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電子帳簿保存法の改正について

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 経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、記帳水準の向上等に資するため、2022年1月1日、改正「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿の保存方法等の特例に関する法律」(平成10年法律第25号、以下「法」といいます。)が施行されました。改正の主なポイント等は、以下のとおりです。

(1)   法の概要について

  • 法の概要としては、①各税法で原則紙での保存が義務付けられている帳簿書類等について一定の要件を満たした上で電磁的記録(電子データ)による保存を可能とすること(法4条)及び②電子的に授受した取引情報の保存義務等(法7条)を定めた法律です。

(2)   法における電磁的記録による保存の区分について

  • 法において、電磁的記録による保存は、以下の3つの区分があります。
  1. 電子的に作成した国税関係帳簿(仕訳帳、総勘定元帳、各種補助簿等)・国税関係書類(決算書類等及び証憑書類(請求書・領収書・契約書等))をデータのまま保存する電子帳簿等保存
  2. 紙で受領・作成した書類を画像データで保存するスキャナ保存
  3. 電子的に授受した取引情報をデータで保存する電子取引の電子保存

(3)   ①電子帳簿等保存について

  • 改正前に電子的に作成した国税関係帳簿や国税関係書類を電磁的記録に保存する場合には、事前に税務署長の承認が必要でしたが、事務負担軽減の観点から事前承認は不要となりました(旧法4条1条、2項)。
  • なお、2022年1月1日よりも前に受けた承認の効力自体は取りやめの届出書(又は税務当局からの取消処分)がない限り有効であるので、その承認が有効とされる間は、引き続き改正前の要件で保存等を行う必要があります。したがって、承認を受けていた事業者が2022年1月1日以降に備付けを開始する帳簿について、改正後の要件に従って電子帳簿保存を行う場合には承認の取りやめの届出書を提出する等の承認をとりやめる一定の手続が必要となります。
  • 改正により、国税関係帳簿につき、法により認められる電子帳簿は、以下に記載のとおり、優良な電子帳簿とそれ以外の電子帳簿の2つに区分されることとなりました。
  • 一定の国税関係帳簿について、①実質的に改正前の法の要件に相当する優良な電子帳簿の要件(法規則2条2項、同5条等)を満たして電磁的記録による備付け及び保存を行い、②本措置の適用を受ける旨を記載した届出書を予め所轄税務署長に提出している保存義務者について、③その国税関係帳簿に記録された事項に関し申告漏れがあった場合には、その申告漏れに課される過少申告加算税が5%軽減される措置が整備されました(法8条4項)。つまり、国税関係帳簿の改正前における電子保存の要件に相当する優良な電子帳簿の要件を満たす場合の一種のインセンティブ措置が設けられたものと考えられます。但し、申告漏れにつき隠蔽や仮装がある場合には、本インセンティブ措置につき適用除外となります(法8条4項柱書)。
  • 優良な電子帳簿の要件を満たしていないが、①正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)に従って記録し、②自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成し、③一部の保存要件((a)利用するシステムの概要書その他一定の書類の備付け(法規則2条2項1号)、(b)帳簿の内容を速やかに表示できる体制の構築(法規則2条2項2号)、(c)税務調査の際に調査官等からの求めがあればデータのダウンロードに応じること(法規則2条2項3号))をみたす等の最低限の要件を満たす電子帳簿についても電磁的記録による保存等が可能となりました(法4条1項、法規則2条)。改正により、国税関係帳簿の電子帳簿保存において最低限必要とされる要件は大幅に緩和されることとなったものと思われます。

