしアメリカ政府が、中国のパートナーとのバッテリー関連の取り組みがIRAに違反している、または違反するリスクがあると判断した場合、中国以外の国がサプライチェーンを多様化することは難しくなります(特に、アメリカの要求に応えるために、重要部品のサプライチェーンにつき、中国資本が関係しないバッテリーを用意する場合)。特に、アップストリームの生産・加工の大部分は中国企業によって支配されているのが現状です。
  • どの国もIRAの基準を満たせない場合には、IRAは、グリーン移行を促進するという目標を逆行させてしまう可能性があります。韓国は、中国企業がEVサプライチェーンのほぼ全体に支配を及ぼすことを認容しており、IRAを厳格に適用してしまうと、アメリカでEV製造に携わる企業はほとんど優遇措置を受けられないことになってしまいます。EVメーカーが、IRAの税制優遇措置よりも中国技術のコスト優位性の方が価値があると判断する場合もあるでしょう。

アメリカへの投資

イノベーションと研究をさらに推進し、国内のバッテリーサプライチェーンを守るために、DOEは以下のような財政的支援を提供しています:

  • EVメーカーやバッテリーのサプライヤーのニーズに対応したEVバッテリーの研究開発を進めるために、プロジェクトや先進バッテリーコンソーシアムへの1億3100万米ドル以上の資金を提供(2024年1月発表)。[38]
  • American Battery Solutionsによるリチウムバッテリーパックの製造に1億6590万米ドルの融資。これは、国内のサプライチェーンを強化するためにIRAが提供する追加的な融資権限を活用した、DOEの融資プログラム・オフィスが行っている多くの民間投資の一例にすぎません。
  • EVバリューチェーンの強化を目的とした155億米ドルの融資プラン。主に既存工場の再編に重点が置かれました。[39]

中国のEV/バッテリー業界を標的にした政策

サプライチェーンの多様化を目指すアメリカの取り組み

ここ数年、アメリカの国際政策は、その国内産業のさらなる保護のため、その範囲と強度を広げてきました。

ウイグル人強制労働防止法(UFLPA)

  • UFLPAは2022年6月に施行され、中国の新疆ウイグル自治区(XUAR)において、強制労働を用いて製造された製品から企業が利益を得ることを防ぐことを目的としています。
  • この目的達成のため、同法律は、強制労働に関連する商品をアメリカへ輸入することを禁止しています。

最終的に、自動車メーカーは厳しい選択を迫られるかもしれません。つまり、UFLPAに違反してでも、よりコスト効率の高いアップストリームサプライチェーンを維持するか、あるいは、新疆ウイグル自治区から離れて高価な海外ルートを選ぶかです。しかし、後者の選択肢を選ぶことは容易ではありません。理由は、世界最大の鉄鋼とアルミニウムの生産者が、新疆ウイグル自治区に移行しており、主要な自動車部品に使われる鉄鋼とアルミニウムが影響を受けるためです。

アメリカでの中国製EVに対する関税

  • 最近では、2024年5月、バイデン政権は中国製EVの輸入関税を25%から100%に引き上げました。これは、中国製車両がアメリカ市場に足場を築くよりも早く、アメリカ国内の産業保護に力を入れる姿勢を、米国選挙前の段階でアピールするものといえます。その背景には、中国が安価なEVをアメリカ市場に大量に流入させ、アメリカの自動車業界を脅かす可能性が高まっているという懸念があるものと言えます。[40]
  • 実際のところ、IRAの制限と新たな関税は、市場の供給過剰を緩和することを目的としています。これは、中国製EVで溢れているオランダのアントワープ(Antwerp)港やベルギーのゼーブルッヘ(Zeebrugge)港でも同様の状況です。この点に関して貿易戦争に発展することは双方にとって利益がなく、気候変動対策で協力(特に、共同のネット・ゼロ・エミッション目標の一環として、温室効果ガス削減での協力)をする、というという両国の合意に反するものといえます。[41][42]

