令和4年4月27日、道路交通法の一部を改正する法律(令和4年法律第32号)(以下「改正道路交通法」といいます。)が公布され、令和5年4月1日、施行されました。
これにより、「レベル4」の自動運転(特定条件下における完全自動運転)が解禁し、また、歩行者と同様に自動配送ロボット等の遠隔操作型小型車による公道走行が可能となりました。
そこで、本稿では、改正道路交通法について概観していきます。
第1 改正道路交通法成立の背景
自動運転技術は、交通事故の削減や渋滞の緩和等に有効な技術とされ、近年、警察庁により、道路交通環境に応じた自動運転が早期に実用化されるよう積極的な支援が行われています。
また、令和3年11月19日に閣議決定された「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」において、「デジタル田園都市国家構想[1]」実現のため、地方からデジタル実装を進め、地方と都市の差を縮めるため、自動配送について関連法案を提出するなどし、また、デジタルを活用した、意欲ある地域に自主的な取組を応援するための交付金を大規模に展開し、自動運転等の更なる推進を図り、デジタルイノベーションを地方から実装する必要性が確認されました。
これを踏まえ、改正道路交通法では、「特定自動運行」と「遠隔操作型小型車」について法整備がされ、特定自動運行の許可制や遠隔操作型小型車の届出制が創設されました。
第2 特定自動運行の許可制
1 前提(自動運転のレベル分けについて)
まず前提として、自動運転は、次の1から5までのレベル分けがされています。
レベル1 |
運転支援(システムが前後・左右のいずれかの車両制御を実施) 例:自動ブレーキ、前の車に付いて走る、車線からはみ出さない |
ドライバーによる監視 |
レベル2 |
特定条件下での自動運転機能 例:高速道路での自動運転モード機能(自動追い越し、自動分合流) |
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レベル3 |
条件付自動運転(システムが全ての運転タスクを実施するが、システムの介入要求等に対してドライバーが適切に対応することが必要) |
システムによる監視 |
レベル4 |
特定条件下における完全自動運転(特定条件下においてシステムが全ての運転タスクを実施) |
|
レベル5 |
完全自動運転(常にシステムが全ての運転タスクを実施) |
これまではレベル3までの自動運転が可能でした。
例えば、レベル2の自動運転としては、NISSAN(日産自動車株式会社)が「ProPILOT (プロパイロット)2.0」という機能を搭載した「日産アリア」「セレナ」を発売しました。この発売に際しては、俳優の木村拓哉さんと松たか子さんがCMで共演し、木村さんが高速道路走行中にハンドルから手を放して走行するシーンでも話題になりました。
また、レベル3の自動運転としては、HONDA(本田技研工業株式会社)が、令和3年3月5日、自動運転レベル3に適合する技術として国土交通省から指定を受けた「Honda SENSING Elite(ホンダ センシング エリート)」を搭載した新型「LEGEND(レジェンド)」を発売しました。
今回の改正道路交通法によって、レベル3から1段階レベルが引き上げられ、「レベル4」の自動運転が解禁となりました。このレベル4の自動運転は、改正道路交通法において、「特定自動運行」と定義されています。
2 特定自動運行の定義
「特定自動運行」とは、改正道路交通法第2条第1項第17号の2において定義されていますが、簡単に言いますと、自動運行装置(プログラムにより自動的に自動車を運行させる装置)を使用条件に従って使用し、運転者がいない状況下で自動車を運行することをいいます。
特定自動運行は、自家用車の用途ではなく、過疎地域や高速道路における無人自動運転移動サービス(人の移動や物流)としての利用が想定されています。この点、経済産業者は、令和5年3月31日、2024年(令和6年)度に新東名高速道路の一部区間(駿河湾沼津~浜松間)について深夜時間帯における100km以上の自動運転車用レーンを設定し、自動運転トラックの運行の実現を目指すとともに、2025年(令和7年)度までに全国50箇所、2027年(令和9年)度までに全国100箇所で自動運転による移動サービスが実施できるようにすることを目指すと発表しました。
※経済産業省・国土交通省は、令和3年2月22日に新東名高速道路の遠州森町パーキングから浜松サービスエリア(約15km)において、後続車の運転席を無人にした状態でのトラックの後続車無人隊列走行技術を実現しています。その際の実証実験の様子を撮影した動画が、経済産業省のYouTubeチャンネルに投稿されています。
https://www.youtube.com/watch?v=GZf19fC_DPw
※改正道路交通法ではなく、道路運送車両法に基づくものではありますが、令和5年3月30日、国内で初めて、福井県永平寺町で移動サービスとして運行する車両が、運転者を必要としない自動運転車(レベル4)として認可されました。後述にてご説明いたします、改正道路交通法に基づく特定自動運行の許可が得られた場合には、公道において、運転者を配置せずに自動運転移動サービスが実現します。
