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仲裁法の一部を改正する法律等に関する概説

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 「仲裁法の一部を改正する法律」、「調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律」及び「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律」の3法案が令和5年4月21日に参議院で可決され、成立しました。いずれも、令和5年4月28日に公布されました。本稿は、成立した法律の概要及び国際仲裁・調停の実務に与える影響について説明します。なお、「調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約」の締結の承認を求める議案ついては、令和5年6月9日に参議院で可決され、承認されました。

 

第1.仲裁法の改正

1.   背景

 我が国の仲裁法は、司法制度改革の一環として、平成15年に制定されました。それまで、仲裁手続に関しては、旧・旧民事訴訟法の名残である「公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律」に規定が設けられていましたが、この法律は,明治23年に制定されたもので、その後100年以上にわたり実質的な改正がされていませんでした。そこで、この法律を現代化・国際化する観点から改正作業が進められた結果、我が国の仲裁法は、国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)が策定した国際商事仲裁モデル法(以下「モデル法」といいます。)に準拠する形で整備されました。そのため、我が国の仲裁法はその内容に照らし、国際的な水準に達していると評価し得るものでありました[1]。しかしながら、平成18年にモデル法の一部改正がされたことや、経済取引の国際化の進展等の仲裁をめぐる諸情勢の変化に鑑み、仲裁廷が命ずる暫定保全措置についてその内容及び手続並びにその強制執行[2]等の手続等を定める等の必要があったため、モデル法の一部改正を踏まえて仲裁法が改正されました。

 

2.   暫定保全措置

(1)    仲裁判断があるまでの間、仲裁廷が発する権利、証拠を保全するための命令(以下「暫定保全措置命令」といいます。)の類型及び発令要件に関する規定を整備しました。

(ア) 仲裁廷は、当事者間に別段の合意がない限り、仲裁判断があるまでの間、その一方の申立てにより、他方の当事者に対し、次に掲げる措置を講ずることを命ずることができるものとされました[3]。

①    金銭を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに、当該金銭の支払をするために必要な財産の処分その他の変更を禁止すること。

②    財産上の給付(金銭の支払いを除きます。)を求める権利について、当該権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は当該権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに、当該給付の目的である財産の処分その他の変更を禁止すること。

③    紛争の対象となる物又は権利関係について、申立てをした当事者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるため、当該損害若しくは当該危険の発生を防止し、若しくはその防止に必要な措置をとり、又は変更が生じた当該物若しくは権利関係について変更前の原状の回復をすること。

④    仲裁手続における審理を妨げる行為を禁止すること(⑤に掲げるものを除きます。)。

⑤    仲裁手続の審理のために必要な証拠について、その廃棄、消去又は改変その他の行為を禁止すること。

(イ) (ア)の申立て((ア)⑤ に係るものを除きます。)をするときは、保全すべき権利又は権利関係及びその申立ての原因となる事実を疎明しなければならないものとされました[4]。

(ウ) 実務への影響

 仲裁法第24条第1項は、当事者間に別段の合意がない限り、仲裁廷が暫定措置又は保全措置の発令権限を有することを定めていますが、同項の規定からは、仲裁廷がどのような内容の暫定保全措置を、どのような場合に、発することができるかは明らかでなく、その判断は仲裁廷の裁量に委ねられています。暫定保全措置命令に執行力を付与し得る制度を構想するのであれば、関係者にとって予測可能な程度に明確である必要があることから、改正法では、モデル法第17条第2項各号及び第17条Aの規律を参考に、我が国の他の制度との調和も考慮して、仲裁廷が発令し得る暫定保全措置の内容及び発令要件について明文の規律を設けることとし、四つの類型を限定列挙されましたので、国際仲裁の実務への影響があります。例えば、日本商事仲裁協会(JCAA)の商事仲裁規則第71条は、モデル法第17条第2項各号及び第17条Aの規律をそのまま取り入れているので、修正が必要となります。なお、モデル法第17条Bの予備保全命令に関する規律は、改正法により採用されませんでした。また、主要な仲裁機関の仲裁規則において導入されている緊急仲裁人は当然に「仲裁廷」に該当するものではないので、緊急仲裁人による暫定保全措置は当事者を拘束するが、仲裁廷は拘束されず、執行力が付与されることがないと従前の実務に改正法は影響がありません。

