クリスマスに賛同する七面鳥のように自殺行為を図るものを誰が信じるでしょうか。
商事調停の利用拡大を提唱する紛争担当弁護士を誰が信じるのでしょうか。そう多くはないと思います。しかし、それは、クライアントが調停のコスト削減価値を認識しており、一部の弁護士は調停の促進を望まないと認識されているからです。残念なことに、他の世界であれば、国境を越えてビジネスを行う日本企業により支持されたであろう手続に対して、今の日本では親和性と信頼性は低いものとなっています。調停は、、潜在的に高価で、時間のかかる困難な問題を解決するのに適しています。またしばしば良好な関係を維持するのにも適しています。特に日本に対して言えますが、日本に限らずどの地域でも調停は、最初に検討されるべき正式な紛争解決手段の一つであるべきです。以下が、その根拠です。
- シンガポール及びロンドンの国際商事調停センターが報告した成功率(過去10年間):80~90%
- 平均所要期間(準備期間を含みません):1日。これに伴うコストと時間の節約は重要であり、過小評価することはできません。
- 手続に関するコントロール-調停者は、裁判官や仲裁廷とは異なり、討議を容易にし、当事者が合意に至ることを奨励するためにのみ、手続を関与します。すべての当事者の同意がなければ、何も起きません。
- 秘密保持 - 調停中に行われたこと、又は調停中に生じたことは、他のいかなる手続においても報告又は使用することができません。調停で行われたことは、調停の場に留まることになります。
- 一見扱いにくい法的な紛争であっても、より独創的な商事的解決策で対処する余地があります。裁判所又は仲裁廷では、事実及び法的評価に基づいて適切な法的救済を決定することに限定されていますが、調停者は、商事的な解決のための合意に至る交渉を促進することができます。ここでいう商事的な解決とは、例えば、紛争の対象となっているものの売却、将来の事業に関する契約、合意された/修正された条件でのブランドや特許のライセンス供与などです。そして、その焦点は過去の争いではなく、将来の関係やビジネスの可能性にあります。
- 良好な関係の維持-調停はすべての当事者が少し不満を感じるものとしばしば言われますが、調停は敵対的な手続ではなく、より広範な解決策を提供する可能性があります。そのため、既存の関係を維持することができ、場合によっては建設的な対話を通じて既存の関係を強化することさえも可能となります。
- 執行-今月、調停和解契約の執行に関するシンガポール条約が制定され、日本、インド、中国、米国を含む50もの国が支援を表明しています。これは、調停和解契約の執行が、1958年のニューヨーク条約に基づく外国仲裁判断と同様に簡便であることが分かります。(このように簡便であるにもかかわらず、実務上当事者が調停和解契約を履行しないことは珍しくありません。)
対照的に、仲裁や裁判所で終われば、当事者は何年にもわたって苦しい手続を経ることになり、何十万ドル(数百万ドルに及ぶこともあります)を費やして、予測不可能な結果を得ることになります。そこには、成功の保証はほとんどなく、当事者の関係を救う希望もほとんどありません。「勝者」はほとんど存在しません。
日本は信頼関係や忠誠心を重んじる社会で伝統的に訴訟を嫌い、協調的な問題解決を通じて調和を維持することを好むと知られています。とすれば、国際的な商事調停は、日本企業と国際的な企業間の紛争解決のために、きめ細かく解決が図られる手段のように思われます。むしろ、何を失うことになるのでしょうか。全体的なスキーム上、事実上失うものはなにもありません。調停は、すべての事案おいて適切ではないかもしれませんが、その解決方法を模索することによって失うことはほとんどなく、成功すれば、利益を得ることが出来ます(失うことよりも得る利益の方がはるかに多いです)。
では、成功するためには何が必要でしょうか。以下に3つの重要な要素を示します。
- 適切な調停者を選ぶこと-すべての当事者から評価され、法的、技術的、対人的スキルを十分に持ち合わせた者を選ぶことが重要です。また、解決策を模索し、積極的に解決のために働きかけるためには、創造的で、かつ商業的志向を持ち合わせることが必要です。調停者は、「積極的に」話を聞くことができ、いつ後押しすべきかを見極めることのできる者であることも重要です。
- すべての関係者が真剣に取り組み、意思決定権を有する代表者が関与することが必要です。代表者が直接関与しなくても、少なくとも調停の過程において、代表者に連絡可能な状況にしなければなりません。
- 準備 - これは、事実や法的利点だけでなく、コスト、評判、所要時間等の面でも、どちらの側に損か、あるいは、商業的に利得を獲得するのはどちらかについて及ぶべきです。当事者がゲーム理論分析又はBATNA/ZOPAの計算を採用しているかにかかわらず、調停が成功すれば、関係者全員が自分たちの立場の現実に生きていることになります。それまでのように、自分たちが正しく、正義が勝つという仮定の下で進められるものではありません。調停者は、事案が正しさか、誤っているかを判断するのではなく、裁定や判断が下されることはありません。調停者は、当事者の唯一の目的である商業的に受け入れられる取引を達成しようとしていることを理解しなければなりません。
第4の重要な要素となりうるのは、調停契約そのものです。多くの場合、どちらの当事者も調停を考慮していないため、弱点を示してしまう可能性があります。契約の紛争解決条項に調停条項を標準的な選択肢として組み入れることにより、心理的な駆け引きの大部分を取り除くことができます。それにより、調停は、当事者が紛争の過程のある時点で検討すべき選択肢の1つに過ぎなくなり、調停がなぜ提案されたのかより、なぜ調停が提案されなかったのかに焦点があたります。
そして、たとえ和解に至らなかったとしても、成功したといえるかもしれません。当事者が、主な国際紛争手続の敵対的性質によって生じている誤解を解くことができ、何が重要かを絞り込むことができたかもしれないからです。これは、その後の和解に至る道のりを切り開くことにつながる可能性があります。この状況は、特にまれなものではありません。ロンドンでは、調停により解決した事例の約22%が調停日直後に解決しています。これにより、適度な金額が大半の事案において費やされたといえます。
唯一残されている質問としては、現時点で、クリスマスに調停を選択し、夕食に菜食主義を推奨する七面鳥の数が何羽いるかです。