1. はじめに
近時、NFT(Non-Fungible Token / 非代替性トークン)に注目が集まっている。2020年から2021年にかけて、NFTの市場規模は100倍を超える成長を遂げ[1]、現在でも、著名企業が次々とNFTビジネスに参入している。また、直近では、2022年6月7日、岸田内閣は、いわゆる「骨太の方針」[2]を閣議決定し、その中でもNFT等のWeb3.0(ウェブスリー)の推進に向けた環境整備を進める旨言及されている。
このように、注目されているNFTであるが、法的に不明確な点が少なくない。今後、関連法令の改正や解釈指針の明示などが期待されるところではあるが[3]、本稿執筆時点では、まだ、目立った成果は上がっているとは言い難い。
そこで、本稿では、NFTの概要について説明した上で、現段階における法的問題について、チェックリスト形式にて整理したい。NFT関連ビジネスの立ち上げや、投資の際などに参考になれば幸いである。
本稿の記載は、NFTビジネスにおけるリスクを網羅したものではなく、具体的なビジネスの立ち上げや投資に際しては、個別に法律専門家に相談することが望ましい。 また、本稿の原稿は2022年7月に記載されたものであり、今後の関係官庁の解釈指針や法改正などにも留意されたい。 |
[1] 自民党のプロジェクトチームが2022年3月30日に公開した「NFTホワイトペーパー(案)~ Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略 ~」によれば、NFTの市場規模は、2020年において400億円弱だったものが、2021年には4.7兆円以上となり、1年で100倍を超える爆発的な成長を記録しているとされる(平将明衆議院議員ウェブサイト。https://www.taira-m.jp/2022/03/nft.html)。
[2] 正式名称は、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2022/2022_basicpolicies_ja.pdf)である。
[3] 前記「骨太の方針」においても、NFT等のWeb3.0の推進に向けた環境整備を進めることや、メタバースも含めたコンテンツ利用拡大に向けて2023年通常国会での関連法案の提出を図ることが記載されている。
2. NFTの概要
(1) 定義
NFT(Non-Fungible Token / 非代替性トークン)は、文字通り、①非代替性、②トークンである。
①非代替性とは、1つ1つが異なる、唯一無二のものであることを意味する。これは、お金と比較すると分かりやすい。例えば、2枚の1000円札がある場合、1枚目の1000円札で代金を支払おうと、2枚目の1000円札で代金を支払おうと、基本的には同じ行為である。つまり、2枚の1000円札には、極めて高度の代替性がある。他方、NFTは、これとは逆に、1つ1つが異なり、唯一無二のものとされる[4]。
②トークンとは、(多義的であるものの)NFTとの関係では、ブロックチェーン[5]上で発行される記録、といった意味である。ブロックチェーンにも様々なものがあるが、NFTの場合、現状、イーサリアムのブロックチェーン上で発行されることが多いと言われている。
なお、NFTは、このブロックチェーン技術を使うことにより、個々人で保管でき、かつ、介在者なく第三者に譲渡可能となっている。
[4] この①非代替性は、厳密には、NFTの技術的仕組みに由来する。すなわち、NFTには、それぞれに、固有の識別番号(Token IDなどと呼ばれる。)が割り振られる。そのため、仮に、図柄が全く同じNFTアートがあったとしても、技術的には、それぞれが唯一無二のもので、別物となる。しかし、だからといって、直ちに、NFTが暗号資産に該当しないと判断することは早計である。図柄が同一のアートNFTが大量発行された場合は、(いくら技術的には、各NFTが別物であったとしても)法的には、実質、(代替的な)暗号資産と同等と評価され、暗号資産規制を受ける可能性がある点に留意が必要である(後述)。
