2021年5月21日、特許法等の一部を改正する法律(令和3年法律第42号)(以下「改正法」といいます。)が公布され、特許法、実用新案法、意匠法、商標法、工業所有権に関する手続等の特例に関する法律、特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律及び弁理士法が改正されました。
本改正の概要は、以下のとおりです。
(1) 新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化対応等の手続の整備
① 審判口頭審理のオンライン化
特許の無効審判等は、従来、審判廷に出頭し対面で口頭審理を行うことが必要でしたが、本改正により、審判長の判断で、当事者等が審判廷に出頭することなくウェブ会議システム等を通じて口頭審理にオンライン出頭することができるようになります。
② 特許料等の印紙予納の廃止・料金支払方法の拡充
出願料や審査請求料、特許料等の支払方法について、印紙で事前に納付しておく印紙予納制度が廃止され、口座振込等による予納ができるようになります。
また、現在オンライン手続での利用に限定されているクレジットカード支払等が窓口でも利用可能となります。
③ 意匠・商標国際出願手続のデジタル化
従来、国際意匠・国際商標の出願における特許庁による海外出願人に対する登録査定の通知は、登録査定謄本の国際郵便による送達により行われていましたが、本改正により、世界知的所有権機関(WIPO)を経由した電子送付により行うことができるようになります。
また、国際商標出願・登録に係る手数料の納付について、出願時と商標権の設定登録時の二段階に分けて納付する方式が廃止され、出願時に一括して納付する方式となります。
この他、国際意匠出願において、従来は、願書と新規性喪失の例外を示す証明書(例外適用証明書)の提出時期・提出先が異なっていましたが、本改正により、願書と例外適用証明書をまとめて世界知的所有権機関(WIPO)に提出することができるようになります。
④ 災害等の理由による特許料等の納付期間徒過後の割増料金免除
感染症拡大や災害の発生など特許権者の責めに帰することができない理由によって特許料等の納付期間を徒過した場合に、相応の期間内において割増特許料の納付が免除されるようになります。
(2) デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した権利保護の見直し
① 海外からの模倣品流入への規制強化
産業財産権の権利侵害となるのは事業として行われる行為に限られることから、個人使用目的での模倣品の輸入等の行為は権利侵害とならないとして規制の対象とされていなかったため、個人使用目的での輸入を仮装しての模倣品の流入を阻止できませんでした。本改正により、海外事業者が模倣品を郵送等により日本国内に持ち込ませる行為が新たに権利侵害行為と位置付けられ、個人使用目的での模倣品の輸入等について、海外事業者に対して権利侵害を主張することが可能となります。
② 特許権の訂正審判等における通常実施権者の承諾の不要化
従来は、特許権の訂正審判を申し立てる場合に通常実施権者全員の承諾が必要とされていたため、デジタル技術の進展に伴いライセンス態様が複雑化する中で全ての通常実施権者の承諾を得ることが現実的に困難であり、特許権の訂正等が難しくなっていました。このような状況に対応するため、本改正により、特許権の訂正等における通常実施権者の承諾が不要とされました。なお、専用実施権者、質権者がいる場合にこれらの者の承諾が必要であることについて変更はありません。
③ 特許権等の権利回復要件の緩和
特許権等が手続期間の徒過により消滅したとしても、期間を遵守できなかったことについて「正当な理由」が認められる場合には権利を回復することができる権利回復制度がありますが、従来、「正当な理由」の認定が厳格であり、諸外国と比較して権利回復が認められる比率が大幅に低く、要件の緩和が求められていました。このため、本改正により、権利回復の要件が緩和され、故意に申請期間内に申請をしなかったと認められない限り権利回復できるようになりました。
(3) 知的財産制度の基盤強化
① 特許権侵害訴訟等における第三者意見募集制度の導入
特許権侵害訴訟の結果は、訴訟当事者だけではなく、他の業界の事業活動や社会生活等にも大きな影響を与えることに鑑み、裁判所が独自に意見の募集を実施したという事例はありましたが(アップル対サムスン事件(知財高裁平成26年5月16日判決・平成25年(ネ)第10043号))、法律上の制度に基づくものではありませんでした。本改正により、当事者の申立てに基づき裁判所が必要と認める場合は、広く第三者から裁判に必要な事項についての意見を募集し、当事者が証拠として提出できる制度が導入されます。
② 特許料等の料金体系の見直し
審査負担の増大や手続のデジタル化等に対応し、特許特別会計の収支バランスの確保を図るため、特許料・登録料等の上限額の引き上げ等の料金体系の見直しが行われます。
③ 弁理士制度の見直し
農林水産品に関する知的財産権(植物の品種登録・地理的表示)についての相談業務や海外出願支援業務が弁理士の業務として弁理士法に明記される等の弁理士制度の見直しが行われます。
改正法のうち、上記(1)(商標国際出願手続、窓口でのクレジットカード支払等を除く。)については、令和3年10月1日に施行されました。上記(2)(①海外からの模倣品流入への規制強化を除く。)、(3)及び窓口でのクレジットカード支払等については、令和4年4月1日に施行される予定です。商標国際出願手続及び(2)の①海外からの模倣品流入への規制強化については、今後別途政令により施行期日が定められます。
https://www.meti.go.jp/press/2021/09/20210914001/20210914001.html
本改正には、審判口頭審理のオンライン化、意匠・商標国際出願手続のデジタル化、海外からの模倣品流入への規制強化、特許権の訂正審判等における通常実施権者の承諾の不要化、特許権侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入、特許料等の金額の見直し等、企業の知財実務への影響が大きな改正も含まれているため、内容を詳細に確認のうえ、実務対応を更新する必要があります。