EUにおける同盟形成と競争力の強化

重要原材料法(Critical Raw Materials Act)

EUは、2023年2月、競争力の強化のため、「グリーンディール産業計画」を発表しました。グリーンディール産業計画の一環として、重要原材料法が、欧州議会とEU理事会で現在審議中です。これらの取り組みは、EUにおける重要原材料を輸入に依存している状況に対処するもので、供給の多様化と、EU域内での持続可能な供給の確保を目的としています。具体的には、安全、持続可能、かつ、競争力のあるクリーンエネルギーのサプライチェーンを確保するために、主要なカーボンニュートラル又は「ネットゼロ」技術によるEU製造拡大を目的とするプロジェクトに資金提供がされることになります。資金供与されるプロジェクトの範囲は、鉱物探査活動を含み、重要原材料のための戦略的プロジェクトの特定がされます。[43]

欧州委員会は現在、EUの主要原材料の最新リストを3年ごとに発行しています。

欧州バッテリー同盟

欧州バッテリー同盟 (EBA)は、2017年に欧州委員会によって発足しました。ヨーロッパの業界関係者は、研究機関、公的機関、国家当局、欧州投資銀行と積極的に協力し、完全な域内バッテリーセル製造バリューチェーンを構築・維持することを目的としています。

EBAは2019年、「バッテリーに関する戦略的行動計画」を策定しました。この計画は、バッテリーのバリューチェーンのすべての分野を支援するための規制・非規制措置の包括的な枠組みを定めています。これらの措置には、以下が含まれます:

  • 原材料の確保
  • ヨーロッパにおけるバッテリーセルの本格的な生産と競争力のあるバリューチェーン構築に向けた支援
  • バッテリー分野における先進的で革新的な技術へのEUの研究・技術革新の強化を通じて、産業界におけるリーダーシップを強化
  • 高度な人材の育成・強化
  • EUバッテリー製造業の持続可能性への支援
  • バッテリーないしエネルギー貯蔵システムを支援するための、より広範な促進・規制枠組みとの整合性の確保

2024年1月、EITイノエナジー(EUの組織である欧州技術革新研究所が支援する、持続可能なエネルギーのためのイノベーション投資家)及びデメーター・インベストメント・マネージャー(ヨーロッパの大手プライベートエクイティ及びベンチャーキャピタル企業)は、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン及びコバルトを含む重要な鉱物の採掘及びリサイクルに焦点を当てた初期段階のアップストリームプロジェクトに投資することを主な目的として、戦略的バッテリー材料ファンドを立ち上げました。このファンドからの投資の少なくとも70%は、EU及び近隣諸国における鉱業、加工、精製、リサイクルによるEU国内生産を増加させるプロジェクトに充てられます。残りの30%は、カナダ、ナミビア、アルゼンチンなどの原材料にかかるパートナーシップ諸国からの原材料供給の増加に重点を置くこととされています。[44]

中国製EVの補助金調査

欧州委員会は、2023年10月、中国から輸入されるEVに対する反補助金調査を開始し、2024年10月4日、EUは中国製EVに対して5年間の追加関税を課すかどうかについて投票を行いました。欧州委員会が発表した声明によると、中国からのピュアEV(純電気自動車)輸入に関税を課すという提案は、5カ国からの反対にもかかわらず、EU加盟国から必要な支持を得ました。この投票の結果、欧州委員会は、BYD、吉利汽車、上海汽車などの中国の自動車企業に対して、最大45%の補助金相殺関税(CVD)を5年間課すことを決定しました。このEU関税案の採択後、中国商務部、ドイツ自動車工業会、及び、在EU中国商工会議所(CCCEU)は、EUの決定を批判しました。[45].関税に関するEUと中国の交渉は、投票後も続く可能性があります。[49][50]