<経済産業省によるニュースリリース>
https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230331002/20230331002.html
3 特定自動運行の許可要件
特定自動運行を行う場合には、特定自動運行を行おうとする場所を管轄する公安委員会に対して、特定自動運行計画等を記載した申請書を提出し、公安委員会の許可を受けなければなりません(改正道路交通法第75条の12第1項及び第2項)。
特定自動運行について公安委員会の許可を受けた者を「特定自動運行実施者」といい(改正道路交通法第75条の16第1項)、特定自動運行主任者など特定自動運行に関する業務に従事する者を「特定自動運行業務従事者」といいます(改正道路交通法第75条の19第1項)。特定自動運行主任者になるためには、両眼の資力又は両耳の聴力を喪失しておらず、特定自動運行を行うために必要な設備を適切に使用できることなどが必要です(改正道路交通法第75条の19第2項、改正道路交通法施行規則第9条の28)。
公安委員会は、特定自動運行の許可をするにあたり、以下の基準に従って審査します(改正道路交通法第75条の13第1項)。
① 自動車が特定自動運行を行うことができること。
② 特定自動運行が自動運行装置に係る使用条件(道路運送車両法第41条第2項)を満たすこと。
③ 特定自動運行実施者又は特定自動運行業務従事者が実施しなければならない措置について、円滑かつ確実な実施が見込まれること。
④ 特定自動運行が他の交通に著しく支障を及ぼすおそれがないと認められること。
⑤ 特定自動運行が人又は物の運送を目的とするものであって、当該運送が地域住民の利便性又は福祉の向上に資すると認められること。
なお、以下のいずれかに該当する場合には、特定自動運行の許可は付与されません(改正道路交通法第75条の14)。
ⅰ 特定自動運行の許可を取り消され、取消しの日から5年を経過していない者(許可を取り消された者が法人である場合には、取消原因事実が発生した当時、法人の役員として在任した者で取消しの日から5年を経過していないものを含む)
ⅱ 許可を受けようとする者が法人である場合において、当該法人の役員がⅰに該当する者
4 罰則
特定自動運行に関する規定に違反した場合、特定自動運行の許可取り消しや効力の停止だけでなく、刑事罰の対象となる可能性があります。
⑴ 特定自動運行の許可取り消し等
特定自動運行実施者が以下のいずれかに該当する場合、公安委員会から特定自動運行の許可を取り消され、又は6か月を越えない範囲内で特定自動運行の許可を停止される可能性があります(改正道路交通法第75条の27)。
① 特定自動運行実施者又は特定自動運行業務従事者が、特定自動運行に関して改正道路交通法等に違反したとき。
② 特定自動運行計画が許可基準(改正道路交通法第75条の13)に適合しなくなったとき。
③ 特定自動運行実施者が欠格事由(改正道路交通法第75条の14)に該当したとき。
⑵ 刑事罰
特定自動運行に関する改正道路交通法違反については、刑事罰が科せられるものがあります。主な違反行為と法定刑は、次のとおりです。
違反行為 |
法定刑 |
無許可での特定自動運行 偽りその他不正の手段による特定自動運行許可の取得 |
5年以下の懲役又は100万円以下の罰金(改正道路交通法第117条の2第2項第3号及び第4号) |
特定自動運行主任者による交通事故で死傷者があった場合における措置義務違反 |
5年以下の懲役又は50万円以下の罰金(改正道路交通法第117条第3項) |
特定自動運行における交通事故で死傷者がなかった場合における措置義務違反 |
1年以下の懲役又は10万円以下の罰金(改正道路交通法第117条の5第2項) |
特定自動運行上の注意義務違反等による他人の建造物の損壊 |
6か月以下の禁錮又は10万円以下の罰金(改正道路交通法第116条第2項) |
5 自動運転における損害賠償責任
改正道路交通法により自動運転がレベル4に引き上げられ、我々の日常生活の利便性は増々向上しますが、一方で、もし万が一、レベル4の自動運転中に交通事故が発生した場合、誰が損害賠償責任を負うのかが問題となります。
前提として、民法の特別法である自動車損害賠償保障法第3条は、自己のために自動車を運行の用に供する者、いわゆる運行供用者(自動車所有者等)に、事実上の無過失責任に基づく損害賠償責任を負担させています。
レベル4の自動運転は、特定条件下ではあるものの、完全自動運転であるため、運転手がいません。そのため、損害賠償責任の主体としては、自動車の所有者や自動車運送事業者等が考えられます。
この点については、国土交通省自動車局が平成30年3月に取りまとめた、自動運転における損害賠償責任に関する研究会の報告書においても、自動運転レベル0から4までの自動車が混在する当面の過渡期においては、従来の上記運行供用者責任を維持し、自動車の所有者や自動車運送事業者等が損害賠償責任を負うことが適当あるとされています。
もっとも、外部からのハッキングにより引き起こされた事故の損害については、自動車の保有者等が必要なセキュリティ対策を講じておらず、保守点検義務違反が認められる場合等を除き、政府保証事業により損害の填補をすることが適当であるとされています。
