1. はじめに
日本では、公共施設等の老朽化、国及び地方公共団体の厳しい財政上状況、人口減少などの現状の下で、適切な公共サービスの維持のためには、公共施設等の管理者等は、公共施設等の建替え、改修、修繕や運営に係るコストの効率化、広域管理、施設集約化などを行う必要があります。これらを実現する手段の一つとしてPPP(Public-Private-Partnership)の活用が有効であると考えられています。日本では、平成11年7月に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(「PFI法」)が制定され、この法律に準拠したPPPの手法がPFI(Private-Finance-Initiative)と呼ばれています。令和6年3月末現在で、PFI手法を用いた公共事業を行おうとしている事業(実施方針を公表済みのもの)は、国及び地方公共団体等を含め全国で1,071件に達しており、既に建設を終え、運営を開始している事業や、事業期間を満了した事業もあります。
2. 一般的な枠組み
(1)PFI
PFIの根拠法は、PFI法であり、平成12年3月にPFI事業の実施に関する基本方針が告示(平成30年最終改訂)されています。その後、内閣府からPFIに関するガイドライン等が順次公表されているほか、各施設の所管省庁から、当該施設の特徴を踏まえたPFIに関するガイドライン等が定められている例もあります。PFIは、公共施設等をどのような設計・建設・運営を行えば最も効率的かつ効果的かについて、民間事業者に提案競争させ、最も優れた民間事業者を選定し、設計から運営までの全部又は一部を行わせ、資金調達も自ら行ってもらう制度です。PFI事業の対象施設は、PFI法の定義する「公共施設等」に限定されます。PFI事業に供するため、国・地方の行政財産の貸付けが可能であるなど特別の措置がPFI法に定められています。PFIの事業類型には、以下の4つがあります。
・サービス購入型
- 民間事業者が公共施設等を整備・運営し、公共施設等の管理者等はそのサービスに対して民間事業者に対価を支払う形態
・独立採算型
- 民間事業者が公共施設等の管理者等から事業許可を受け、利用者からの料金収入により公共施設等を整備・運営する形態
・混合型
- サービス購入型によるサービス対価収入と、利用者からの料金収入の双方によって公共施設等を整備・運営する形態
なお、サービス購入型の事業であっても、民間事業者の創意工夫を活かしたサービス向上のため、本来の業務以外の付帯事業を実施することを認めている事業もあります。
(2)PPP
これに対して、PPPとは、官民連携事業の総称であり、PFI以外にも以下の4つの代表的な手段があります。
・指定管理者制度
- 地方自治法において規定される「公の施設」の運営において、より質の高い公共サービスを効率的に提供することを目的に、民間のノウハウを導入する制度です。
・包括的民間委託
― 従来の民間事業者への業務委託が、業務ごとの単年度の発注であったところ、より効果的・効率的な業務の実施のために「性能発注」や「包括発注」の考え方に基づいた業務委託を行う方式です。下水道、道路、河川、公園、空港、港湾等の公共施設については、各々の公物管理法によって施設管理者が定められており、これらの施設管理に関する業務のうち、現場の定型的な業務等については、従来から業務委託として実施されています。
・DBO(Design-Build-Operate)方式
- 設計・建設とその後の維持管理・運営の各業務を一括して民間事業者に性能発注する、PFIと類似した事業方式です。資金調達は起債などによって公共施設等の管理者等が行い、施設整備費については従来の工事と同様に、竣工までに民間事業者へ支払うことが一般的です。PFI法に基づく特定事業には該当しない事業方式ですが、PFIの手続に準じて実施されることが多い事業方式です。
・公募設置管理制度(Park-PFI)
- 都市公園法に基づいて、飲食店、売店等の公園利用者の利便の向上に資する公園施設の設置と、当該施設から生ずる収益を活用してその周辺の園路、広場等の一般の公園利用者が利用できる特定公園施設の整備・改修等を一体的に行う者を、公募により選定する制度です。
3. 主な手順
PFI事業は、PFI法に従って、以下の手順で実施されます。
① PFI事業として実施する可能性がある事業の発案
あらかじめ公共施設等の管理者等が作成したPFI導入に関する優先的検討規程や、民間事業者からの発案などにより、検討対象の事業を整理します。
② PFI導入可能性調査の実施
