一、 法執行動向の分析
経営主体による経常項目取引及びクロスボーダー資金決済のために十分な利便性を提供するため、中国は、1996年に経常項目における兌換可能の実現を宣言して以来、経常項目の外貨管理に関して一貫して兌換可能原則を堅持し、円滑化に向けた改革を推し進めてきた。しかし、そうした経常項目に対して資本項目では現在も完全な解放がなされておらず、この背景のもと、経常項目に関する取引は、資本項目のクロスボーダー資金の不正な移動のルートとなりやすい。
クロスボーダー資金を経常項目の貨物貿易、サービス貿易ルートを通じて流出させるという企業の行為が増加しつつある昨今の状況を踏まえ、外貨管理局は、虚偽や欺瞞的な貨物貿易及びサービス貿易を含む違法・規則違反行為に狙いを定め、取締りを強化している。
国家外貨管理局にリーガルサービスを提供してきた筆者らの実務経験によれば、中継貿易及び仲介サービス費、コンサルティング料は監督管理の重点かつ焦点となっている。
1. 貨物貿易におけるリスク多発分野「中継貿易」
中継貿易(中国語では「転口貿易」又は「転売貿易」や「転手貿易」ともいう)とは、国際貿易において輸出入貨物の売買取引を生産国(輸出業者)と消費国(輸入業者)との間で直接行うのではなく、第三者を介して行う貿易のことをいう。その「両頭在外」(両方とも国外にあること)という形態から監督管理が難しいことが特徴であり、中継貿易に関する業務は貨物貿易において外貨関連リスクが多く発生しやすい分野となっている。
2018年に国家外貨管理局が公表した21件の外貨規制違反事例のうち、3件は銀行による虚偽の中継貿易に関わる外貨送金、1件は企業による虚偽の中継貿易を通じた外貨の不正持ち出しに関するものであり、国家外貨管理局が関係する銀行に対して科した過料は計626.4万人民元に達した。また、2019年に国家外貨管理局が公表した17件の外貨規則違反事例のうち、3件が虚偽の中継貿易に関するものであり、過料のは計256万人民元に達している。さらに、国家外貨管理局広東省分局が今年年初
法執行動向の分析 ■外貨■
リスク提示と提案 ■外貨■
に公示した行政処罰事件の例では、広東省のある投資会社が虚偽の船荷証券を提出して離岸転手売買(インボイススウィッチ形式で売買に関与すること)に関する支払い業務を行ったとして、4,309.67万人民元の過料を科されている。
実務上、一部の中継貿易は、偽造証票、虚構の取引等といった明白な違法行為がなくても、真実の取引証票を利用した利ざやや為替差益の詐取が疑われ、中継貿易に関する違法行為取締りの重点対象となっている。企業は、法律規定を熟知していなかったり、監督管理の視点を理解していなかったりしたために、こうした「効率のいい商売」を継続的に若しくは連続して行いがちであるが、それによって取り締まりを受けることになったときには、不正持ち出しとなった外貨の累計金額が高額になり、上述した例のように、行政罰としての過料の額が数千万人民元にもなってしまうこともある。
1. サービス貿易におけるリスク多発分野 「仲介サービス費、コンサルティング料」
国家外貨管理局上海市分局は、2019年にある行政処罰事件を公示した。それは、某投資管理有限会社が国内個人から海外不動産の購入にかかる手付金を人民元で受領すると同時に、国外から海外不動産プロジェクトの宣伝・販促費及び仲介手数料を受け取ったというものであり、これらの行為は適法な取引基礎がなかったために行政罰を受けることとなった。
また、上海のある会社は美容設備を輸出する事業において、輸出外貨受取消込証の受領申請を行わず、税関の通関手続も実施せずに、貨物を直接輸送会社に引き渡して国外に空輸するという手段をとった。さらに外貨を受け取る際にも、輸出貿易代金と製品の研究開発費、輸送費等といった貿易以外の収入をひとまとめに受け取っていた。具体的にいうと、1件毎の外貨収入における資金の性質を区分せず、それぞれ一括して「輸送費」、「コンサルティング・サービス料」及び「貿易代金」として誤って申告していた。この会社は、最終的に計22回にわたり累計金額で790.53万米ドルを受け取っており、これをサービス貿易に関する収入と申告していたが、実際にはいずれも貨物販売収入であった。同社の行為は輸出外貨受取消込管理及び国際収支統計申告管理に関する関連規定に違反しており、外貨管理局は、「中華人民共和国外貨管理条例」に基づき、同社に対して過料を科すという行政処罰を決定した。
二、 リスク提示と提案 ■外貨■
上述したように、企業は経常項目に関する外貨管理の円滑化政策によって多大な便宜を享受することになったが、それと同時に、企業に対しては、取引に関する行為が経常取引における真実性、適法性に関する外貨管理局の管理要求に適合しているかどうか留意するよう、より大きな課題が与えられているといえる。
1. 貨物貿易における真実、適法な取引基礎の把握
中継貿易を例に取ると、中心となる規定は「外貨管理改革における真実の合規性審査拡充のさらなる推進に関する国家外貨管理局の通知」(匯発〔2017〕3号)であり、同通知では、「銀行が企業のために離岸転手売買の収支業務を行う場合には、1件ごとに契約、領収書、真実かつ有効な輸送証票、船荷証券・倉荷証券等の貨物所有権に関する証憑を審査しなければならず、取引の真実性、合規性及び合理性を確保しなければならない」と定めている。
