本稿では、海外からの日本のデータセンターへ投資する場合に考慮すべきメリットや法規制、立地選択のポイントについて解説する。
1. 日本のデータセンターの現状
(1) データセンターの増加
データセンター(以下「DC」という。)とは、サーバーやネットワーク機器を設置・運営することに特化した施設をいう。DCは、自らがクラウドサービス提供者であることもあるが、多くの場合、クラウドサービス提供者や企業から委託を受けて、サーバーやネットワーク機器を収容し、保守・運用を代行している。
近年は、デジタル化の進展に伴い、政府機関や事業者等が保有する個人情報やビッグデータ等の重要な情報が格納されている。今後、5Gや自動運転、AI分析などの普及に伴い、DCの役割は、益々大きくなっていくことが予想されている。
(2) 日本に有利な国際環境
データ量の増大に伴い、世界的にDCへの投資は飛躍的に増加している。この中で、日本の大規模DCの数は、2019年時に、米国が40%、中国が10%に次いで3位(7%)となっている[1]。
このようにデータの重要性が高まる一方で、各国の政府の中には、データ・ローカライゼーションの動きを強めている国がある。
これに対して、日本政府は、後述の通り、データの自由な流通を促進する立場を取り、データ・ローカライゼーション規制・ガバメント・アクセスを設けていない。そのため、今後、海外からも、政治的独立性の高い日本のDCへの投資は益々注目を集める可能性がある。
2. DCに関する法規制
(1) データ保護規制
日本は、次項の個人データに関する個人情報保護法上の規制を除き、量の多寡にかかわらず、データそのもの保管について、独自の業規制を設けていない。今後、経済安全保障等の観点から、インフラ等の重要データを固有に保護する業規制がなされる可能性はないわけではないが、現時点で、確実な立法の動きは見当たらない。
(2) 個人情報保護規制
DCが保管するデータが個人情報保護法の「個人データ」(16条3項)に該当する場合、当該データの個人情報保護法の規制が及ぶ。この場合、DCは、個人情報取扱事業者から、個人データの保管の委託を受ける立場である。
よって、個人情報保護法に基づき、個人データを適切に管理するための安全管理措置を取らなければならず、具体的には、組織的管理体制、人的管理体制、物理的管理体制、技術的管理体制を構築する必要がある。その他、個人情報保護法に定められた従業者の監督、第三者提供の制限などの規制を遵守する必要がある。
(3) 電気通信事業法
DCが、電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供する「電気通信事業」を営もうとする場合、電気通信事業法に基づき、原則として、総務大臣への登録又は届出を行うことを要する(電気通信事業法9条、16条1項)。
しかし、多くの場合、DCは、単に、大手クラウド事業者や電気通信事業者に対して、サーバー設置スペースの提供をするにすぎないと思われる。この場合、電気通信役務と判断されず、電気通信事業法の規制は受けない。
仮に、DC自身が、サービスの利用者に対して、インターネット接続やメールサービス等の他人の通信を媒介するサービスを提供する場合には、電気通信事業と判断される可能性がある。この場合、DCは、総務大臣への登録又は届出の他、電気通信主任技術者の選任義務や電気通信設備の技術基準への適合維持等の規制に対応する必要が出てくる(電気通信事業法45条、52条等)。
(4) ガバメント・アクセス
日本においては、データ・ローカライゼーションやガバメント・アクセスを定めた法令は存在しない。
この点は、海外の事業者が日本のDCを利用するメリットとなる可能性もある。
3. DCにかかる契約方法
(1) DCが提供するのがサーバー設置スペースの場合
多くの場合、DCがサーバー設置スペースを提供するサービスは、顧客との賃貸借契約と判断されると思われる。
ではさらに、借主を強く保護する借地借家法も適用されるか。借地借家法が適用される場合には、正当事由がないと契約の解約の申入れができないなど、賃貸人に不利な制限が強行規定として適用されることから、その適否が問題になる。
この点、借地借家法上の「建物」に該当するか否かについては、最高裁判例によれば、「障壁等によって他の部分と区画され、独占的、排他的な支配が可能な構造・規模」があるかにより判断される(最判昭42・6・2民集21-6-1433)。ただし、ビルの一部の場所と設備機械の賃貸借は、建物の賃貸借が否定された裁判例もある(東京地判昭61・1・30判時1222-83等)。
よって、借地借家法の適否は、DCが提供する個々のサービスの具体的な事情によって決まることになるので、サービスの提供の仕方はこの点を考慮する必要がある。