PFI事業として実施することが可能であるか検討します。簡易な検討によってPFI導入可否を判断するほか、詳細な検討によって事業方式等を検討します。事業方式、事業範囲、事業期間等を設定し、VFMシミュレーション、民間事業者へのヒアリング等を行います。VFM(Value for Money)とは、PFIで行った場合、従来の公共事業から比べて何%をコストダウンできたかを示す割合のことです。両者のプロジェクトにおいて、計画から、施設の設計、建設、維持管理、運営、修繕、事業終了までの事業全体にわたり必要なコストであるLCC(Live Cycle Cost)で比較します。
③ PFI事業を実施する民間事業者の選定
総合評価方式一般競争入札では、予定価格の範囲内で申し込みをした者のうち、価格だけではなくその他の条件(維持管理・運営のサービス水準、技術力等)を総合的に勘案し、落札者を決定します。そのほか、公募型プロポーザル方式のような競争性のある随意契約では、公募により提案書を募集し、あらかじめ示された評価基準に従って最優秀提案書を特定した後、その提案書の提出者との間で契約を締結します。これらの方法によって民間事業者を選定します。実際のVFMは、選定者の提案内容から算定し、民間事業者選定結果の中で公表します。民間提案に基づき実施された公共調達では、提案を実施した入札参加者は入札時の評価において加点されます。
④ PFI事業の実施
選定された民間事業者と契約を締結し、事業を実施します。公共施設等の管理者等は引き続き民間事業者のモニタリングを行います。長い事業期間には、次第にサービスの質が低下していくことも考えられるので、公共施設等の管理者等は、民間事業者がきちんと業務を行っているか監視する必要があります。これをモニタリングといいます。
設計・施工・運営を事業範囲とするPFI事業のPFI法に基づく事業開始までの手続の流れは、以下のとおりとなります。
後述する公共施設等運営権(コンセッション)方式では、事業実施に際しての手続面では、公共施設等運営権の設定等に関する特有の手続として、実施方針に記載すべき事項や、公共施設等運営権の登録などがPFI法に規定されています。
4. 事業方式
PFIの事業方式には、以下の5つがあります。どの事業方式を採用するかは、PFI導入可能性調査の中で検討されています。法令や制度上の制約や事業の特性などから総合的に判断し、決定されています。
BTO(Build-Transfer-Operate)方式―民間事業者が公共施設等を建設し、公共施設等完成直後に公共施設等の管理者等に所有権を移転し、民間事業者が維持・管理及び運営を行う事業方式
BOT(Build-Operate-Transfer)方式-民間事業者が公共施設等を建設し、維持・管理運営し、事業終了後に公共施設等の管理者等に施設所有権を移転する事業方式
BOO(Build-Own-Operate)方式-民間事業者が公共施設等を建設し、維持・管理及び運営し、事業終了時点で民間事業者が公共施設等を解体・撤去する等の事業方式
RO(Rehabilitate-Operate)方式-民間事業者が、公共施設等を改修した後、維持管理・運営を事業終了時点まで行う方式
公共施設等運営権(コンセション)方式―利用料金の収受を伴う施設について、施設所有権を公共が保有したまま、対象となる公共施設等を運営する権利を一定期間民間事業者に付与し、民間事業者が主体的に公共施設等の維持管理・運営を行う方式
当該PFI事業以外の事業の不振が原因で、当該PFI事業のサービスの質が低下したり、事業が中断することを避けるために、ほとんどのPFIでは特定の事業を遂行することのみを目的として設立する会社であるSPC(Special Purpose Company)が業務を遂行します。PFI事業では、設計、建設に必要な資金の一部をSPCが金融機関等から「プロジェクト・ファイナンス」という借入方法で調達するのが一般的です。経営力のないSPCは破綻する可能性があります。その場合に備えて、公共施設等の管理者等と金融機関はあらかじめ「直接協定」という協定を結び、SPCが破綻しないように監視し、SPCが破綻した場合でも最後までPFI事業が遂行されるように協議する仕組みを作ります。直接協定とは、民間事業者に融資する金融機関と公共施設等の管理者等が締結する協定です。そこには、PFI事業が円滑に進まなくなった場合に、金融機関が事業に介入する権利等について定めます。