(1) まず、中継貿易においては虚偽の又は失効した証票を使用してはならない。虚偽証票使用の典型的なケースには次のようなものが含まれる。正式な証票を元に偽造を行うもので、船荷証券番号、船名・船舶の出航回数、積荷港、着荷港、コンテナコード等の物流情報はそのままに、実際の荷送人、荷受人及び貨物情報等その他の重要な要素を変造する、又は関連企業や専門的に偽造を行う会社から証票を購入したり、貸し出したりすることもある。一方、失効した証票を使用する典型的なケースとしては、同一ロットの貨物について、国外関連企業と迅速かつ頻繁に倉荷証券の裏書譲渡を行い、それによって中継貿易を通じた複数回の外貨の受領と支払いを行うというものがある。
(2)次に、貿易背景を作り上げ国内外市場で裁定取引を行ってはならない。近年、外貨管理において法執行機関は、貿易背景を作り上げて行われる国内外市場での裁定取引に重点的に注目するようなっている。すなわち、取引の関連各当事者間において仲介売買契約を作成し、真実の貨物所有権証憑及び真実の貨物を取引媒介として、国内外で利ざやや為替差益を違法に詐取するという行為であり、その本当の目的は資金の違法なクロスボーダー移転であって、真実の取引による貿易上の利ざや取得ではない。外貨管理の視点からすると、この種の作り上げられた中継貿易には明らかに商業上の合理性がなく、単に中継貿易の名を借りて、規則に反した資本移転、若しくは違法なクロスボーダーの裁定取引を行っているというのが実態であり、真実の貿易背景がないと認定されて然るべきであると考えられる。
現時点において、外貨管理局及び銀行が重点的に注目する状況には次のようなものがある。
- 取引での利ざや不足のみを根拠として正常な経営費用を補填し、引き続き業務を展開する、又は、売買により取得した利ざやが不足したことをもって、外貨受取が延期したために負担することとなった資金コスト及びリスクを補填する等といった状況。
- 短期間のうちに事業が急速に拡大し、登録資金との重大な乖離があり、収支時期の間隔が長く、利益がやや多い又はマイナスとなっている状況。
- 取引相手が香港である、又は取引対象が非鉄金属(電気銅、亜鉛、アルミニウム)、高価な電子製品(IC集積回路、メモリーカード、液晶ディスプレイ、サーバー等)、金銀(ジュエリー)等の貴金属である場合、並びに鉱石、大豆等の大口商品の離岸転手売買も、重点的に注目され、審査が強化される。
2. サービス貿易における真実、適法な取引基礎の把握
貨物貿易と比べ、サービス貿易に関する貿易背景の真実性、適法性の把握は難易度がより高くなる。また、サービス貿易の類型や内容は絶え間なく拡大しており、それに伴い、サービス貿易の背景に関する審査・管理の要求も絶えず変化している。そのため、企業は絶えず変化するサービス貿易の背景審査管理に対応する必要がある。現在、外貨管理局及び銀行が重点的に注目する状況には次のようなものがある。
(1) サービスの対価が合理的か
一般的な民事上の法律規定から考えると、関連法令には比率に対する強行規定がなく、サービス貿易の当事者は、サービス費用に関する収受の方法や比率を契約に定めることができる。しかし、サービス費用をあまりに高く若しくは低く定めてはならず、同一業界又は類似する企業の状況(市場の趨勢)との隔たりがあまりに激しい場合には、銀行からサービス費用の合理性ついて疑義を抱かれる可能性が高くなる。また、サービス貿易においては、多くの関連企業間取引に関して、内部移転価格の背景が真実であるか、実際の費用として移転価格が合理的であるかが、銀行の重点的な審査の内容となる。
(2) サービスの内容が真実、適法か
まず、企業は、経営範囲が国の関連規定に適合し、相応の業務資格又は資質を具備し、ベースとなる取引が事業の経営範囲に適合するよう確保しなければならない。また、企業が初めて展開する事業については、銀行が重点的に注目する可能性がある。
次に、現在、多くの国外企業がインターネット等のデジタルプラットフォームを通じて、中国の個人、機構に対し、クロスボーダーの外貨・株式、先物、貴金属取引、保険、口座開設等のクロスボーダー金融サービスを提供している。しかし、この種の業務について、中国における投資家へのクロスボーダー金融サービス提供に関する行政許可を取得していなければ、当該行為は違法な金融活動に該当すると考えられる。そのため、国内の企業又は機構がこの種の国外企業に顧客を紹介するサービスを提供して、国外企業から仲介費用を取得する行為も、真実、適法な取引基礎がないと判断される可能性がある。
(3) 取引証票が要求に適合しているか
企業が提出する関連契約、領収書等の背景としての資料、取引証票について、契約条項が原則的な規定を設けているのみである、具体的な費用構成の明細が明確に記載されていない、領収書も各費用の類別等をおおまかにまとめたものであるといった場合、銀行からすると証票の真実性及び取引金額の合理性を判断するのが難しくなる。そのため、こうした取引は真実性について、監督管理機関から疑念をもたれやすいといえる。