このような展開にもかかわらず、中国の自動車メーカーは怯んでいないように見えます。BYDと吉利汽車傘下のVolvoは、消費者需要への対応のため、ヨーロッパにおいてEV生産のための新規投資を発表しました。中国のEV投資が厳しく精査されているアメリカとは異なり、EU加盟国はこれまで中国のEV投資を積極的に受け入れてきました。実際、EU加盟国は中国企業にインセンティブを提供するために競い合っている状況です。

EUは自らが作り出した潜在的なジレンマに直面しています。すなわち、EUは、2035年までに内燃機関を完全に廃止し、EVを普及させることを目標のひとつに掲げており、EV販売義務枠も急速に増加しています。安価な中国製EVが入手可能であることは、こうした目標の実現可能性を左右する重要な要素であることは間違いありません。もし、関税が、中国製EVをヨーロッパに輸入する欧米の自動車メーカーにも同様に適用されると仮定した場合、その悪影響はさらに大きくなる可能性があります。追加の規制や禁止措置が講じられない限り、これらの関税措置は、中国のEVメーカーがヨーロッパでより多くの製造拠点を設立することを促すだけかもしれません(現在、BYDがハンガリーに初の乗用車製造施設を建設し、ヨーロッパでの生産拠点となる予定です。)。その結果、地元の製造業者にさらなる圧力をかけることになります。これらのシナリオのいずれにおいても、消費者にとっては、価格の上昇という形で、より悪い結果となることが予想されます。[51]

持続可能なサプライチェーンの構築に向けた各国の取組み

各国は、重要な鉱物の特定と、持続可能な供給確保のための戦略を強化しています。

  • イギリスは2022年7月に「重要鉱物戦略」を発表し、2023年3月13日に「重要鉱物刷新」を発表した。
  • イギリスは、中国製EVについて、EUで走っているEVと同様の調査を開始するかどうかを検討している。これは、EUが調査の結果、輸入品に関税を課した場合、中国製EVがEUからイギリス市場に流れることが予想されるためである。[52]
  • オーストラリア、日本、韓国はそれぞれ、エネルギー安全保障に不可欠であると特定された重要な鉱物のリストを維持している。

グローバルな変化:協力とイノベーション

国内・自社製造への投資拡大

新たな規制の枠組みや枠組みの改善に加え、各国政府や企業は、自国内のバッテリー製造能力の拡大に多大な投資を行っています。

世界中の自動車メーカーは、サプライチェーンのマージンをコントロールし、鉱物の供給を確保するために、従来のビジネスモデルから、中国のような垂直統合モデルに転換しています。

  • アップストリームでは、フォルクスワーゲン、ステランティスはそれぞれ、鉱業会社ACGがブラジルのプライベート・エクイティ・グループであるAppian Capitalから2つの鉱山を買収する取り組みに、1億米ドルを投資しました。フォルクスワーゲンは、この投資を「鉱山から供給される将来のニッケルに対する前払い」と考えており、主にバッテリーセルのコストを削減し、自社の事業の需要を満たすことを目的としています。[53]
  • ダウンストリームでは、フォード、ゼネラル・モーターズがバッテリー工場を建設中です。
  • テスラは、バッテリー用リチウムを自社で生産するため、テキサス州でリチウム精製工場の建設に着工しました(精製リチウムの大部分を生産している中国のリチウム精製工場からの調達を削減するため)。[54]

ローカル化が進む国と国際化が進む国

EUやアメリカの企業は、バッテリー工場の建設や増設など、需要に対応するための新規採掘、精製、バッテリー生産プロジェクトの国内計画を発表しています。これらの企業は、リサイクル分野での新たなビジネスモデルも模索しています。主に、特定の場所でしか採掘できない原材料は、リサイクルすることによって、企業や国は、他国への依存を減らすことができます。これらの活動は、全体として、バッテリーサプライチェーンのローカル化を促進することを目的としています。