全国で1,071件のPFI事業(令和6年3月末現在)が行われています。そのうち、地方公共団体が事業主体のものは903件、国等が事業主体のものは107件です。地方公共団体が事業主体のPFI事業では、学校施設、文化・社会教育施設等の「文化社会教育」に係る事業が357件及びMICE(Meeting、Incentive、Convention及びExhibitionの4つの頭文字を合わせた造語で、多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどを指す総称です。)、観光・地域振興施設、住宅等の「経済地域振興」に係る事業が247件で多くなっています。地方公共団体が事業主体のもののうち、BTO方式が最も多く利用されています。
5. 海外投資家の主な留意点
(1)WTO政府調達協定
WTO政府調達協定とは、1994年4月にマラケシュで作成され1996年1月1日に発効した政府調達に関する協定書です。改正議定書が2012年3月30日に採択され、2014年4月6日に発効しました。日本も締約国となっています。WTO政府調達協定では、政府機関等による物品及びサービスの調達について、内国民待遇の原則(他の締約国の物品及びサービス並びに供給者に与える待遇を国内の物品及びサービス並びに供給者に与える待遇と差別しないこと)、及び無差別待遇の原則(他の締約国の物品及びサービス並びに供給者に与える待遇を当該他の締約国以外の締約国の物品及びサービス並びに供給者に与える待遇と差別しないこと)を定めています。WTO政府調達協定では、国のみならず都道府県、政令指定都市及び政府関係機関の行う基準額以上の調達契約も対象とされたため、WTO政府調達協定に定められた手続を担保するために、入札・契約の具体的な手続を定める「地方公共団体の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令」が制定されました。PFI事業においてもこの特例政令が適用されます。地方公共団体では、都道府県と政令指定都市が対象であり、その他の市町村や一部事務組合、広域連合は対象外です。また、都道府県と政令指定都市が実施するPFI事業の全てに適用されるわけではありません。PFIは、設計、建設と維持管理、運営の混合契約と解されますが、予定価格が、その主目的である調達項目ごとの適用基準額に達していれば適用されることになります。例えば、建設工事が主目的の場合は27億2,000万円以上(令和6年4月1日から令和8年3月31日まで)であれば適用されますが、WTO政府調達協定上の特定役務以外が主目的である事業は適用されません。
(2)施設共用までのスケジュール
従来事業と比較して、PFI導入可能性調査や特定事業の選定、債務負担行為設定や事業契約締結における地方公共団体の議会の議決、民間事業者からの提案期間の確保といった手続等により民間事業者選定までの期間が長期化することが多いですが、設計・施工・維持管理及び運営の一括発注による手続の簡略化や民間事業者のノウハウに基づく設計・施工期間の短縮が図られ、施設共用までのスケジュールに大きな影響は生じません。
(3)参加資格、ルール及び要求水準
PFI事業では、競争性を高めるために、応募企業には広く門戸を開放することが望ましいと考えられますが、事業実施に必要となる参加資格の考え方については、従来方式で実施する場合と変わりません。また、選定事業者に一定のルールや要求水準を守らせるため、しっかりとした実施方針、要求水準書、事業契約を作り、事業開始後もモニタリングが行われます。
(4)リスク分担
PFI事業の事業期間中に発生する可能性のある事故、需要の変動、天災、物価の上昇等の経済状況の変化等一切の事由を正確には予測し得ず、これらの事由が顕在化した場合、事業に要する支出又は事業から得られる収入が影響を受けることがあります。PFI事業のリスク分担については、想定されるリスクをできる限り明確化した上で、「リスクを最もよく管理することができる者が当該リスクを分担する」との考え方に基づいて、協定等で取り決めることに留意する必要があります。
(5)補助金
PFI事業においても補助金の適用は可能ですが、補助金が適用されるためには、個別の補助金の制度において、当該PFI事業に補助金が適用されることが確認される必要があり、自動的に補助金の適用対象にはならないことに注意が必要です。
6. 最新の動き
(1)令和4年PFI法改正の概要
① PFI事業の対象となる公共施設等の拡大(施行日:公布の日(令和4年12月16日))
PFI事業の対象となる「公共施設等」の定義にスポーツ施設及び集会施設を追記しました。
② 公共施設等運営事業に関する実施方針の変更手続の創設(施行日:令和5年6月15日)
事業期間中の事情変更等を踏まえた、施設の改修工事が柔軟に実施できるよう、実施方針で定めた公共施設等運営事業に係る施設の規模や配置の変更を可能としました。
