近年のテクノロジーの著しい発展により、ヘルスケアの分野でもITを使った様々なサービス(オンライン診療、健康・運動関連のアプリケーション等)が提供されるようになっています。従来の薬事法では、医療機器のプログラム部分単体では規制されず、ハードウェアに組み込まれたプログラムが規制されていました。もっとも、2013年の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号。以下「薬機法」といいます。)の改正により、プログラム単体が規制の対象となりました。
その後も、疾病の診断・治療を目的としたプログラム開発が徐々に増え、プログラムの薬機法上の「医療機器」への該当性判断の一層の明確化・精緻化が求められたことから、厚生労働省は2021年3月31日付けで「プログラムの医療機器該当性に関するガイドラインについて」(薬生機審発0331第1号・薬生監麻発0331第15号)(以下「本ガイドライン」といいます。)を発出しました。
本ガイドラインでは、主に3つの点(①プログラムの医療機器該当性の判断基準、②医療機器に該当しないプログラム、③判断事例)に触れており、今後のヘルスケア分野のサービスの発展に影響を与えるものと考えます。本稿では、本ガイドラインで触れられている3つの点を取り上げます。
1 プログラムの医療機器該当性の判断基準について
(1) プログラム医療機器の医療機器該当性を判断するための要素ですが、プログラム医療機器が無体物である特性等を踏まえ、製造販売業者等による当該製品の表示、説明資料、広告等に基づき、当該プログラムの使用目的及びリスクの程度が医療機器の定義に該当するかで判断するとしています。
具体的な判断手順としては、以下のとおりになります。
① 当該プログラムの仕様(使用者、入力情報等)及び使用目的を検討します。
② ①の検討を踏まえ、類似するプログラムが医療機器として掲載されていないか、一般的名称を検索します。
③ ②で該当する一般的名称が存在しない、又はわからない場合には「医療機器該当性に係るフローチャート」を用いて判定します。
(2) 本ガイドラインで新たに示されたのが「医療機器該当性に係るフローチャート」(以下「本フローチャート」といいます。)です。
本フローチャートでは、まず当該プログラムが疾病の診断、治療、予防を意図しているかを検討し、それが否定された場合でも、使用対象が個人か、医療機関かでフローを分け、具体的な使用場面、使用目的、データ処理の方法等を段階的に検討し、医療機器該当性を判定します。なお、使用場面等の段階的な検討でも、医療機器該当性が判定できなかったものについては、GHTFクラス分類ルール(Global Harmonization Task Forceに基づく国際的なクラス分類)のクラスII以上であれば、医療機器該当性が認められるとしています。
2 医療機器に該当しないプログラムについて
本ガイドラインでは、使用目的の観点からも医療機器に該当しないものを整理しており、以下列挙する使用目的は、医療機器の定義を満たさないとされています。
明示的に類型化されたことにより、医療機器該当性の判断がさらに明確になされることが期待されます。
① 患者説明を目的とするプログラム
(例)医療関係者が患者や家族に治療方法等を理解してもらうための患者説明用プログラム
② 院内業務支援、メンテナンスを目的とするプログラム
(例)診察予約・受付・会計業務等医療機関における一般事務作業の負担軽減を目的とした院内業務支援プログラム
(例)医療機関に医療機器の保守点検や消耗品の交換の時期等を伝達するメンテナンス用プログラム
③ 使用者(患者や健常者)が自らの医療・健康情報を閲覧等することを目的とするプログラム
(例)個人の健康記録を保存、管理、表示するプログラム
医療機器等から取得したデータ(血糖値、血圧、心拍数、体重等)を使用者が記録(収集及びログ作成)し、そのデータを医療関係者、介助者、家族等と共有したり、オンラインのデータベースに登録、記録したりすることを可能にするもの(経時的表示や統計処理をした数値の表示を含みます。)
(例)運動管理等の医療・健康以外を目的とするプログラム
使用目的がスポーツや運動目的などであって疾病の診断や病態の把握を目的としていないもの(診断等に用いることが可能な情報を用いる場合を含みます。)
④ 機能の障害等が生じた場合でも人の生命及び健康に影響を与えるおそれがほとんどないプログラム(一般医療機器(クラスⅠ)に相当するもの)
3 判断事例について
本ガイドラインでは、使用目的の観点以外にも、医療機器に該当するプログラム及び該当しないプログラムの事例が整理されています。これらの事例は、最近ヘルスケア分野でサービス提供されているプログラム等を踏まえて記載されており、本フローチャートと合わせて確認することが重要となります。以下は本ガイドラインで列挙されている事例の抜粋となります。
(1) 医療機器に該当しないもの
① 利用者への情報提供を目的としたプログラム
(例)製薬企業等が提供する疾患や薬剤などに関するパンフレット等を電子的に提供するプログラム
(例)携帯情報端末内蔵のセンサ等を利用して個人の健康情報(歩数等)を検知し、健康増進や体力向上を目的として生活改善メニューの提示や実施状況に応じたアドバイスを行うプログラム
② 上述2で記載した使用目的のプログラム
(2) 医療機器に該当するもの
① データ保管、転送のみを行うプログラム
(例)CT等の画像診断機器で撮影した画像を診療記録のために転送、保管、表示するプログラム
(例)検査項目の入力、表示、出力を行い、患者ごとの複数の検査結果を継時的に保管・管理するプログラム
② 診断、治療以外を目的とした、データの加工・処理を行うプログラム
(例)検査データの統計処理を行うプログラム
(例)予防接種の同意書、予防接種のロット番号を記録し、予防接種の履歴や管理を行うためのプログラム
③ 診断・治療ガイドライン等に従った処理のみを行うプログラム
(例)健康診断の問診結果、受診者の生活習慣関連情報、生活習慣改善の指導状況、改善状況に関する情報を入力、保管、管理し、生活習慣の改善のために学会等により予め設定された保健指導のための参考情報を提示するプログラム
4 最後に
本ガイドラインでは、ヘルスケア・プログラムの医療機器該当性に関して、今まで以上に明確かつ分かりやすい判断基準が示されています。コンピューターや携帯端末にインストールして人の疾病の診断、治療、予防に使用されるプログラムを開発する事業者は、本ガイドラインを踏まえて、個々のプログラムが医療機器に該当するかを判断していくことが求められます。
<関連URL>
○「プログラムの医療機器該当性に関するガイドラインについて」(薬生機審発0331第1号・薬生監麻発0331第15号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000764274.pdf
○「プログラムの医療機器への該当性に関する基本的な考え方について」(平成26年11月14日付け役食監麻初1114第5号当職通知)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/261114.pdf