(2) DCが提供するのがクラウドサービスの場合
DCが顧客に直接クラウドサービスを提供する場合、通常は、当該サービス提供は、準委任契約となる場合が多いと思われる。この場合、借地借家法の適用はあり得ないことから、契約の自由度は高い。
4. 海外からの投資の際の留意点
(1) 投資スキーム
① TK-GK
海外から日本のDC設置等のプロジェクトに投資する場合、海外の投資家を匿名組合員として、日本の事業者を営業者とする匿名組合契約を使うことが多いと思われる。
但し、匿名組合員が現物不動産に対して共同投資しているとみられる場合には、不動産特定共同事業法上の不動産特定共同事業に該当し、国土交通省の認可が必要となる。
従って、スキームのストラクチャリングに際しては、不動産を信託して受益権化したり、あるいは、ローンと組み合わせるなどして、不動産特定共同事業法適用を回避するための工夫する必要である場合も出てくる。
加えて、海外からの投資の場合、海外投資家の所在国と日本との間の租税条約での匿名組合配当の源泉所得税の取り扱い等の税務面の取り扱いの確認も必須である。
② TMK
海外から日本の現物不動産に投資するのであれば、資産流動化法上の特定目的会社(TMK)を使って投資を行う場合も多い。ただし、TMKは、当初に財務局に提出する資産流動化計画に基づいて業務を行わなければならないほか(資産流動化法4条)、不動産の賃貸に係る業務の委託先は、宅地建物取引業者である必要がある(資産流動化法203条)など、厳格な規制がある。
よって、ストラクチャー構築の際にはTMKの選択が妥当か、慎重に検討する必要がある。
(2) ESGの視点
① 電力の省力化
DCは電力消費の大きな設備であり、今後のデータ処理量の増加によってエネルギー消費量の甚大な増加が見込まれる。
そこで、電力消費抑制の観点から、DCに対し、エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)に基づくベンチマーク制度が適用されるかどうかについて注意が必要である。
このベンチマーク制度は、業種ごとの中長期的な省エネの取組の促進を目的とする。業種別に目指すべき省エネの水準(ベンチマーク目標)を定めており、年間のエネルギー使用量が原油換算1,500kL以上である対象事業者は、毎年、定期報告書においてベンチマーク指標を報告することが求められる。
この点、2022年、データセンター業(データの処理を目的とした、データセンターを運営し、又は利用し、情報処理に係る設備又は機能の一部を提供する事業)もベンチマーク制度の対象業種に追加されたことから、対象事業者となるDCは、2023年7月から2022年度のエネルギー使用量の報告が求められることになる。
② 再生可能エネルギーによる電力供給
DCは電力消費が大きく、脱炭素の観点から、できる限り再生可能エネルギーの活用を進めることが重要である。よって、立地選択においては、付近に再生可能エネルギーの発電施設があり、電力供給を受けることができるかどうかも検討することが多い。
また、DCが太陽光等の自然変動電源により供給される電力を受ける場合、より安定的に最大限活用するために、蓄電池の導入も考えられる。
(3) その他立地選択について考慮すべきこと
① レジリエンス
日本は地震や津波などの自然災害が多いことから、立地場所におけるこれらの災害可能性やこれに対するレジリエンス(災害時の通信の強さ)を確認する必要がある。
よって、地盤の強固性や海外線から距離などの地理データも調査する必要がある。
② 海底ケーブル
日本のDCを海外事業者が活用する場合、日本は海に囲まれていることから、DCの立地の決定に際しては、海底ケーブルの敷設状況も確認する必要がある。日本の海底ケーブルの陸揚げ拠点は、南房総から北茨城と志摩のエリアに集中しているが、将来の海底ケーブルの敷設可能性も含め、検討することが求められる。
また、インターネットサービスプロバイダの相互接続点であるインターネットエクスチェンジ(IX)も、海底ケーブルとともに、DCと一体的に機能する。この点、インターネットエクスチェンジは東京圏に集中していたものの、2011年の東日本大震災以降、大阪その他の地域にも拡大しつつある。このような将来のインターネットエクスチェンジの設置予定もDCの立地選択において考慮する必要がある。
5. まとめ
以上のように、日本のDC設置について、法規制は厳格ではなく、自由度が多い一方、電力供給、立地選択、投資ストラクチャーの構築には慎重な検討と判断が必要とされる。
以上
注釈
[1] https://www.srgresearch.com/articles/hyperscale-data-center-count-passed-500-milestone-q3