一方、中国のEV企業はますます国際化を進め、製造拠点を海外に拡張しています。新規投資の大半は、ヨーロッパ、ブラジル、東南アジアで計画されています。中国のバッテリーメーカーは、海外展開に伴い、多くのサプライチェーンも含めた展開をしており、これは、市場の需要の高まりと再構築の圧力に応じたものと考えられます。

一部の国は積極的に投資を誘致しようと試みており、2027年までに280億米ドルの外国投資を誘致するというタイの目標において、中国メーカーが主要ターゲットとなっています。中国企業は、タイの一連の税制上の優遇措置と補助金に応じて、新たな生産施設へ14億4000万米ドルを投資し、タイにおいて中国自動車技術研究センターを設立することを表明しています。[55][56]

グローバルな連携によるサプライチェーンの多様化とイノベーションの推進

国益を守る、というテーマがある程度強く語られる一方で、サプライチェーンの再編成と発展におけるリスクを軽減するために戦略的パートナーシップが活用されている例もあります。

  • サプライチェーン構築に向けた多国間の取組み

その一例が、鉱物安全保障パートナーシップ(MSP)です。MSPは、多様で持続可能な重要なエネルギー鉱物サプライチェーンの開発を加速させるための、新しい、アメリカ主導の野心的なパートナーシップです。オーストラリア、カナダ、韓国、イギリス、アメリカを含む15か国で構成され、ホスト国政府と産業の協力を通じて、戦略的プロジェクトに対する財政的・外交的支援を促進すること目的としています。MSPは、クリーン・エネルギー・バリューチェーン全体を対象にしたプロジェクトを検討しており、最近の声明では、採掘、抽出、二次回収、加工・精製、そして最終的にはリサイクルに至る23の非公開プロジェクトが進行中であることが示されました。このグローバルな取り組みは、これらの重要な鉱物の安定供給を確保するための第一歩として前進していますが、MSPのメンバーが直面しているサプライチェーンの脆弱性を完全に排除することはできません。また、加盟国の中には採掘可能な量の重要な鉱物が存在しないこともあり、中国など第三国への依存が依然として存在します。[57][58]

  • 重要な鉱物、製品及び部品を確保するための貿易取引

各国は、重要な鉱物(又は、サプライチェーン内において、それらから開発された製品及び部品)の調達のための新たな手段を検討しています。これまでのところ、アメリカは、2023年に日本との間で唯一の重要鉱物貿易協定(日米重要鉱物サプライチェーン強化協定)を結びました。この協定により、日本企業はEVバッテリー材料を供給する際にアメリカの税制上の優遇措置を利用できるようになりました。この協定によるポジティブな展望として、三菱ケミカルがアメリカに年間生産能力1万トン(EV10万台分に相当)のアノード材料の新たな生産拠点を設立する計画があります。アメリカは、また、イギリス、EU、ニッケルが豊富なインドネシアとも交渉中ですが、これらの交渉は準備段階にすぎず、時間がかかると見込まれます。[59][60]

現状では、中国のEVメーカーであるBYDは17.4%、吉利汽車は20%、上海汽車は38.1%の関税がかかります。これは、例えば、上海汽車の車両は、輸入EVに対する現行の一般関税10%に上乗せしてこの関税がかかることになり、ヨーロッパ市場に参入するために、総額48.1%の費用がかかることを意味します。 https://www.theparliamentmagazine.eu/news/article/interview-political-china-ev-tariffs-will-be-hard-to-undo