 

(2)    裁判所が暫定保全措置命令に基づく強制執行等を許す決定(以下「執行等認可決定」といいます。)の制度を創設しました。

(ア) 暫定保全措置命令(仲裁地が日本国内にあるかどうかを問いません。)の申立てをした者は、当該暫定保全措置命令を受けた者を被申立人として、裁判所に対し、次に掲げる区分に応じ、次に定める決定を求める申立てをすることができるものとされました[5]。

①      暫定保全措置命令のうち(1)(ア)③ に掲げる措置を講ずることを命ずるもの ― 当該暫定保全措置命令に基づく民事執行を許す旨の決定

②      暫定保全措置命令のうち(1)(ア)①、②、④又は⑤に掲げる措置を講ずることを命ずるもの  ― 当該暫定保全措置命令に違反し、又は違反するおそれがあると認めるときに金銭の支払命令(以下「違反金支払命令」といいます。)[6]を発することを許す旨の決定

(イ) 裁判所は、違反金支払命令を、執行等認可決定と同時にすることができるものとされました[7]。

(ウ) 裁判所は、(ア)の申立てがあった場合において、次に掲げる事由のいずれかがあると認めるとき(①から⑧までに掲げる事由にあっては、被申立人が当該事由の存在を証明した場合に限ります。)に限り、当該申立てを却下することができるものとされました[8]。

①      仲裁合意が、当事者の行為能力の制限により、その効力を有しないこと

②      仲裁合意が、当事者が合意により仲裁合意に適用すべきものとして指定した法令(当該指定がないときは、仲裁地が属する国の法令)によれば、当事者の行為能力の制限以外の事由により、その効力を有しないこと。

③      当事者が、仲裁人の選任手続又は仲裁手続(暫定保全措置命令に関する部分に限ります。④及び⑥において同じ。)において、仲裁地が属する国の法令の規定(その法令の公の秩序に関しない規定に関する事項について当事者間に合意があるときは、当該合意)により必要とされる通知を受けなかったこと。

④      当事者が、仲裁手続において防御することが不可能であったこと。

⑤      暫定保全措置命令が、仲裁合意若しくは暫定保全措置命令に関する別段の合意又は暫定保全措置命令の申立ての範囲を超える事項について発せられたものであること。

⑥      仲裁廷の構成又は仲裁手続が、仲裁地が属する国の法令の規定(その法令の公の秩序に関しない規定に関する事項について当事者間に合意があるときは、当該合意)に違反するものであったこと。

⑦      仲裁廷が暫定保全措置命令の申立てをした者に対して相当な担保を提供すべきことを命じた場合において、その者が当該命令に違反し、相当な担保を提供していないこと。

⑧      暫定保全措置命令が、仲裁廷又は裁判機関により、取り消され、変更され、又はその効力を停止されたこと。

⑨      仲裁手続における申立てが、日本の法令によれば、仲裁合意の対象とすることができない紛争に関するものであること。

⑩      暫定保全措置命令の内容が、日本における公の秩序又は善良の風俗に反すること。

(エ) 実務への影響

 現行の仲裁法に仲裁廷による暫定措置又は保全措置への執行力の付与に関する規定は存在しないため、当事者が仲裁廷による暫定措置又は保全措置に従わない場合には、相手方が仲裁合意の違反に基づく損害賠償等を求め得るにとどまっています。改正法では、モデル法第17H条及び第17I条を参考に、暫定保全措置命令に執行力を付与することにより、仲裁手続による紛争解決の実効性を高めるとともに、当事者の利便性を向上させました。特に、仲裁判断の承認及び執行と同様、仲裁地が日本国内にあるかどうかを問わず、本案の権利義務関係につき終局的な判断をするものでない暫定保全措置命令に執行力に付与したので、国際仲裁の実務への影響は大きいです。なお、モデル法第17H条及び第17I条の暫定保全措置の承認に関する規律は、改正法により採用されませんでした。

 

