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プロバイダ責任制限法の改正について

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 令和3年4月21日、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」といいます。)の一部を改正する法律(令和3年法律第27号)が成立し、同月28日に公布されました。施行日は未定ですが、公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日とされています。

 今回の改正の目的は、インターネット上の誹謗中傷などによる権利侵害についてより円滑に被害者救済を図るため、発信者情報開示について新たな裁判手続(非訟手続)を創設するなどの制度的見直しを行うことにあるとされています。

 改正の主なポイントは、以下のとおりです(以下では、改正前のプロバイダ責任制限法を「現行法」、改正後のプロバイダ責任制限法を「改正法」といいます。)。

1.現行法の手続の問題点

SNSなどのインターネット上のサイトにおいて、誹謗中傷を内容とする匿名の投稿により自己の権利を侵害された場合、現行法下で当該投稿の発信者(投稿者)を特定するためには、以下の二段階の裁判手続を経ることが一般的に必要とされていました。

 

【一段階目】

コンテンツプロバイダ(SNS事業者等)に対する、発信者のIPアドレス等の開示を求める仮処分

【二段階目】

アクセスプロバイダに対する、発信者の住所・氏名の開示請求訴訟

(必要に応じログ保存仮処分)

 

 発信者の特定のために二段階の裁判手続を要することについては、コンテンツプロバイダに対しIPアドレス等の開示請求をしている間に、アクセスプロバイダの通信記録(ログ)が保存期間経過により消えてしまい、発信者の特定が困難になるという問題がありました。

 また、二段階の裁判手続を経て発信者を特定するまでには、少なくとも6~9ヶ月の期間を要することから、手続に時間がかかりすぎるという問題もありました。

2.新たな裁判手続の創設

 そこで、今回の改正では、上記二段階の裁判手続による方法に加えて、発信者情報の開示を一つの手続で行うことを可能とする「新たな裁判手続」(非訟手続)が創設されました。

 「新たな裁判手続」を利用した発信者特定までの流れは、以下のとおりです。

①コンテンツプロバイダに対する発信者のIPアドレス、住所・氏名等の発信者情報開示命令の申立てを行う(改正法8条)。

②上記①の申立てとともに、アクセスプロバイダの名称等の提供命令の申立てを行う。
提供命令が発令されると、コンテンツプロバイダは申立人に対し、当該情報を提供する(改正法15条1項1号イ)。

③上記②で提供を受けた情報に基づき、アクセスプロバイダに対する発信者情報開示命令の申立てを行う(改正法8条)。

④上記③の申立てとともに、発信者情報の消去禁止命令の申立てを行う(改正法16条1項)。消去禁止命令が発令されると、アクセスプロバイダは、発信者情報の消去を禁止される(これは現行法下でのログ保存仮処分に相当します)。

⑤申立人がコンテンツプロバイダに対し、「アクセスプロバイダに対する発信者情報開示命令の申立てをした」旨を通知する。
当該通知を受けたコンテンツプロバイダは、アクセスプロバイダに対し、保有する発信者情報を提供する(改正法15条1項2号)。

⑥発信者情報開示命令が発令されると、コンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダから、発信者情報が開示される。

3.開示請求を行うことができる範囲の見直し

 現行法は、「投稿時」のIPアドレス等を開示請求の対象とすることを前提としていますが、SNSなどのログイン型サービス等においては、「ログイン時」のIPアドレス等しか保存しておらず、「投稿時」のIPアドレス等を保存していないケースがあります。

 そのようなケースにおいて、現行法上「ログイン時」のIPアドレス等まで開示請求の対象とできるかについては、必ずしも明らかではありませんでした。

 そこで、改正法では、「ログイン時」のIPアドレス等についても、「特定発信者情報」(改正法5条1項柱書)として開示請求の対象となることが明確に規定されました。

 もっとも、特定発信者情報を開示するためには、通信の秘密やプライバシー保護の観点から、コンテンツプロバイダが「投稿時」のIPアドレスを保有していないこと等、一定の要件を充足する必要があることに留意が必要です(改正法5条1項3号)。

4.その他

 開示請求を受けたアクセスプロバイダが、発信者に対して行う意見照会において、発信者が開示に応じない場合は、「その理由」も併せて照会する必要がある旨が規定されました(改正法6条1項)。

 改正法の施行後は、上記のとおり、これまでの裁判手続きに加えて、新たな裁判手続に基づく発信者情報開示命令が申し立てられる可能性がありますので、コンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダは、社内で事前に業務フロー等を確認したうえで、これに備えておく必要があります。

 

<関連URL>

〇プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律(概要)

https://www.soumu.go.jp/main_content/000748168.pdf

〇特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律

https://www.soumu.go.jp/main_content/000748170.pdf

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