「プラットフォーム経済分野に関する独占禁止ガイドライン」の公表について

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1.はじめに

近年、中国でのインターネット業界の急激な変化に伴い、プラットフォーム企業による「二者択一」(独占販売)やMFN条項(最恵国待遇条項)に関する事象が注目されるようになった。2020年12月の中央経済業務会議では、独占禁止の強化と資本の無秩序な拡張の防止が2021年の経済業務重点の1つとされ、データ規則及びプラットフォーム企業の独占認定に関する法的規則の整備が求められ、2021年3月に開催された全国人民代表大会及び中国人民政治協商会議(いわゆる「両会」)においても、食事宅配サービス利用料の引上げや「二者択一」等のインターネットプラットフォームに対する独占禁止規制が大きな議題となったほか、李克強首相が発表した政府活動報告書でも、中央経済業務会議と同様に、独占禁止の強化と資本の無秩序な拡張の防止が論じられた。このような背景の下、「プラットフォーム経済分野に関する独占禁止ガイドライン」(以下、「本ガイドライン」という)が国務院独占禁止委員会により2021年2月7日に公表され、即日施行された。本ガイドラインの正式な公表は、その意見募集稿(以下、「意見募集稿」という)の公表からわずか3か月後のことであり、その迅速さからは、プラットフォーム経済分野において独占禁止を強化する当局の決意が窺われる。

本ガイドラインは全六章から成り、プラットフォーム経済分野における独禁法運用の特別な分析方法、考慮すべき要素等を広く整理するとともに、関連する重大な問題に対する当局の見解を示している。本ガイドラインに強制的な執行力はないものの、その内容は企業のコンプライアンス整備にとって多大な参考的価値を有することから、本稿ではその要点について説明するものとしたい。

2.プラットフォーム経済分野の関連市場の画定

本ガイドラインは、プラットフォーム経済分野の各種独占禁止案件に関しては、原則として、関連市場の画定が必要になるものと定めた。これについて、意見募集稿の段階では、特定の要件の充足があれば、プラットフォーム経済分野の事業者による独占行為の実行を関連市場の確定なく直接に認定しうるとされていたが、これには多くの反対意見が寄せられ、最終的に本ガイドラインにおいては削除されることとなった。

 また、関連市場画定の具体的な方法は、従来のとおり代替性分析がその基本であり、それについて本ガイドラインは、「プラットフォームの片方(中国語:平台一辺)の製品に基づき関連市場を画定することができるほか、プラットフォームに関わる多方(中国語:多辺)の製品に基づき、複数の関連製品をそれぞれ確定し、各関連製品市場間の相互の関係及び影響を考慮することもできる。関連プラットフォームにあるプラットフォームを跨ぐネットワーク効果がプラットフォーム事業者に十分な競争の拘束を与えられる場合、当該プラットフォーム全体に基づき関連製品市場を画定することができる」と定めている。

3.プラットフォーム経済分野における独占協定の認定

本ガイドラインは、プラットフォーム経済分野においても、独禁法13条・14条に明確に列挙された横及び縦の独占協定行為を除く行為について独占協定の成否を判断する際には競争制限効果を考慮しなければならないものとし、「合理の原則」(rule of reason)を採用した。考慮しうる具体的な要素として、プラットフォーム関連市場の競争状況、プラットフォーム事業者及びプラットフォーム内事業者の市場パワー、他の事業者による関連市場への参入を阻害する程度、イノベーションへの影響等が挙げられ、また、次のいくつかの規定が注目に値する。

(1)本ガイドラインは、データ、算法、プラットフォーム規則又はその他の方法による実質的な協調行為に独占協定が成立しうることを明確化した一方、関連事業者が独立した意思表示に基づいて行う価格上の付き従い等の平行行為をその例外として定めている。

(2)本ガイドラインは、意見募集稿と異なり、MFN条項(最恵国待遇条項)の文言を用いていないが、その代わりに、「プラットフォーム事業者がプラットフォーム内事業者に対して商品価格、数量等の面において他の競合プラットフォームと同等の又はそれより優遇された取引条件の提示を要求する行為は、独占協定を構成しうるとともに、市場支配的地位の濫用も構成しうる」と定めている。

(3)中国の現行独禁法はハブアンドスポーク独占協定を定めていないものの、これまで自動車等の分野においてはそれを処罰した事例があり、近時公布された独禁法改正草案でもそれに関連する規定が設けられた。本ガイドラインも独禁法改正草案と同様に、プラットフォーム分野におけるハブアンドスポーク独占協定を規制することを明示している。