照明やレーザーに使用されるレアアースであるジスプロシウムの場合、中国は鉱物供給の84%、精製供給の100%を担っている。

ノルウェーのアノード新興企業であるビアノード社は、IRAの補助金により、ヨーロッパではなくアメリカで初めての大規模な合成グラファイトプラントを建設することを検討しています。同プラントは年間約50,000トンの合成グラファイトの生産能力を持つ予定です: https://source.benchmarkminerals.com/article/the-inflation-reduction-act-has-really-shifted-the-whole-battery-industry-towards-north-america-qa-with-vianode-ceo-hans-erik-vatne。ジョージア州ベインブリッジにあるアノビオン社の8億ドルの工場や、テネシー州チャタヌーガにあるノボニックス社の1億6000万ドルの工場など、アメリカでの合成グラファイト製造事業は、インフレ抑制法(IRA)とインフラ投資・雇用法(IIJA)による恩恵を受けることになります: Synthetic graphite for EV batteries: Can the West crack China's code? - MINING.COM

  • アメリカはオーストラリアでの取り組みを奨励

MSP加盟国間の協力も進んでいます。アメリカは近時、国防生産法の下でオーストラリアを国内供給源として指定し、オーストラリアがインフレ抑制法のクリーン・エネルギー・インセンティブの恩恵を受けることができるようにしました。その上で、オーストラリアに拠点を置く企業は、重要鉱物にかかるサプライチェーンや先進的な能力などの優先分野を支援するために、アメリカ政府から直接、融資、助成金、購買契約を受ける資格を得ることができます。[61]

  • 日本・カナダ間の物資協力における協力

中国のグラファイト輸出規制を受けて、日本は韓国に続き、カナダやアフリカでのEVやチップ材料の調達を検討しています。カナダ政府は、財政的、科学的、技術的な支援と引き換えに、日本独自のEVバッテリーサプライチェーンの構築のための日本からの新規投資に対し、補助金による支援をしています。また、日本は、ナミビア、アンゴラ等のアフリカ諸国と共同で鉱物開発に取り組むとともに、日本企業のアフリカへの進出・重要な鉱物資源の確保を支援することを表明しています。[62]

  • 企業間での協力と知識の共有

国レベルだけでなく、EV企業間レベルでも、協力が行われています。これまで触れてきた、中国による外国投資を奨励する例や、パートナーシップ・知識の共有を奨励の例のように、企業間での協力も、一部、国境を越えて行われています。

2023年7月、フォルクスワーゲンは小鵬汽車(Xpeng Motors)と技術提携を結び、中国で2種類のEVを発売することになりました。

最近では、テスラは百度(バイドゥ)と提携し、中国の道路において、テスラ車の自動運転機能に百度のマッピングとナビゲーション機能を使用することになりました。

チャイナプラスワン戦略: 東南アジア全域を含む、低コスト経済圏における産業の成長

チャイナプラスワン (China+1)は、インド、タイ、ベトナムなどの有望な発展途上国(中国以外の国・地域)へと製造投資を分散させるビジネス戦略です。

この戦略が最初に登場した当初は、製造・生産を低コストの発展途上国に移し、支出を削減することが目的とされていました。しかし、近年では、この戦略は、サプライチェーンの多様化を図る文脈でも用いられます。これに関係して、IRAの恩恵を受けるため、現在模索されているサプライチェーン再構築プランとして、南米やオーストラリアから原材料を調達し、それらをメキシコやカナダに出荷して加工し、最終的にアメリカでEVバッテリーとEVを組み立てるというものがあります。[63]

チャイナプラスワン戦略が、東南アジアの EV 業界で、どのように展開されるかの予測[64]

タイは、東南アジア最大の自動車生産・輸出国であり、インドネシアに次ぐ第2位の販売市場です。中国の影響により、既にタイの自動車産業は変革を始めており、中国のEVメーカーがサプライヤーを引き連れてタイに進出し、タイの地元企業も新たなパートナーシップを模索しています。昨年、中国は、日本を抜いてタイ最大の外国投資国となりました。タイ政府が中国のEVメーカーを積極的に誘致する中、BYDが2024年に操業開始予定の新工場に投資したことが大きな要因となっています。詳細については: China-led EV boom in Thailand threatens Japan's grip on key market | Reuters