第3 遠隔操作型小型車の届出制
1 遠隔操作型小型車とは
「遠隔操作型小型車」とは、人又は物を運送する小型の車で遠隔操作により通行させることができるもののうち、車体の大きさや構造が歩行者の通行を妨げるおそれがなく、かつ、非常停止装置を備えているものをいいます(改正道路交通法第2条第1項第11号の5)。
具体的な構造等は、次のとおりです(改正道路交通法施行規則第1条の6及び7)。
車体の大きさ |
長さ120cm×幅70cm×高さ120cm |
車体の構造 |
・原動機として電動機を用いること。 ・6km/hを超える速度を出すことができないこと。 ・歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がないこと。 |
非常停止装置 |
・押しボタン(車体の前方及び後方から容易に操作できるものに限る。)の操作により作動するものであること。 ・押しボタンとその周囲の部分との色の明度、色相又は彩度の差が大きいことにより押しボタンを容易に識別できるものであること。 ・作動時に直ちに原動機を停止させるものであること。 |
遠隔操作型小型車としては、主に自動配送ロボットが想定されています。自動配送ロボットとは、自動で走行して、物流拠点や小売店舗などの様々な荷物や商品を配送するロボットをいいます。
※経済産業省のWebページにおいて、経済産業省も協力して作成された自動配送ロボットを紹介するYouTube動画(「もっと身近に自動配送ロボットのいま」)を視聴することができます。
<経済産業省のWebページ>
https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/deliveryrobot/index.html
<YouTube動画「もっと身近に自動配送ロボットのいま」>
https://www.youtube.com/watch?v=wHg16wZe500
遠隔操作型小型車は、歩行者と同視されるため(改正道路交通法第2条第3項第1号)、通行場所も歩行者と同様、歩道や路側帯、車道の区別のない道路においては道路の右側端に寄って通行しなければなりません。ただし、遠隔操作型小型車が歩行者の通行を妨げることになるときは、歩行者に進路を譲らなければなりません(改正道路交通法第14条の2)。
2 届出制
遠隔操作型小型車の使用者は、次の事項を、遠隔操作型小型車を通行させようとする場所を管轄する公安委員会に届ける必要があります(改正道路交通法第15条の3第1項)。
① 遠隔操作型小型車の使用者の氏名又は名称及び住所、法人の場合には代表者の氏名
② 遠隔操作型小型車を遠隔操作により通行させようとする場所
③ 遠隔操作型小型車の遠隔操作を行う場所及び連絡先並びに遠隔操作のための装置等
④ 運送される人又は物の別及び運送方法
⑤ 非常停止装置の位置及び形状
⑥ 大きさ、原動機の種類及び構造上出すことができる最高の速度(改正道路交通法施行規則第5条の4第2項)
3 罰則
遠隔操作型小型車に関する規定に違反した場合、公安委員会による指示だけでなく、刑事罰の対象となる可能性があります。
⑴ 遠隔操作型小型車の使用者に対する指示
公安委員会は、遠隔操作型小型車の使用者が改正道路交通法等に違反した場合において、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要があると認めるときは、遠隔操作型小型車の使用者に対し、道路の通行停止等の必要な措置を取ることができます(改正道路交通法第15条の6)。
⑵ 刑事罰
遠隔操作型小型車に関する改正道路交通法違反については、刑事罰が科せられるものがあります。主な違反行為と法定刑は、次のとおりです。
違反行為 |
法定刑 |
無届出により、又は虚偽の届出をして、道路において通行させるため遠隔操作型小型車の遠隔操作を行ったとき |
30万円以下の罰金(改正道路交通法第119条の2の2第1号) |
公安委員会による指示(改正道路交通法第15条の6)に従わなかったとき |
30万円以下の罰金(改正道路交通法第119条の2の2第2号) |
4 自動配送ロボットにより新たに生まれるビジネス
自動配送ロボットは、EC市場(電子商取引に関する市場)の拡大等により宅配需要が急増する中、物流分野における人手不足や買い物弱者対策などの課題解決が期待されています。
また、その他にも、次のような新たなビジネスが生まれることが予想されます。
- 自動配送ロボットの機体開発
- 自動配送ロボット向けの保険
- 配送サービス(物流拠点・小売店などから一般家庭への配送、移動販売など)
- 自動配送ロボットの環境整備(充電・メンテナンス場、通信インフラ、遠隔監視システムなど)
第4 最後に
改正道路交通法は、令和5年4月1日に施行したばかりです。
我々の日常生活の利便性がどのように高まるのか、一方で、交通事故等による我々に対する危険はないのか、特定自動運行及び遠隔操作型小型車の運用状況等については、引き続き注視する必要があると考えます。
<関連URL> ○道路交通法の一部を改正する法律(令和4年法律第32号) |
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