1.はじめに
2021年1月22日、改正後の「行政処罰法」(以下、「新法」という)が採択され、2021年7月15日から施行される。これは1996年に同法が施行されて以降、初めての大きな改正となる。今回の改正では、「行政処罰」の定義が明確化され、違法行為に対する処罰の軽減、免除に関する法定事由が整備されたほか、処罰の時効、手続などの面で多くの改正がなされた。以下において、新法の重点内容の一部について、「処罰するか否か」をめぐって考察する。
2.「処罰する」——新たに追加された行政処罰の定義及び種類
新法は、定義+列挙という方法によって「行政処罰」の定義を定めている。すなわち、行政処罰とは、「行政機関が法により、行政管理秩序に反した公民、法人又はその他組織に対して、権益の減少又は義務の増加という方法をもって懲戒を与える行為」と定めている(2条)。
また、同法9条では、主な行政処罰の種類を列挙しているが、現行の「行政処罰法」と比べて、戒告・譴責、資質等級の引下げ、及び生産経営活動の制限、生産停止・操業停止命令、閉鎖命令、就業制限などの「行為罰」が行政処罰に加えられている。これらの新たに追加された処罰のうち、次に掲げる2つは企業又は個人の経営及び就業と直接に関係してくるものであるため、これらについて重点的に分析する。
(1)資質等級の引下げ
一部の法令では、相応の生産経営又は就業活動を行う際に取得しなければならない一定の資質条件が定められており、それぞれの資質等級ごとに従事が認められる活動の範囲は異なる。例えば、「建築法」では、建築活動に従事する企業に対し、相応の等級の資質を取得しなければならないことが要求され、自社の資質等級を上回る工事を請け負うなどの違法行為について、「資質等級の引下げ」の処罰を科すことができる、としている。新法は、「建築法」などの既存法令の定めを確認し、「資質等級の引下げ」を行政処罰の一種として新たに設けた。
このほかにも、例えば、税関の輸出入監督管理における「企業信用等級」の引下げ調整(この場合、中国語の「降級」に該当)に関する管理措置も見受けられるが、これは実質的には行政処罰ではないと解される。その理由としては、この信用等級の引下げ調整は、実質的には過去に発生した違法行為の程度に基づき、その全体的なコンプライアンスレベル、信頼度に関する評価の引下げであり、これらの信用等級の引下げによってもたらされるのは、通関上の便宜(例えば、検査率の低減、担保免除などの利便化措置)が一部享受できなくなることであるため、行政処罰の定義として新法2条に定める「権益の減少又は義務の増加という方法をもって懲戒を与える行為」とは異なると理解すべきものである。
(2)生産経営活動の制限、生産停止・操業停止命令、閉鎖命令、就業制限
この種の処罰に関しては、既に現行法令に明確な規定があり、行政法執行の実務において一般的に用いられている。例えば、「食品安全法」では、食品安全に関わる犯罪について有期懲役以上の刑罰を科された場合には、食品生産経営管理業務に一生涯従事してはならず、食品生産経営企業において食品安全管理の担当を務めることもできないことが定められている。
今回の改正では、「生産経営活動の制限、生産停止・操業停止命令、閉鎖命令、就業制限」が行政処罰の種類として新法に組み込まれ、「食品安全法」などの既存法令の適用にさらなる便宜が図られている。また、この種の行為罰は、処罰対象の生産経営及び個人の就業に直接関わるため、新法では当事者から聴聞手続を求めることができるものとして明確にされている。
3.「処罰しない」-新たに追加された処罰免除の事由
処罰免除の事由として、新法では既存の「違法行為が軽微であり、かつ速やかに是正され、危害の結果をもたらさなかったときは、行政処罰を与えない」との定めを維持しつつ、新たに2つの処罰免除となる事由を追加しており、注目に値する。
(1)初めての違法行為で危害結果が軽微かつ速やかに是正されたときは、行政処罰を免除しうる
この処罰免除の事由には、①初めての違法行為であること、②危害の結果が軽微であること、③速やかに是正されたこと、という3つの要件が定められている。そのうち、「初めての違法行為」であることは、この処罰免除条項の適用にあたり主な前提条件となる。
「初めての違法行為」を処罰免除の事由とすることについては、新法の公布前にも既に一部の省市において模索が続けられていた。例えば、「『北京市ビジネス環境改善条例』の徹底遂行に関する北京市市場監督管理局の実施意見」では、「初めての違法行為などの軽微な違法行為」については処罰を免除しうる、と示されている。
新法に定められた「初めての違法行為」で処罰が免除される要件は、上述北京市の規定よりも厳格であるが、法律で行政処罰の免除について定められたことは、当事者の合法的権益の保護に資するものと評価できる。
(2)当事者が主観的過ちの不存在を証明するに足る証拠を有するときは、行政処罰を与えない
行政処罰について、行為者の主観状態を考察するか否か、現行の「行政処罰法」ではこれを明確に規定していない。新法は、「当事者が主観的過ちの不存在を証明するに足る証拠を有するとき」は、行政処罰を与えない事由に該当すると明確に定めている。この条文の適用について、次のとおり分析する。
