インサイト,

公益通報者保護法の改正について

日本 | 日本
Current site :    日本   |   日本
オーストラリア
中国
中国香港特別行政区
日本
シンガポール
米国
グローバル

 2020年6月12日、「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)(以下「改正法」といいます。)が公布され、公益通報者保護法(平成16年法律第122号)(以下「法」といいます。)が改正されました。この法律は、令和4年6月1月から施行されます(令和4年政令第8号)。

 この改正により、①通報者保護の拡充、②事業者の自浄作用促進、③通報を理由とする企業による解雇の制限が行われました。改正の主なポイントは、次のとおりです。

(1) 通報者保護の拡充

 事業者に労務を提供する労働者等一定の者が、この事業者や事業者の役職員等に違法行為等の一定の事実(通報対象事実)が生じたこと等を、不正の目的を持たずに主務官庁等に通報(公益通報)した場合、このような通報をした者(公益通報者)は、公益通報をした事実をもって事業者より不利益な取扱いを受けない等の保護を受けることとされています。今回の改正により、通報者が保護される場合が拡大されました。

  • 従来、このような通報をした労働者のみが公益通報者として保護されていましたが、改正により、このような通報をした退職者(退職後1年以内)や役員も保護の対象である公益通報者として追加されました(法第2条1項等)。
  • 通報対象事実として、改正前は刑法違反等の刑事罰対象行為が規定されていましたが、改正により一定の行政罰対象行為も通報対象事実として追加されました(法第2条第3項)。
  • 事業者は、一定の公益通報によって損害を受けたことを理由として、当該公益通報をした公益通報者に対して、賠償を請求することができないとの規定が新設されました(法第7条)。

(2) 事業者の自浄作用促進

 本改正は、事業者自ら不正を是正しやすくするとともに、事業者に労務を提供する労働者等一定の者が安心して通報を行いやすくすることを企図しています。

  • 内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等(通報窓口の設置、必要調査の実施、不利益取扱いの防止、内部規程の策定・運用等)が義務付けられました(法第11条第1項及び第2項)。具体的な措置は、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118号)に示されています。なお、中小事業者(従業員300人以下)については内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等(通報窓口の設置、必要調査の実施、不利益取扱いの防止、内部規程の策定・運用等)は努力義務にとどまります(法第11条第3項)。
  • その実行性確保のために行政措置(助言・指導、勧告及び勧告に従わない場合の公表)が導入されました(法第15条、第16条)。
  • 公益通報対応業務従事者等に対し、通報者特定情報の守秘が義務付けられ、同義務違反者に対する刑事罰が導入されました(法第12条、第21条)。

(3) 通報を理由とする企業による解雇の制限

 従業員等が事業者内部以外への公益通報をした場合に、事業者がこの通報を理由に従業員等の解雇を望んだとしても、当該解雇が有効とされる要件が厳格化されました。つまり、解雇権を行使する事業者からすれば、解雇できる場合がより限定されることとなりました。

  • 従業員等が行政機関への通報を行った場合に関し、改正前、事業者による従業員等の解雇が無効とされる場合は、通報対象事実が生じ又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合に限定されていました。改正後、事業者による従業員等の解雇が無効とされる場合として、通報対象事実が生じ又はまさに生じようとしていると思料し、かつ、氏名、当該通報対象事実の内容等を記載した書面を提出する場合も追加されました(法第3条第2号)。
  • 従業員等が報道機関その他の事業者外部への通報を行った場合に関し、改正前、事業者による従業員等の解雇が無効とされる場合は、(a)通報対象事実が生じ又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があることを前提に、(b)一定の類型に該当する場合とされていました。改正後は、後者(b)の、一定の類型に該当する場合として、①内部通報をすれば、役務提供先が通報者特定事項を正当な理由なくて漏らすと信ずるに足りる相当の理由がある場合や、②個人の生命・身体に対する危害のみならず、個人の財産に対する損害が発生し又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合が追加されました(法第3条第3号)。

 

 本改正には、上記のとおり、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等の義務付けが含まれています。そのため、中小事業者(従業員300人以下)を除く各事業者においては、自社の内部通報に関する体制を確認のうえ、必要に応じて社内体制を更新することが必要になります。

 

<関連URL>

〇公益通報者保護法と制度の概要

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/#04

〇「公益通報者保護法第 11 条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118号)

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_210820_0001.pdf

お知らせ
インサイト
King & Wood Mallesons 法律事務所・外国法共同事業

2025/03/10

2025年2月18日、日本政府は脱炭素電源の大幅な増加が含まれる新たな「エネルギー基本計画」と「地球温暖化対策計画」を閣議決定しました。

2025/03/04

インサイト
ランサムウェア・不正アクセスの最新脅威と法務対策 ~有事と平時の実践ガイド~

2025/02/03