[5] ブロックチェーンは、暗号資産であるビットコイン発祥の技術である。基本的に、暗号資産の保有者情報を記録するための台帳であり、A→B、B→C、といった不動産登記のような形式で記録されることが多い。ビットコイン登場以降、様々なブロックチェーン技術が登場しているが、基本的には、ビットコインのブロックチェーン技術を踏まえ、改良を加えたものであることが多いと思われる。
(2) 特徴
NFTは、その保有者情報が、ブロックチェーン上に記録・公開される。NFTを第三者に譲渡する際は、この記録が書き換わる。(誤解を恐れずに例えるならば)ブロックチェーン上には、株主名簿や不動産の登記のように、今、誰が当該NFTを保有しているのか、が記録されており[6]、NFTを譲渡すると、この記録が書き換わる。このように、保有者情報が記録・公開される点で、NFTは、単なるデジタルデータとは異なる。
[6] 厳密には、ブロックチェーン上には、人名が記録される訳ではなく、銀行や証券会社の口座番号に相当するような「アドレス」が記録される。例えば、あるNFTがアドレスAに保管されているところ、これを、第三者のアドレスBに移転すれば、ブロックチェーン上では、Bに移転した旨記録される。
(3) 技術的流動性等
NFTは、最新技術であるがゆえに、技術的発展が続いており、その内容は流動的である点に留意を要する。
例えば、NFTの技術規格は1つではない。現在、ERC-721という技術規格(イーサリアムのブロックチェーン上に構築されるNFT)が事実上、多いようであるが、今後は、別の規格が主流になってくる可能性もある。
また、例えば、NFTは、保有者情報が、ブロックチェーン上に記録されるが、アートNFTのアート画像の部分(コンテンツにかかるデータ)は、ブロックチェーン外のサーバー等に記録されることが多い(オフチェーンと呼ばれる。)。つまり、何らかの原因によって外部のサーバー等が消失した場合、コンテンツデータが失われる可能性がある点に留意が必要である。但し、この点についても、今後、技術的な解決される可能性もあり、流動的である。
3. チェックリスト
(1) はじめに
本稿では、総論、権利関係に関する法的問題、規制法関係に関する法的問題という3項目に分け、チェックリスト形式にて、法的問題点について整理する。
(2) 総論
□ビジネスや技術の仕組みはどのようなものか
【解説】
前記のとおり、NFTの技術については、唯一絶対の仕組みがある訳ではない。また、NFTを使ったビジネススキームも同様に様々なものがある。そのため、NFTはこういったものだ、といった決めつけは厳禁であり、具体的な仕組みを踏まえた、法的リスクの検討が必要となる。特に、既存技術や既出のビジネスモデルと異なる内容であれば、その点について、特別な法律が適用されないか、常に留意すべきである。
(3) 権利関係に関する法的問題
□NFT発行にあたって、権利処理は適切になされているか。
【解説】
NFTを発行する場合、表示される画像等が著作物であれば、適切に著作権の処理をする必要がある(例えば、発行者が著作権を保有していない場合は、著作権者の許諾を得る等)。また、NFTに人物の顔写真等が表示される場合は、肖像権・パブリシティ権等の権利処理も必要となる。特に、NFTは、一般的な有償のデジタルコンテンツと異なり、個々人の間で転々と流通する点に留意が必要である(転々流通する前提で、権利処理をする必要がある。)。
□NFT発行に際して、規約等は定められているか。
【解説】
NFT保有者が、NFTを保有している状態で、何ができるか、という点は、自明ではない。そのため、NFT発行者は、NFTを発行する段階で、保有者がNFTをどの範囲で利用[7]できるのか、公開の規約等において、明記[8]することが望ましい(例えば、TwitterにNFTの写真をUPして自慢することは認められるのか、禁止されるのか)。
[7] ビジネス的には、著作権等の権利の譲渡ではなく、利用の許諾という形式にすることが多いと思われる(例えば、アニメコンテンツの著作権を保有している会社が、アニメのトレーディングカードに相当するNFTを発行する場合、NFT購入者に対し、絵柄の著作権まで渡してしまうということは、通常は想定されない。)。