3.    仲裁合意の書面性

(1) 書面によらないでされた契約において、仲裁合意を内容とする条項が記載され、又は記録された文書又は電磁的記録が当該契約の一部を構成するものとして引用されているときは、その仲裁合意は、書面によってされたものとみなすものとされました[9]。

 

(2) 実務への影響

 現行の仲裁法第13条第2項から第5項は、条文で列挙されている場合に書面要件が満たされる旨の規律を設けるにとどまり、モデル法オプションⅠの第7条第3項のように、口頭、行為又はその他の方法で締結された、仲裁合意の内容が何らかの方式で記録されているときには書面要件を満たすものとする規律を設けていません。そのため、 例えば、口頭によって仲裁合意が成立したことを音声によって記録した場合について、書面要件を満たすか否かは解釈に委ねられています。この点について、改正法は、新たな規律を設けませんでした。他方で、モデル法オプションⅠの第7条第6項は、仲裁合意を内容とする条項が記載された別の書面を引用する契約について書面性を要しないこととしています。そこで、モデル法オプションⅠの第7条第6項に対応するとともに、海難救助に関する契約などでの契約実務に対応した規律を設けるため、改正法は、新たな規律を設けました。

 

4.   仲裁関係事件手続

(1)    仲裁手続に関して裁判所が行う手続について、東京地方裁判所及び大阪地方裁判所にも管轄を拡大しました[10]。

(2)    仲裁判断の執行決定を求める申立てに係る事件等の手続において、裁判所が相当と認めるときは、仲裁判断書等について、日本語による翻訳文の提出を省略することができることとしました[11]。

(3)    実務への影響

 現行の仲裁法は、仲裁関係事件手続に関し、事物管轄を地方裁判所に一本化しつつ、土地管轄については、原則として、当事者の意思の尊重及び被申立人の便宜の観点から、①当事者が合意により定めた地方裁判所(同法第5条第1項第1号)、②特定の都道府県及び市町村が仲裁地として定められていた場合のその仲裁地を管轄する地方裁判所(同項第2号)、③被申立人の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所(同項第3号)としています。また、我が国の裁判所が関与する仲裁関係事件手続において外国語資料を提出する際には、日本語の訳文添付が必要とされ、その翻訳のために時間と費用を要することから、当該手続の迅速な進行を妨げ、ひいては我が国における国際仲裁の活性化を妨げています。改正法では、国際商事仲裁のような専門技術性の高い事件を念頭に、東京地方裁判所及び大阪地方裁判所にも仲裁関係事件手続全般について競合管轄を認めること、仲裁判断の執行決定及び暫定保全措置命令の執行等認可決定を求める申立てに係る事件の手続において外国語資料の訳文添添付の省略を認めることなど、裁判所における専門的な事件処理態勢を構築し、手続の一層の適正化及び迅速化を可能としましたので、国際仲裁実務への影響は大きいです。

 

5.   施行期日

 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。

 

第2.調停による和解合意に執行力を付与し得る制度の創設

1.調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律の制定

(1)背景

 近年、国際的な商事紛争の解決手段として国際調停が世界的に注目を集めており、手続的にも国際仲裁と国際調停との相互利用が図られている中、調停による和解合意にも執行力を与える必要があるとして、「調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約」(以下「シンガポール条約」といいます。)が採択されたことを受け、こうした国際的な動向に対応した法整備の必要性が指摘されていました[12]。シンガポール条約は、令和2年9月12日に発効しました(署名国は米国や中国など56か国、うち締約国はシンガポールなど11か国でした。2023年10月1日に署名国でない我が国は加盟書をニューヨークにある国連本部に寄託することにより12番目の締約国になり、2024年4月1日にシンガポール条約が日本について効力を生じます。)。我が国のシンガポール条約の締結に伴い、その的確な実施を確保するため、和解の仲介を行う手続において成立した国際和解合意に基づく強制執行を可能とする制度を創設する必要があったため、新法が制定されました。なお、単に「調停」というときは、特に断りのない限り、裁判外で行われる調停を指します。

 

(2)概要

(ア) 民事又は商事の紛争に係る調停において当事者間に成立した合意であって、当事者の全部又は一部が日本国外に主たる事務所を有するとき等の一定の事由に該当するものを「国際和解合意」と定義しました[13]。