4.プラットフォーム経済分野における市場支配的地位の濫用の認定

これに関して、本ガイドラインは主に次のような内容を定めている。

(1)本ガイドラインにおいては、各種市場支配的地位の濫用の認定に際して考慮すべき要素のほか、原価に満たない価格での販売、取引の拒否、取引の限定、抱合せ販売、差別的待遇などの成立阻却事由たる「正当な理由」がそれぞれ列挙された。

例えば、原価に満たない価格での販売については、「原価の計算にあたっては、一般に、プラットフォームに関わる多面市場のうち各関連市場間の原価が関連する状況を考慮する必要がある」とされ、その期間が合理的であることを前提に、プラットフォーム内の他の業務の発展や、新商品の市場参入の促進、新たなユーザーの誘引、販売促進活動の展開などが原価未満の価格での販売を行いうる正当な理由として明示された。また、差別的待遇については、取引相手の実際の需要に基づく正当な取引慣行及び業界慣例に合致する異なる取引条件の実施や、新ユーザー向けの合理的な期間内の優遇、プラットフォームの公平・合理・無差別の規則に基づくランダムな取引が正当な理由として掲げられている。

さらに、取引の拒否、取引の限定、抱合せ販売についても、それぞれ、取引相手に起因する取引の安全への影響や、取引のために投じた特定資源を保護するための必要性、商品の使用価値又は効率を向上させるための必要性等が正当な理由とされた。

(2)取引の拒否と関連して、本ガイドラインは、プラットフォームが「不可欠施設」を構成する可能性を認めた。中国の実務において、標準必須特許に関するものを除き、不可欠施設の認定を明確に行った事例はまだ見受けられないが、本ガイドラインの施行に伴う実務の動向に注目すべきである。

(3)市場支配的地位を有するプラットフォームが取引相手に対し自社又は競合プラットフォームのいずれか1つの選択を求める行為(いわゆる「二者択一行為」)について、本ガイドラインは、ネガティブな懲罰により当該効果を実現する行為とポジティブな奨励により当該効果を実現する行為を区別したうえ、前者については、一般的に取引の限定を構成するものとし、後者については、関連市場の競争を明らかに排除・制限する影響の存在が証明される場合、取引の限定を構成する可能性があるとしている。

5.プラットフォーム経済分野における事業者結合

これに関し、本ガイドラインは、まず、VIEスキーム関連の取引に係る事業者結合申告の必要性を明確化した。実際に、本ガイドライン公布前の2020年年末にも、VIEスキームに係る取引の申告義務不履行により、中国の大手インターネット企業3社が処罰金額の上限である50万人民元の過料を受け、注目を集めた。

また、売上高の計算について、本ガイドラインは、業界慣例、費用徴収方法、ビジネスモデル、プラットフォーム事業者の役割等により売上高の計算が異なる可能性を認めつつ、プラットフォーム事業者がプラットフォームの市場競争に具体的に参加し又は主要な役割を果たしている場合、プラットフォーム自身の収入だけでなく、プラットフォームに関わる取引の金額も計算に含めることができるものとした。しかし、「主要な役割を果たしている」等の意義については、更なる明確化が待たれる。

さらに、現行の中国独禁法の下では売上高に基づいて事業者結合申告の要否が判断されているところ、本ガイドラインは、結合に参加する事業者一方がスタートアップ企業若しくは新規プラットフォームである状況や、結合に参加する事業者が無料又は低価格のモデルを採用していることにより売上高が低い等の一部の状況について当局が高度な関心を有し、申告基準に達していないにもかかわらず、競争を排除・制限する効果があり又はその可能性がある場合、当局が法により調査・処理を行うものとした。このような規制は、いわゆる「キラー買収」に大きな影響を及ぼすと予想される。

6.おわりに

本ガイドラインは、インターネット業界向けの初の業界的独占禁止ガイドラインであるが、2020年には「自動車業界に関する独占禁止ガイドライン」、「知的財産分野に関する独占禁止ガイドライン」、「横の独占協定案件に関するリニエンシー制度適用ガイドライン」、「独占案件事業者承諾ガイドライン」、「事業者独占禁止ガイドライン」なども公布されており、中国の独禁分野の法執行・コンプライアンスに関するガイドラインは急速に整備されていくものと窺われる。そのうち、プラットフォーム経済をめぐっては、独禁法上の複雑な課題が多数存在し、当該分野における取締り強化が予想される中、企業は、そのビジネスモデルについて慎重に検討し、リスクを回避する対策を講ずることが必要になる。

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