③ 株式会社民間資金等活用事業推進機構(PFI推進機構)の業務の追加及び保有株式等の処分期限の延長(施行日:令和5年1月16日(延長部分は公布の日)
PFI推進機構は、PFI法に基づき、政府と民間の出資により平成25年10月に設立された、PFI事業の推進組織であり、内閣総理大臣が定める支援基準に従い、PFI事業(ただし、事業に要する費用の全部又は一部を利用者の支払う料金で回収するものに限る。)に対する出融資(優先株・劣後債の取得等)や案件形成のためのコンサルティングを実施しています。改正により、PFI推進機構の業務の範囲に、事業を支援する民間事業者(地方銀行など)に対する助言や専門家派遣等を追加するとともに、PFI推進機構の保有する株式や債権などの処分期限を5年(令和15年3月31日までに)延長しました。
(2)令和6年版PPP/PFI推進アクションプランの概要
PPP/PFI推進アクションプランとは、民間資金等活用事業推進会議(PFI推進会議)において策定された、PPP/PFIの推進に向けた国の制度や支援に関するアクションプランです。平成28年の策定以降、新たなPPP/PFIの推進方策や事業環境の変化等に応じて、改定がなされています。PPP/PFI推進アクションプランに定める事業規模目標令和4年度からの10年間で30兆円に対する令和4年度実績は3.9兆円、重点分野の事業件数10年ターゲットに対する令和5年度(2年目)までの実績は全体で25%と着実に進捗しました。一方、財政状況のひっ迫、生産年齢人口の減少、インフラの老朽化などの社会的課題が一層顕在化しています。30年間続いたコストカット経済から脱却し、「新たな成長型経済」に移行する中、社会的課題を解決し、成長型経済をけん引する手段として、PPP/PFIを更に積極的に推進する必要があります。令和6年版では、30兆円の事業規模目標の達成に向け、以下の柱で、アクションプランを改定しました。
① 分野横断型・広域型PPP/PFIの形成促進
類似施設・共通業務の統合による効率化を図る分野横断型PPP/PFIの形成を促進するとともに、自治体間の連携による業務の効率化・補完にも資する広域型PPP/PFIの形成を促進します。
② 民間事業者の努力や創意工夫により適正な利益を得られる環境の構築の推進
ガイドラインを改正して、適正な価格の算出を推進(物価変動への対応、適正な予定価格の算出、国有財産の貸付料・使用料算定方法のイコールフッティングの明確化・周知)するとともに、費用減少以外のメリットの適切な評価、性能発注等民間事業者の利益の創出に寄与する取組の推進、BOT税制の延長等の取組みを行います。
③ 事業件数10年ターゲットの上方修正及びPPP/PFIの活用領域の拡大
事業件数10年ターゲットの上方修正を行うとともに、PPP/PFI活用領域の拡大(自衛隊施設の重点分野への追加等)を図ります。
④ PPP/PFIによる地方創生の推進
空き家等の有効活用により地域課題を解決するスモールコンセッション等のローカルPFIの形成を促進するとともに、具体的な案件形成に資するPPP/PFI地域プラットフォームの効果的な運営、PPP/PFI事業の具体化に資するPFI推進機構の継続的な支援により、具体の案件形成に繋げる。
(3)経済安全保障推進法に基づく特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に関する制度の導入
令和4年5月に制定された「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」では、特定社会基盤事業者が他の事業者から特定重要設備の導入を行う場合又は他の事業者に委託して特定重要設備の維持管理・操作を行わせる場合には、主務省令で定めるところにより、あらかじめ、当該特定重要設備の導入・維持管理等の委託に関する計画書を作成し、主務省令で定める書類を添付して、主務大臣に届け出なければならないこととされました。この制度は、令和6年5月17日に運用を開始されました。特定社会基盤事業者の中には、地方公共団体や公共法人が含まれる可能性がありましたが、水道事業の提供を行う地方公共団体や公共法人が特定社会基盤事業者に指定されました。そのため、これらの者が他の事業者から特定重要設備の導入を行う又は他の事業者に委託して特定重要設備の維持管理・操作を行わせるに当たって、導入等計画書を事業所管大臣に届け出た上で、当該導入等計画書に係る特定重要設備の導入等が特定妨害行為の手段として使用されるおそれが大きいかどうかについて、審査を受ける必要があります。