(イ) 国際和解合意のうち、当事者が調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約又は同条約の実施に関する法令に基づき民事執行をすることができる旨の合意をしたものを、執行力を付与する対象としました[14]。

(ウ) 国際和解合意のうち当事者の全部又は一部が個人であるものに関する紛争、個別労働関係紛争及び人事その他家庭に関する紛争等に関するものを、執行力を付与する対象から除きました[15]。

(エ) 国際和解合意に基づいて民事執行をしようとする当事者は、裁判所に対し、国際和解合意に基づく民事執行を許す旨の決定(以下「執行決定」といいます。)を求める申立てをする必要がある旨を定めました[16]。

(オ) 執行決定の手続につき、管轄、執行を拒否することができる事由の規定等を整備しました[17]。

(カ) この法律は、調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約が日本国について効力を生ずる日から施行されます。

 

(3) 実務への影響

 我が国においては、確定判決、仮執行の宣言を付した判決、裁判上の和解、裁判所の調停における合意等については,裁判所による執行決定手続を経ることなく執行力が付与されます(民事執行法第22条第1号、第2号、第7号)。これに対して、調停による和解合意に対する執行力の付与について、主として、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」の平成16年の制定時及びその後の見直し時に議論がされました。そこでは、後述する今回の改正に至る前まで、濫用のおそれがあるとの指摘や、執行力の存在により利用者を萎縮させ、裁判外紛争解決手続の機能を阻害するとの指摘がされたことから、最終的には、今後も検討を続けるべき将来の課題とするものとされていました[18]。そのため、我が国がシンガポール条約を締結することは、不可能でした。新法により、国際和解合意に対して裁判所における執行決定手続によって執行力を付与する制度が新設されたため、我が国もシンガポール条約を締結することが国内法制の整備が完了したことになり、国際調停の実務への影響は大きいです。

 

2.裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の改正

(1)背景

 我が国における裁判外紛争解決手続の利用を一層促進し、紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図るため、認証紛争解決手続において成立した和解に基づく強制執行を可能とする制度を創設する等の必要があったため、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律が改正されました。

 

(2)概要

(ア) 特定和解への執行力の付与

①      認証紛争解決手続において成立した和解であって、当事者が当該和解に基づき民事執行をすることができる旨の合意をしたものを「特定和解」と定義しました[19]。

②      特定和解に基づいて民事執行をしようとする当事者は、裁判所に対し、特定和解に基づく民事執行を許す旨の決定(以下「執行決定」といいます。)を求める申立てをする必要がある旨を定めました[20]。

③      執行決定の手続につき、管轄、執行を拒否することができる事由の規定等を整備しました[21]。

④      消費者と事業者との間で締結される契約に関する紛争、個別労働関係紛争及び人事その他家庭に関する紛争に係る特定和解(扶養義務等に係る金銭債権に係るものを除きます。)並びに国際和解合意に該当する特定和解については、②及び③の規定の適用を除外しました[22]。

(イ) 認証紛争解決事業者に義務付けられている利用者等に対する情報提供について、現行の事務所での掲示による方法によるほか、インターネットの利用その他の方法により公表する方法によることもできるものとしました[23]。

(ウ) この法律は、(ア)について、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から、(イ)について、令和5年7月28日から、それぞれ施行されます。

 

