公知の通り、新型コロナウイルス感染症の発生当時、様々な事業において事業の停止などを余儀なくされ、政府の主導の下で、様々な特別貸付などが実施された結果、2021年の破産件数は過去2番目の最低件数となりました。
日本政策金融公庫の新型コロナウイルス感染症特別貸付、新型コロナ関連マル経融資などの申込期限は令和4年9月末まで延長され、融資は継続して行われていますが、今後も同様の措置が取られるとは限りません。
発生当初の貸付については、猶予期間の終了となり、返済が開始したものの、十分に事業の立て直しができなかった結果、融資の弁済ができず、破産手続きに至るケースも増えています。
一度は融資を受けて立て直しは図れたものの、追加融資を受けることが難しく、資金ショートをして破産するというケースもあります。
金融機関との交渉で多少の弁済の猶予を得たとしても、新型コロナウイルス感染症は直ちに終結するものではなく、融資の猶予が永続的にされるものではない以上、債務の状況に応じ、適時に対応をすることが法人にとって必要となります。
債務の弁済について資産と負債に資金繰りを検討の上、十分に履行可能な弁済計画を立てられるのであれば、それに越したことはありません。
しかし、業種によっては、営業を縮小したり、経済活動が抑制される傾向にあったりすることで、十分に売り上げが立たないことも考えられ、いかに経費を削減しても、弁済の見通しが立たないということもあります。
また、売上の予測値から弁済可能であるとして弁済計画を立てても、取引先の不払いや、倒産などがあれば、売上が予測値を下回る結果、弁済が不能になることもあり得るところです。
そのため、多角的に資産調達や事業計画を検討する必要があり、問題が生じ得るリスクが少しでもあれば、早い段階で専門家に相談する必要があります。
資産が一定程度あり、債務を十分に弁済できるうちに法人を通常清算するということも方法の一つではありますが、融資の返済が未了の場合には、この方法は採ることができません。
融資を返済することを踏まえた上で、法人の再建をするためには、まず、法的手続きによらずに、弁済のリスケの交渉などをして、私的整理(いわゆる任意整理)を行うことが考えられます。
中小企業の場合には、私的整理にあたって、収益改善、事業再生、廃業等に関し、国が設置する中小企業活性化協議会という中立な機関の関与を受けて、金融機関との調整などを行い、取引先などに知られることなく、事業再生等を検討することもできます。
その他にも不採算部門を切り離して事業を縮小したり、M&Aによって、株式の譲渡や法人の合併、事業譲渡をすることで再生を図るという方法もあります。
さらに、再建方法としては、法的手続きである会社更生、民事再生という方法で、裁判所の監督を受けながら、更生ないし再生計画を立て、債権者の同意を得て、更生ないし再生計画を履行するという方法もありますが、いずれも裁判所の監督を受けるため、通常の会社経営に比べて一手間余分な作業が必要となることから臨機応変な経営に一定の制約があるうえ、更生ないし再生計画が頓挫すれば、破産に移行するリスクもあります。
これらの会社を再建させる方法、すなわち、私的整理、M&Aや法的手続き(会社更生ないし民事再生)を採れない場合には、会社の再建を断念せざるを得ず、会社の清算を考えていくことになります。
融資の返済ができない会社の清算方法としては、特別清算と破産とがあります。
特別清算と破産は、いずれも、裁判所が関与し、資産等の管理をする者を選任したうえで、選任された者が法人の資産を調査・管理し、資産を換価し、配当可能な金額があれば、債権者に配当をするという手続きであることは共通していますが、違いもあります。
大きな違いとしては、特別清算は、株式会社に限り行うことができるのに対し、破産には制限がないこと、特別清算で資産の調査・管理、換価をする特別清算人は、会社の清算人(通常は代表取締役)がそのまま特別清算人に清算されることが多いのに対し、破産における破産管財人は裁判所が選任した第三者である弁護士が選任されること、特別清算の場合は債権者との間で協定を締結する必要があり、協定の締結に債権者の一定数以上の同意が必要となるのに対し、破産において債権者の同意は特段必要ないといった点が挙げられます。
法人としては破産を避けたいと思ったとしても、債権者が破産申立をすることも許されており、例えば、本年6月には、特別清算開始決定を受け、老舗中華料理店の経営をしていた法人が、店舗の閉鎖をしたところ、債権者により破産申立がされたというケースがありました。
債権者としては、早期のタイミングで資産換価をして配当を得る方がメリットがあると判断すれば、破産申立をするということもあり得るのです。
もっとも、債権者から破産を申し立てられた場合に、法人自らで民事再生を申し立てることにより破産手続きの進行を止めることもあります。再生計画では破産配当を上回る弁済を債権者に約束しなければならないため、債権者保護の観点から、民事再生手続きが破産手続きに優先することになるためです。
また、法人の民事再生や破産の場合に、会社代表者が法人の借入等の保証をしていたり、代表者貸付を受けていたりするなど、大きな債務を負担していることがあり、法人の民事再生や破産の申立てと同時に個人破産の申立てをすることがあります。
代表者が法人の借入等の保証によってやむを得ず破産をする場合は、一般的に浪費等の免責不許可事由には該当しないため、いわゆる税金や社会保険料等の公租公課についての免責の対象とならない債務を除いて、債務の支払い義務を免れる免責許可を得られることがほとんどです。
個人にとっては、免責を受けることで、過大な債務を免れ、再出発をすることができますので、個人破産というのは、マイナスのイメージを持たれると思いますが、人生の立て直しをするという側面も持つ前向きな制度でもあります。
取引先や従業員への負担を考えて、なかなか会社再建又は会社清算の方法を選択できない結果、さらに資産・負債状況が悪化し、突然の取引停止、突然の従業員の解雇をせざるを得なくなり、かえって関係先にとっては不測の事態を招くこともあります。
いずれの方法を選択するにせよ、好条件で交渉を進めるためには、可能な限り早い段階で行うことが望ましく、早めに弁護士に相談をされれば、それだけ選択肢も広がります。
また、いずれの方法でも、どのタイミングで行うかという点も非常に重要ですので、この観点からも、できる限り適切な時期に手続きができるよう、債務の超過あるいは融資への弁済の開始による経営状況の悪化のリスクがあるのであれば、早めに専門家に相談することが望まれます。
弊所では、上述した各種方法を含め、経営状況に応じた提案及び対応が可能ですので、お気軽にご相談ください。
留意事項:本期日は、2022年6月までの情報をもとに記載されたものです。