[8] 逆に、そのような規約等で利用関係が明記されていないNFTは、例えば、アートNFTであれば、個人で見て楽しむ以上の行為(SNSなどで公開するような行為)は、著作権等の侵害となりうる。
□規約には、コンテンツデータの消失可能性に対し、事業者の免責等が定められているか。
【解説】
前記のとおり、NFTのコンテンツデータは、技術的仕組み如何によって、消失する可能性がある。仮に、NFTが消失する可能性がある場合は、事前に、何も告知がなければ、NFTの購入者や転得者との間でトラブルの原因となり得る。そのため、かかる可能性があるNFTを発行する場合は、公開の規約等において、予め、その旨、免責事項などとして明記しておくことが望ましい。有効期限などを設けるということも考えられる。
□規約には、NFTが前提とする関連サービスが終了可能性に対し、事業者の免責等が定められているか。
【解説】
NFTによっては、特定の関連サービスを前提とするものがある(例えば、メタバース上の土地をNFT化した場合、当該メタバースのサービスが終了してしまった場合、NFTは残っても、それ自体使い道がなくなり、無価値となり得る。)。そういったNFTを発行する場合は、公開の規約等において、予め、その旨、免責事項などとして明記しておくことが望ましい。
□違法なNFTに対する考え方は検討されているか。
【解説】
- NFTについては、例えば、以下のような、違法なNFTが登場しうる。
- 他人の著作物を無断複製してNFTを作る。
- 他人のアートNFTの画像をコピーして、同じ画像の別のNFTを作る。
- 他人の肖像権や名誉を侵害する画像を使ってNFTを作る。など
これらについて、事業者として、常に、100%の対処ができる訳ではないが、ビジネスを開始するに際しては、リスクについては十分に精査し、ビジネスへの影響や、リスクが現実化した場合の対処方法は、検討しておくことが望ましい。
(4) 規制法関係に関する法的問題について
□暗号資産規制(資金決済法・「暗号資産」該当性)
【解説】
NFTが「暗号資産」(資金決済法第2条第5項)に該当するか否かは、ケースバイケースであり、一概には何とも言えない。
ただ、仮に、NFTが「暗号資産」に該当してしまうと、その販売を業として行うことは、「暗号資産交換業」(同条第7項)に該当する。「暗号資産交換業」を行うには、内閣総理大臣の「登録」(同法第63条の2)が必要となるが、この「登録」には、厳しい要件が課されており、スタートアップ企業の場合、非常にハードルが高い。そうすると、基本的には、「暗号資産」に該当しないよう、ビジネススキームを構築してゆく方向性となる。
この点、金融庁が、令和元年9月3日に示したパブリックコメントの回答[9]のうち、以下の記載が、一応の基準として参考になる(なお、当時の資金決済法では、今でいう「暗号資産」は、「仮想通貨」と表現されていた。)。
「例えば、ブロックチェーンに記録されたトレーディングカードやゲーム内アイテム等は、1号仮想通貨 と相互に交換できる場合であっても、基本的には1号仮想通貨のような決済手段等の経済的機能を有していないと考えられますので、2号仮想通貨には該当しないと考えられます。」 |
つまり、「決済手段等の経済的機能」を有するか否かがポイントとなる。
上記で例に挙げられるとおり、トレーディングカードのようなもの、通常は、商品購入や役務提供の代金として使用することは考え難く、「決済手段等の経済的機能」を有しない(暗号資産に非該当)場合が多いと考えられる。
他方、極端な例ではあるが、例えば、お札のような図柄(同じ図柄)のNFTを何十万と大量に発行すれば、1つ1つのNFTは紙幣のように没個性的となり、実質、代金の支払として使うことも可能となりうる。そうすると、NFTといえども、「決済手段等の経済的機能」有する(暗号資産に該当する)こともありうる。
