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中国「反外国制裁法」の公布について

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1.はじめに

近年、中国政府は、国内の企業の自主的な革新を積極的に奨励するとともに、対外開放の基本的な国策を堅持し、「引進来(外資誘致)」と「走出去(海外進出)」とを結合して、中国の総合的な国力と国際的な影響力の急速な向上を推進している。同時に、少数の先進国が中国の内政問題を頻繁に指摘して、政府機関、企業、その他の組織、個人等を含む数百の中国の実体をいわゆる「制裁リスト」、「管理リスト」等に掲げ、制裁・規制を加えた。

このような背景の下、昨年9月及び今年1月には商務部が「信頼できない実体リストに関する規定」、「外国の法律及び措置の不当な域外適用の阻止に関する弁法」等の部門規則を相次いで公布し、法制度上の反撃を行ったほか、外交部からも、アメリカ、カナダ、イギリス及びEUの関連する人員及び実体への制裁が次々と公表された。しかし、立法の観点からすると、反制裁制度に関する上位法が欠落していた。2021年3月の「全国人民代表大会常務委員会活動報告」では、「反制裁、反干渉、管轄権域外適用への対抗などをめぐり、試練に対応し、リスクを防止する法的なツールボックスを拡充する」と初めて言及され、その後、全国人民代表大会常務委員会による4月及び6月の2回の審議を経て、「中華人民共和国反外国制裁法」(以下、「反制裁法」という)の公布に至り、2021年6月10日より施行された。この反制裁法は全16条ながら、広く国内外の注目を集め、多大な反響を呼んだ。以下においては、その中心的な内容について解説する。

2.反制裁法の中心的な内容

第1に、反制裁法の目的として、中国に対する外国の不当な抑止、抑圧及び差別的措置への対抗、反撃、反対を行い、中国の主権、安全及び発展の利益を維持し、中国の公民、組織の合法的な権利・利益を保護することが明らかにされた。

第2に、対抗措置の適用対象は2つの類型に分けられる。1つの類型は、中国に対する外国の不当な抑止、抑圧、差別的措置の制定、決定、実施に直接又は間接に関与した個人、組織(以下、「リスト実体」という)であり、このような個人・組織にはリスト式管理が実施される。もう1つの類型は、リスト実体の関係者であり、これにはリスト実体の配偶者及び直系の親族、リスト実体の高級管理職又は実質的支配者、リスト実体が高級管理職を務める組織及びリスト実体が実質的に支配し又は設立、運営に関与する組織が含まれる(以下、これら2つの類型を総じて「対抗実体」という)。

監督管理の観点からみて、反制裁法5条には、アメリカの経済制裁制度と類似する管理方式が定められている。しかし、アメリカの経済制裁制度の下では、「特別指定国民リスト」(SDNリスト)の実体以外に、その所有権が50%を超える実体も同一の制裁管理の対象とされている(50%規則)のに対し、反制裁法は50%規則を明確には規定せず、「国務院の関連部門」において「対抗リストに掲げられた個人及び組織が実質的に支配し又はその設立、運営に関与する組織」に対し対抗措置をとるか否かを決定することができると定めている。

第3に、次のような3つの対抗措置が明確に定められた。第1の措置は人の出入国の管理であり、査証発給の停止、入国の禁止、査証の取消し又は国外追放を行うことができる。第2の措置は、対抗実体の中国国内の動産、不動産その他各種の財産に対して行われうる差押え、押収、凍結である。第3の措置は取引、協力等の活動の制限であり、対抗実体と中国国内の組織、個人との間における関連する取引、協力等の活動が禁止又は制限されうる。また、「国務院の関連部門が実際の状況に基づいてその他必要な措置をとることができる」という包括条項も定められ、将来においてさらなる対抗措置を採用する制度上の余地も残された。

「信頼できない実体リストに関する規定」に定めるリスト所掲の外国の実体に対する処分措置と比較して、反制裁法における規定は、人、物及び行為の3つの面に対する要求をより全面的に網羅している。しかし、両者の規定にも相違点があり、例えば、「信頼できない実体リストに関する規定」が列挙する措置には、国内の財産に対する差押え、押収及び凍結の処分がなく、逆に反制裁法は過料を対抗措置として列挙していない。反制裁法の公布まで、中国政府が対外的に実施していた対抗的措置のうち、最も多用されていたのは制裁対象者の入国禁止(一部の制裁は家族の入国も禁止)、制裁対象者と中国の公民・機関との取引の禁止であった。2021年3月26日に外交部がイギリスの関連する人員及び実体に対して制裁を行った際、「中国に存在する財産の凍結」が制裁手段として初めて明確に用いられた。

第4に、関連する組織・個人の反制裁法上の主要な義務・責任が定められた。国務院の関連部門が講ずる対抗措置の実行が中国国内の組織・個人に義務づけられたことから、たとえ外資系企業であっても、中国法人である以上、その措置を実行しなければならず、また、あらゆる組織・個人に対し中国の公民・組織に対する外国の差別的制限措置の実行又はそれへの協力が禁止されたことから、外国の法人・個人もこの「あらゆる組織・個人」に含まれ、その禁止の対象になると解される。さらに、関連する組織・個人がこれらの義務に違反した場合には、侵害を受けた中国の公民・組織においてその侵害の停止、損害の賠償を求める訴訟を提起することができ、中国による対抗措置の実行又はそれへの協力をしなかった組織・個人は、法に基づいて法的責任が追及されうる。

以上の関連規定を通じて、反制裁法の趣旨は、関連する組織・個人が中国の公民・組織に対する外国の差別的な制限措置を実行し又はそれに協力することを阻止して「一方的制裁」がもたらす不利な影響を減らすこと、また、反制裁措置を対抗手段として他国に恣意的な差別的制限措置をとらせないようにすることに存する。

日系企業への影響として、日本企業が米国などの差別的制裁措置に服するため中国企業との取引を停止・制限すると、反制裁法による規制対象となり、取引相手の中国企業による訴訟提起が懸念される。また、他面においては、中国の対抗措置に従った日系の外商投資企業が、そのために米国その他の国の利益を侵害し、あるいはその法規制に違反したとして、これらの国による経済制裁や処罰の対象となるリスクも排除されない。

3.おわりに

反制裁法の制定及び公布によって、今後の中国が反制裁関連法律体系を整備し、反制裁制度を効果的に実施するための基礎が固められた。将来においては、商務部、外交部などの国務院の関連部門がこの法律による授権に基づいてさらに具体的な規定又は実施案を制定・実施し、中国の反制裁制度の体系を徐々に確立し、整備していくものと推測される。日系企業においては、関連実施細則の制定や典型的な違法事例の動向に注目しながら、取引などの経営活動に係る制裁リスクを確認し、評価のうえ、関連契約条項を整備し、応急措置などを事前に策定することが望まれる。

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