中国企業はこの戦略をさらに洗練させています。その目的は、企業の産業用サプライチェーンの一部を新しい地域に移転することでビジネス関係を構築し、その過程で資源基盤を多様化し、最終的にはこれらの地域で新たな市場に参入することです。

中国企業がコバルト供給の大半を調達しているコンゴ以外にも、(欧米諸国の投資家の多くがまだ本格的に参入していない)アフリカにおいて、中国による数十億米ドル規模のリチウム取引が最近相次いでいます。セッコウ・ホワヨウ・コバルト(浙江華友鈷業股分有限公司 / Zhejiang Huayou Cobalt Co.)は、2021年にジンバブエのアルカディアにあるリチウム鉱山を4億2200万米ドルで買収し、さらに3億米ドルを投じて、アフリカ初の中国資本のリチウム精鉱プラントを建設しました。同プラントは現在、アルカディアで試験生産を開始しており、年間50,000トンの炭酸リチウム相当のリチウム精鉱の生産が見込まれています。[65][66]

アフリカ全土で新たなリチウム供給源を開拓する早期の動きは成果を上げ、2023年から2027年にかけて大陸全体でリチウム原材料の生産量が30倍以上に増加すると予測されています。アフリカは2022年には世界の供給量の1%であったのに対し、2027年には12%を占める見込みです。中国は、リチウムサプライチェーンの重要な部分を支配し続け、世界有数のリチウム精製業者であり続ける見通しです。[67][68]

アフリカの世界に対するリチウム供給の急増予測

アフリカの世界に対するリチウム供給の急増予測

結論

輸送分野におけるクリーンエネルギーの探求において、EVバッテリーは重要な役割を果たします。特に世界のEV市場が爆発的に成長している中で、そのサプライチェーンの確保は極めて重要です。現在のEVバッテリーのサプライチェーンにおいて、中国企業の存在感は否定できません。また、EV技術とバッテリー技術の進歩や、その規模の大きさからも、そのメリットを無視することは困難です。同時に、一部のプレーヤーは、より包括的なグローバルな取り組みを実現するために、サプライチェーンの多様化戦略を積極的に追求しています。様々な(そして、時には対立するかもしれない)考え方があることを認識しつつも、国や企業などの関係者が、自国の経済的な利益を、国際的な気候対策の目標と一致させることが、クリーンエネルギーへの移行を効果的に進めるためには理想的です。「ネットゼロ」エミッションに向けて前進するには険しい道のりがあり、世界全体で取り組む必要があり、これは、真にグローバルな取り組みといえます。その中で、EVやバッテリー技術は、重要な役割を果たす可能性を秘めています。

 

ビジネスにおける重要ポイント

  • サプライチェーンの多様化と脆弱性の監査:特にリチウム、コバルト、マンガン、ニッケル、グラファイトなどの重要な原材料について、単一の供給源への依存を減らす。
  • 製造場所の再評価:コスト的アドバンテージや戦略的な利点がある代替の製造場所の可能性を検討する。
  • リサイクルの機会を探る:使用済みバッテリーからの原材料のリサイクルをして、原材料の輸入依存を減らし、持続可能性をサポートする。
  • 規制の変更と貿易協定の監視:持続可能性に向けた規制の変化に遅れをとらず、内燃機関(ICE)車両の禁止やEV導入のインセンティブ、国際貿易協定など、新しい政策に適応できるようにする。
  • 戦略的パートナーシップの形成:リスクを軽減し、重要な材料の安定供給を実現するため、戦略的なパートナーシップの構築を検討する。
  • 政府の支援を求める:自国内のEVバッテリー生産を促進するための政府の取り組みから、財政支援の機会を探る。

エネルギートランジションの詳細については、以下を参照してください。また, ESGアップデートの購読もご活用ください。

参考資料

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クリーン・エネルギーへの移行に伴う日本独自の課題について語り、 Podcastを収録しました。

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