①「主観的過ち」であって「主観的故意」ではないこと
主観的な過ちには、一般に「故意」と「過失」という2つの形態が含まれる。新法で用いられているのは「主観的過ち」であって「主観的故意」ではないことから、過失により生じた違法行為は、相応する法令の規定に基づき、依然として行政処罰の対象になると解される。例えば、「税関行政処罰実施条例」15条では、輸出入貨物の品名、HSコード、数量、価格、原産地などの申告不実については、違法所得の没収、過料などに処すと定めている。当該条項が対象としているのは、故意ではない過失の状況である一方、故意による虚偽申告又は隠蔽報告である場合には、密輸としてより厳しい行政処罰が科され、状況によっては刑事責任が追及される。
②「主観的過ちの不存在」は「当事者が証明するに足る証拠を有する」ことが重要
新法の定める「当事者が主観的過ちの不存在を証明するに足る証拠を有する」ことの適用については、次のポイントに注目すべきであろう。
まず、それぞれ異なる違法行為類型に応じて、当事者の主観的過ちの不存在を証明しうるポイントを捉える必要がある。
例えば、食品安全に関する事件に関し、「食品安全法」136条では、「食品事業者が本法に定める入荷検査などの義務を履行し、その購入した食品が食品安全基準に適合していないことを知らなかったことを証明する十分な証拠を有し、かつ、入荷した貨物の出所を事実のとおりに説明できる場合には、処罰を免除することができる」と定めている。本条の規定は、新法に定められた当事者に主観的過ちがない場合には処罰しないという原則と一致していると解される。この類型の事件において、食品事業者が「食品安全法」の規定に従い尽くすべき義務を履行し、例えば、完全な入荷検査制度を確立し、入荷した事件関連商品について逐一入荷検査を実施して記録を残し、メーカー又はサプライヤーの提供する商品の合格証明書や相応の書類及び検査報告書をチェックした場合には、「主観的過ちの不存在を証明するに足る証拠を有する」ケースに該当し、法により処罰は与えられないこととなる。また、注目すべきポイントとして、「食品安全法」における「処罰を免除することができる」との規定と比較すると、新法ではより直接的に「行政処罰を与えない」と定めており、新法の当該原則に対する強化と肯定の姿勢を示している。
次に、当事者は十分な証拠によって自らの「主観的過ちの不存在」の挙証を重視する必要がある。
新法は、「当事者が主観的過ちの不存在を証明するに足る証拠を有するときは、行政処罰を与えない」と規定しており、その主語は、「当事者」であることから、一定程度において当事者の挙証責任を強調しているものと解される。したがって、関連行政処罰事件に関わってしまった場合、当事者として、行政処罰の調査、事情聴取などの過程において、積極的に主張、挙証を行い、それにより効果的に自らの合法的な権益を保護することが求められる。
4.「処罰するか否か」——処罰の時効に関する新たな変化
(1)特殊分野における処罰の時効を5年まで延長
新法では、一般的な情状について処罰の時効を2年と定めているが、そのほかに特別規定として、公民の生命・健康・安全、金融の安全に関わり、かつ危害の結果が生じた場合には、処罰の時効を5年まで延長すると定めている(36条)。
「公民の生命・健康・安全」及び「金融の安全」の具体的な範囲をどのように判断するかが、本条を実行する際の重要なポイントになる。現行の関連規定からすると、「公民の生命・健康・安全」に関わるものとしては、食品、食用農産物、医薬品、医療機器、特殊設備などが含まれ、「金融安全」に関わるものとしては、株価操作、内部取引、虚偽説明、違法な資金調達などの情状があると解される。当然のことながら、処罰の時効を5年とする場合の要件は「危害の結果が生じた」ことであり、これは、単に潜在的な危害があるだけではなく、結果として実際に危害が生じていることだと解される。
(2)違法行為が連続する状態の認定
違法行為が連続する状態である期間の計算方法について、新法と現行の「行政処罰法」は一致しており、いずれも「行為の終了日から計算する」としている。
これに関し、旧国務院法制弁公室は、湖北省人民政府法制弁公室の「違法行為が連続又は継続する状態の認定方法に関する伺い」に対する回答文書において、違法行為が連続する状態とは「違法行為者が同一の違法の故意に基づき数件の独立した行政違法行為を連続して実施し、かつ同一の行政処罰の規定に抵触すること」と定めている。
つまり、連続して実施された違法行為は同一の違法な故意に基づくものであり、故意でなければ、連続した行為と認定されるべきではないと解される。違法な故意が存在する場合には、連続する行為として認定、処罰されることとなり、「過罰相当原則」及び公平・合理的原則に合致するものとなる。
5.おわりに
以上、新法による「処罰するか否か」という観点から、改正後の新法のポイントを簡潔に分析した。行政処罰の対象となりうる当事者の企業は、自社の状況を踏まえ、効果的に新法の関連規定を活用して、自社の合法的な権益を保護することが期待される。