(3)実務への影響

 実務上は、和解合意に執行力を付与するには、公証人が作成した執行証書(民事執行法第22条第5号)や、簡易裁判所における即決和解(民事訴訟法第275条)が、裁判所による執行決定手続を経ることなく執行力が付与されるので(民事執行法第22条第5号及び第7号参照)、利用されています。当事者間の協議により和解合意が成立して、予め執行証書が作成されるか、又は即決和解が調っていれば、直ちに強制執行ができます。しかし、それを怠った場合、和解合意に基づく義務が履行されない場面に至った後にこれらを利用することは困難です。これに対して、当事者間の協議により和解合意が成立しなかったものの、相手方が同意を得て調停が開始された場合には、改正法により、認証紛争解決手続において成立した和解合意に執行力が付与されたために、和解合意に基づく義務が履行されない場面に至った後に執行決定手続を経て強制執行ができようになります。当事者が和解合意に基づいた仲裁の申立てをして仲裁判断をしておいてもらう必要がなくなります。認証紛争解決手続は、法務大臣の認証を受けた業務として行う民間紛争解決手続と定義されています[24]。この利用に関し、所定の要件の下に、時効の完成猶予、訴訟手続の中止等の法的効果が付与されています。認証紛争解決手続においては手続の公正かつ適正な実施が一定程度担保されているため、認証紛争解決手続により成立した和解合意に限り執行力を付与し得る対象とすることで、懸念される弊害を除去できます。我が国における裁判外紛争解決手続の主要な担い手は弁護士会ADRセンターですが、認証を受けていない場合が多いので、今後、認証が進むことが期待されます。

 

第3.調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の締結

1.締結の意義

 シンガポール条約は、商事紛争の解決方法としての調停の利用を促進するため、調停による国際的な和解合意の執行等に関する枠組みについて定めるものです。我が国がシンガポール条約を締結し、調停の利用が促進されることは、外国からの投資の誘致及び我が国企業の海外展開に資するものであり、我が国の経済発展の見地から有意義であると認められます。調停の利用については、我が国企業による商事紛争の解決コストを下げることが期待されており、また、今後発展が期待される商事に関する国際調停の分野において、我が国が国際社会で積極的な役割を果たすとともに、同分野の国際的な中心地としての地位を確立していく見地から、我が国としても、可能な限り速やかにシンガポール条約を締結することが望ましいところであります[25]。

 

2.概要

(1) 一般原則

 各締約国は、シンガポール条約に定める条件の下に、かつ、自国の手続規則に従って、商事紛争を解決するために当事者が書面によって締結した調停による合意(以下「和解合意」といいます。)を執行するものとされます[26]。

(2) 援用

 当事者が和解合意によって解決されたと主張する事項に関して紛争が生ずる場合には、当該当事者に対し、当該事項が既に解決されていることを証明するため、シンガポール条約に定める条件の下に、かつ、自国の手続規則に従って、当該和解合意を援用することが認められ、当該和解合意の援用のための要件が定められています[27]。

(3) 拒否事由

 救済を求められた締約国の権限のある機関が救済の付与を拒否することができる事由について規定されています[28]。

(4) 留保

 我が国は、シンガポール条約の締結に当たり、和解合意の当事者がシンガポール条約の適用に合意した限度においてのみ、シンガポール条約を適用するとの留保を付する予定でしたが、締結に際して当該留保をしました[29]。

 

[注釈]

[1] 法務省民事局参事官室「仲裁法等の改正に関する中間試案の補足説明」1ページ

[2] 日本法では、仲裁判断(仲裁地が日本国内にあるかどうかを問いません。)は、仲裁法に従って執行決定が確定したときに、民事執行法に従って強制執行により執行力を有します。

[3] 仲裁法第24条第1項

[4] 同法第24条第2項

[5] 同法第47条第1項

[6] 同法第49条第1項

[7] 同法第49条第2項

[8] 同法第47条第7項

[9] 同法第13条第6項

[10] 同法第5条第2項、第8条第2項第2号、第35条第3項第4号、第46条第4項第3号、第47条第4項第3号

[11] 同法第46条第2項、第47条第2項

[12] 法務省民事局参事官室「仲裁法等の改正に関する中間試案の補足説明」1ページ

[13] 調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律第2条第3項

[14] 同法第3条

[15] 同法第4条

[16] 同法第5条第1項

[17] 同法第5条第6項、同条第8項

[18] 法務省民事局参事官室「仲裁法等の改正に関する中間試案の補足説明」38ページ

[19] 裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律第2条第5号

[20] 同法第27条の2第1項

[21] 同法第27条の2第5項、同条第11項

[22] 同法第27条の3

[23] 同法第11条第2項

[24] 同法第2条第3号

[25] 外務省「調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の説明書」1ページ

[26] 調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約第3条第1項

[27] 同条約第3条第2項、第4条

[28] 同条約第5条

[29] 同条約第8条

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