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貿易保険法の改正について

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 2020年初めからの新型コロナウイルスの世界的蔓延、昨今のロシア・ウクライナ情勢等の日本企業の国際的な事業展開を取り巻く環境の変化に対応して、円滑な外国貿易その他の対外取引の進展を図るため、「貿易保険法の一部を改正する法律」(以下「改正法」といいます。)が本年4月8日参議院で可決され、4月15日に公布されました。

 貿易保険は、貿易保険法に基づいて、企業の外国貿易その他の対外取引において生ずる危険のうち民間保険では塡補できない非常危険(契約当事者の責任でない不可抗力的なリスク)及び信用危険(海外の契約相手方の責任に帰せられるリスク)を塡補する全額政府出資の特殊会社である株式会社日本貿易保険(以下「NEXI」といいます。)が行う保険であり、普通貿易保険、出資外国法人等貿易保険、貿易代金貸付保険、為替変動保険、輸出手形保険、輸出保証保険、前払輸入保険、海外投資保険及び海外事業資金貸付保険が現行法で定められています。改正法の概要は以下のとおりです。

(1)  新型コロナ等を踏まえた貿易保険の補填事由の拡大

 普通貿易保険及び出資外国法人等貿易保険のうち、輸出等に際して発生した追加費用を対象とする保険の塡補事由は、現行法では「戦争、革命又は内乱」に限定されていますが、改正法により、感染症や自然災害等を含む本邦外において生じた事由であって当事者の責めに帰することができない事由全般に拡大されます(改正法第44条第2項第5号及び第48条第2項第4号)。

 これにより、例えば、海外においてプラントを建設中の日本企業が新型コロナ等の感染症の発生・拡大の影響により工事の中断を行った場合、工事中断により生じた従業員の退避費用等についても保険金の支払いを受けることが可能となります。

 また、普通貿易保険及び出資外国法人等貿易保険のうち輸出不能を対象とする塡補事由に、取引相手方の債務の履行遅滞が追加されます(改正法第44条第2項第1号ヌ及び第48条第2項第1号リ)。さらに、為替変動保険、輸出手形保険及び輸出保証保険を除く全ての保険の塡補事由に、相手方の破産手続開始決定に加えて会社更生手続等の破産に準ずる手続が追加されます(改正法第44条第2項第2号二、第48条第2項第2号ニ、第51条第2項第4号、第66条第2項第4号、第69条第2項第5号及び第71条第2項第4号)。

(2)  サプライチェーン強靭化に向けた海外投資保険、前払輸入保険の対象の拡大

 海外投資保険が填補する損失は、現行法では直接投資先に生じた損失に限定されていますが、改正法により、日本企業の間接投資先(再投資先等)に生じた損害によって日本企業に生じた損失が追加されます(改正法第69条第2項第1号)。

 例えば、日本企業の直接投資先のA国企業がさらにB国企業に再投資した場合であって、後にB国の情勢不安によりA国企業が有するB国企業の株式がB国政府により奪われた場合に、日本企業が受けた損失について保険金の支払いを受けることが可能となります。

 また、「前払輸入保険」を「前払購入保険」とし、前払輸入保険の対象に、本邦への輸入に加え、仲介貿易における前払金が追加されます(改正法第2条第15項)。これにより、サプライチェーンの中で日本企業に生じうる損失、負担をより広くカバーすることができるようになります。

(3)  日本企業の海外進出のための国際連携強化

 NEXIの業務に、貿易保険により填補される損失と同種の損失についての保険(再保険を含む。)の事業を行う外国法人に対する出資が追加されます(改正法第12条第4項)。

 現行法では、NEXIは貿易保険事業を行う外国法人に対し出資することができません。改正法により、例えば、ビジネスリスクの高いアフリカ地域へ日本企業が進出する場合に、アフリカ地域の国際金融機関に対しNEXIが出資することが可能となり、NEXIと同機関との連携を通じて、現地のビジネスリスク情報を取得することや出資先地域での積極的な案件組成を行うことにより、日本企業の進出障壁を下げることが期待できます。

 また、貿易代金貸付保険及び海外事業資金貸付保険の対象に、国際機関・外国政府等が行う貸付け及び国際機関の借入が追加されます(改正法第2条第13項及び第18項)。

(4)  利用者ニーズを踏まえた新たな貿易保険の新設等

 上記(1)~(3)のほか、保険利用者のニーズを踏まえ、日本に利益となるインフラプロジェクトの円滑な推進を支援するための「スワップ取引保険」(スワップ取引者が外国において実施される為替取引の制限又は禁止等の事由により当該スワップ取引(改正法第74条第2項及び金融商品取引法第2条第22項第5号)の解約に伴う清算金その他の債権で政令で定めるものの支払を受けることができないことにより受ける損失を填補する貿易保険(改正法第74条第2項))、信用状取引による貿易の円滑化を図るための「信用状確認保険」(信用状確認者が信用状確認契約(改正法第2条第19項)に基づいて支払をした場合に当該信用状確認契約に基づいて信用状発行者から償還を受けるべき金額を回収することができないことにより受ける損失を填補する貿易保険(改正法第76条第2項))が新設されます(改正法第3章第11節及び第12節)。

 また、保険金支払の原資となる財務基盤を強化するため、他の政府系金融機関と同様に、NEXIの余裕金の運用方法に譲渡性預金証書の保有が追加されます(改正法第29条第4号)。

 

 改正法は、公布の日から起算して3か月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます(附則第1条)。なお、改正法の施行前にNEXIが引き受けた普通貿易保険、出資外国法人等貿易保険、貿易代金貸付保険、前払輸入保険、海外投資保険及び海外事業資金貸付保険の保険関係については、改正法は適用されません(附則第2条)。

 改正法には、輸出等、海外投資及び海外融資に係る貿易保険の塡補事由等の拡大、新たな貿易保険の創設等、企業の貿易・投資・融資実務への影響が大きな改正が含まれています。海外事業を展開する日本企業は、リスク回避の手段としての貿易保険の有効活用のため、改正内容を詳細に確認のうえ、実務対応を更新する必要があります。

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