(4)   ②スキャナ保存について

  • 改正前には必要であった税務署長の事前承認制度が、改正により廃止されました(旧法4条3項、旧法6条、電子帳簿保存法一問一答(スキャナ保存関係)問1 5)。
  • なお、改正までに行われた税務署長の承認は、電子帳簿等保存と同様、施行日(2022年1月1日)以降についても引き続き有効であり、承認の取りやめの届出書を提出する(又は税務当局から取消処分を受ける)までは、引き続き改正前の要件を満たしてスキャナ保存を行う必要があります。したがって、承認を受けていた事業者が施行日以降緩和された要件の下で保存を行うためには、承認とりやめの届出書の提出等の承認を取りやめる一定の手続が必要となります。
  • タイムスタンプ要件、検索要件等について、以下のとおり要件が緩和されました。
  1. 受領者等がスキャナで読み取る際の国税関係書類への自署が不要とされました(法規則2条6項2号ロ、電子帳簿保存法一問一答(スキャナ保存関係)問1 5(1)等)。
  2. タイムスタンプ(ある時刻にその電子取引データが存在していたこと(存在証明)と、それ以降改ざんがされていないこと(非改ざん証明)を証明する技術のことをいいます。)の付与期間につき、改正前は、電子取引データの授受等後概ね3営業日以内と解されていました。この点、改正により、電子取引データの授受等後概ね7営業日以内、又は、事務処理規定がある場合には電子取引データの授受等後事務の処理に係る通常の期間(最長2か月以内)と概ね7営業日以内に延長されました(法規則2条6項2号ロ、電子帳簿保存法取扱通達4-17、同4-18、電子帳簿保存法一問一答(スキャナ保存関係)問1 5(1)、問22、問23等)。
  3. 電磁的記録について訂正又は削除を行った場合に、これらの事実及び内容を確認することができるクラウド等において、入力期間内(最長2か月と概ね7営業日以内)にその電磁的記録の保存を行ったことを確認することができるときは、タイムスタンプの付与に代えることができることとされました(法規則2条6項2号二、電子帳簿保存法一問一答(スキャナ保存関係)問1 5(1)、問30等)。
  4. スキャナ保存が認められるための検索要件の記録項目について、取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先に限定されました(法規則2条6項6号イ、一問一答(スキャナ保存関係)問1 5(3)、問42等)。また、税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じる場合には、範囲指定及び項目を組み合わせて検索条件を設定できる機能の確保が不要となりました(法規則2条6項、電子帳簿保存法一問一答(スキャナ保存関係)問1 5(3)、問42等)。
  • 紙書類を受領してから、廃棄するまでの過程において構築しておかなければならない、社内体制、すなわち、相互牽制、定期的な検査及び再発防止策の社内規定整備等に関する適正事務処理要件が廃止されました(旧法規則3条5項4号、電子帳簿保存法一問一答(スキャナ保存関係)問1 5(2)等)。当該改正により、改正前においてスキャナ保存の導入が進まなかった大きな原因が廃止されることとなりました。
  • 適正な保存を担保するための措置として、スキャナ保存が行われた国税関係書類に係る電磁的記録に関して、隠蔽し、又は仮装された事実があった場合には、その事実に関し生じた申告漏れ等に課される重加算税が10%加重される措置が整備されました(法8条5項)。つまり、改正によりスキャナ保存の要件が緩和された代わりに、適正な保存を確保するために、以前よりも重いペナルティが導入されることとなりました。

(5)   ③電子取引の電子保存について

  • タイムスタンプ要件に係るタイムスタンプの付与期間及び検索要件に係る検索項目についての「(4)②スキャナ保存について」と同様に要件が緩和されました。具体的には以下のとおりです。
  1. タイムスタンプの付与期間につき、改正前は「遅滞なく」とされていたところ、 電子取引データの授受後概ね7営業日以内、又は、事務処理規定がある場合には電子取引データの授受後事務の処理に係る通常の期間(最長2か月以内)と概ね7営業日以内に延長されました(法規則4条1項2号、電子帳簿保存法取扱通達4-17、同4-18、電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係)問22(2)等)。
  2. 検索要件の記録項目についても、取引年月日その他の日付の日付、取引金額及び取引先に限定されました(法規則4条1項、同2条6項6号イ)。また、税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じる場合には、範囲指定及び項目を併せて条件を設定できる機能の確保が不要となりました(法規則4条1項)。
  3. 基準期間の売上高が1000万円以下である小規模事業者について、税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、検索要件の全てが不要とされました(法規則4条1項、電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係)問34等)。
  • 適正な保存を担保する措置として、次の見直しが行われました。
  1. 申告所得税及び法人税における電子取引の取引情報に係る電磁的記録について、その電磁的記録の出力書面等の保存をもってその電磁的記録の保存に代えることができる措置は、廃止されました(旧法10条但書)。この改正により、電子取引データを紙に出力して保存している法人等は、電子取引データの保存要件を満たすための対応が必要となります(法7条。なお、消費税関連については、引き続き書面出力による保存が可能です。)。対応期間につき、2023年12月31日までに行う電子取引については、保存すべき電子データをプリントアウトして保存し、税務調査等の際に提示・提出できるようにしていれば差し支えありません。2024年6年1月からは保存要件に従った電子データの保存が必要となります(電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係)問41-3等)。
  2. 電子記録の取引情報に係る電磁的記録に関して、隠蔽し、又は仮装された事実があった場合には、その事実に関し申告漏れ等に課される重加算税が10%加重される措置が整備されました(法8条5項、電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係)問40等)。

 

 本改正は、上記のとおり紙や印刷にかかるコストを削減でき、バックオフィス業務の効率化につながるものです。一方電子取引データの紙による保存が一部認められなくなったり、不正行為に係るペナルティが重くなったりしています。事業者はこれらを踏まえて改正の対応を行うことが望まれます。

 

<関連URL>

〇電子帳簿保存法関係について

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/index.htm

〇電子帳簿保存法が改正されました

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021012-095_03.pdf

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