なお、トレーディングカード的なNFTであるからといって、常に暗号資産に該当しない訳ではない。やはり、同じ図柄のNFTを大量発行すれば、没個性的となり、暗号資産に近接する。前掲「NFTホワイトペーパー(案)」8頁においても、以下のとおり指摘されている点に留意すべきである。この点については、今後、行政による法令解釈指針の提示が望まれる。
「技術的観点からすれば別のトークンであるものの、一般利用者から見て他と区別のつかないNFTが多数発行されている場合、ICOトークンと事実上違いがなく決済手段等として利用されることもあり得るため、2号暗号資産に該当すると判断すべき場合も考えられる。」 |
[9] https://www.fsa.go.jp/news/r1/virtualcurrency/20190903-1.pdf
□暗号資産規制(資金決済法・「暗号資産交換業」該当性)
【解説】
2019年改正(2020年5月施行)の資金決済法において、業として、「他人のために暗号資産の管理をすること」が、暗号資産交換業として規制対象となった(同法第2条第7項第4号)。いわゆる、カストディ業務の規制である。
NFTとの関係では、例えば、代金が暗号資産払いとされたNFT売買取引において、プラットフォームが、一時的に、代金の暗号資産を預かる行為(エスクローサービス)が、この規制に抵触するリスクがある。この点、法令解釈指針の提示が望まれるが、現状、リスク回避のためには、NFTの売買代金として、暗号資産払いを認めないことが考えられる。
□有価証券規制(金融商品取引法)
【解説】
NFT保有者に利益配当するようなビジネススキームになっている場合、当該NFTは、有価証券として、金融商品取引法の規制を受ける可能性がある。そのようなスキームは避けることが望ましい。
□前払式支払手段規制(資金決済法)
【解説】
NFTを消費して、商品・サービスを受領できるようなビジネススキームになっている場合、資金決済法上、NFTが前払式支払手段に該当し、規制(供託、情報公開、払戻の原則禁止等)を受ける可能性がある。また、そもそも、そのようなスキームの場合、NFTを決済手段として用いているとも考えられ、NFTが暗号資産に該当するリスクも高まる。そのようなスキームは避けることが望ましい。
□景品規制(景品表示法)
【解説】
取引に付随してNFTが配布されるようなケースでは、景品表示法における景品類の規制が及ぶ可能性がある。そのため、同法の規制を遵守する必要がある。もっとも、この点は、NFTに限った問題ではなく、他の景品類であっても同様である。
□刑法(賭博罪)
【解説】
これは、特に、トレーディングカード的なNFTであって、購入するまで、中身が分からない(レアなカードが出る可能性も、そうでない可能性もある)、というスキームの場合などに問題となる(ランダム型販売などと呼ばれる。)。従来のゲームアイテムなどにおいても見かけたスキームではあるものの、NFTの場合は、ゲームアイテムと異なり、個々人が転々流通させられるという特徴上、このようなスキームは、賭博罪の規制に抵触する可能性が高まると指摘されている。
すなわち、NFTでは、二次流通市場(転売市場)が形成され、転売価格の相場も構築されることが多い。そうすると、例えば、1000円で購入できるランダム型販売のNFTについて、レアなカードは転売市場で1万円、レアでないカードは転売市場で100円で売られていたとすると、いわば、1000円を払って、1万円分の財産を得るかもしれないし、あるいは100円の財産しか得られないかもしれない、ということとなり、賭博の要素が強まる。
このような解釈には、反対の声もあるが(私見としても、袋詰めされて中身が分からない従来の紙のトレーディングカードでも同じことが生ずるため、NFTにした途端に賭博罪に該当するという見解には、違和感を持つ。)、リスクとして指摘されている以上は、留意が必要である。
4. 終わりに
冒頭でも述べたとおり、NFTについては、法的に不明確な点が少なくない。今後、関連法令の改正や解釈指針の明示などが期待されるところである。この点、前掲「骨太の方針」においても、2023年通常国会での関連法案の提出を図るといった記載もあることから、特に、今後1年の国会や監督官庁の動きについては、注意深く見守りたい。
以上