1.はじめに
固体廃棄物環境汚染防止法(以下、「新固廃法」という)の法執行検査については、2021年1月29日に行われた全国人民代表大会常務委員会弁公庁の特別記者会見において、全国人民代表大会環境資源保護委員会による今年中のその実施が明らかにされた。これを受け、同年4月12日~15日の期間、全国人民代表大会常務委員会法執行検査グループは、河南省鄭州市、鶴壁市などにおいて同検査を行った。これらのニュースは、固体廃棄物による環境汚染の問題への社会の関心を再び喚起した。改正後の新固廃法の施行から8か月が経過し、固体廃棄物の管理・処理には多大な影響がもたらされ、固体廃棄物の産出から処理までの全面的で厳密な監督管理が整備された。新たな情勢の下、企業においては、固体廃棄物の処理を厳格に管理する一連の法令規定及び当局の取締りを重視し、それにどのように対応すべきかについて、本稿では説明するものとしたい。
2.固体廃棄物処理の現状と関連法令
固体廃棄物の定義について、新固廃法124条によると、生産、生活その他の活動において産出されたものであって、固有の利用価値を喪失し若しくはそれを喪失していなくとも廃棄・放棄された固体、半固体若しくは容器に充填された気体の物品・物質、又は法律若しくは行政法規が固体廃棄物に含めて管理するものと定めた物品・物質をいう。その類別からすると、これには主に工業固体廃棄物、生活ごみ、建築ごみ、農業固体廃棄物などが含まれる。このうち、生産経営活動において最も多く見受けられるのが工業固体廃棄物、すなわち工業生産活動において産出される固体廃棄物である。生態環境部の統計によると、2019年における大中規模都市の一般工業固体廃棄物の産出量は13.8億トン、工業危険廃棄物のそれは4498.9万トンとのことである。
固体廃棄物処理の観点からすると、現在の中国で多用されている処理の方法は主に圧縮、粉砕、焼却、熱分解、生物学的処理などであり、これら従来型の方法は二次汚染により生態及び人類の健康に影響を及ぼしやすい。先進諸国と比較して、中国の固体廃棄物の利用水準は高くなく、固体廃棄物の「都市から農村への移転」、不法な移転処分といった問題が依然として際立っている。
そのため、新固廃法の改正のほかにも、「中華人民共和国国民経済及び社会発展第14次5か年計画並びに2035年長期目標要綱」において、「固体廃棄物の違法な貯積を全面的に取り締まり、危険廃棄物の監督管理及びリスク防止能力を向上させる」との方針が示された。新固廃法の改正を契機として、関連する部門・委員会が「固体廃棄物輸入管理弁法」その他6つの規範文書を相次いで廃止するとともに、新たに「国家危険廃棄物目録」、「一般工業固体廃棄物貯蔵埋立汚染抑制基準」、「危険廃棄物焼却汚染抑制基準」などの関連規定を公布して、危険廃棄物の識別、移転、環境管理情報化などに関する立法についての提案を社会に求め、固体廃棄物管理制度の段階的な改善が行われている。企業においては、グリーン成長という新たな情勢の認識や法令の新たな要求の理解に一刻の猶予も許されない。
3.新固廃法による変化と固体廃棄物処理へのその影響
新固廃法は、企業の責任を全面的に強化し、固体廃棄物処理の各段階における具体的な要求を詳細化し、工業固体廃棄物及び危険廃棄物の監督管理などを強化した。これらは企業の安全の監督管理において注視しなければならない限界線である。以下においては実際の処罰事例を挙げながら、企業による固体廃棄物処理過程における留意点に関し説明するものとしたい。
(1)工業固体廃棄物産出単位による台帳の開設
2020年12月、北京市通州区の某環境科学技術会社は、工業固体廃棄物管理台帳の未開設を理由に北京市通州区生態環境局により5万元の過料に処された。
旧固廃法は、工業固体廃棄物管理について管理台帳の開設を要求していなかった。新固廃法36条1項は、工業固体廃棄物産出単位においては工業固体廃棄物管理台帳を開設し、産出した工業固体廃棄物の種類、数量、動向、貯蔵、利用、処理等の情報を如実に記録することにより、工業固体廃棄物に対する遡及及び照会を行いうるものとしなければならないと明確に定めている。これに違反した場合には、同法102条に基づき、生態環境主管部門により是正命令、5万元以上20万元以下の過料、違法所得の没収とされ、その情状が重大なときは、営業停止又は閉鎖が命じられる。
(2)工業固体廃棄物の輸送・利用・処理を他人に委託する場合におけるその受託者に対する審査
2021年1月、深セン市宝安区の某包装印刷紙会社は、工業固体廃棄物産出単位として他人に当該廃棄物の輸送・利用・処理を委託するにあたり、受託者の資格及び技術的能力を確認せず、法に基づく契約の締結もなかったとして、深セン市生態環境局宝安管理局により10万元の過料に処された。
工業固体廃棄物の各段階の全面的な管理を強化するため、新固廃法37条は、工業固体廃棄物産出単位が工業固体廃棄物の輸送・利用・処理を他人に委託するにあたっては、受託者の資格及び技術的能力を確認するとともに、汚染防止の要求について定めた契約を法に基づき書面により締結しなければならないとの規定を新たに定めた。これに違反した場合には、同法37条及び102条に基づき、生態環境主管部門により是正命令、10万元以上100万元以下の過料、違法所得の没収とされ、その情状が重大なときは、営業停止又は閉鎖が命じられ、他人に輸送・利用・処理を委託した工業廃棄物により環境の汚染又は生態の破壊が生じたときは、工業固体廃棄物産出単位は受託者と連帯して責任を負う。
(3)危険廃棄物経営単位に対する許可取得の義務づけ
2020年12月、広東省仏山市の某再生資源会社は、無許可での危険廃棄物の取扱いを理由に仏山市生態環境局により130万元の過料に処された。
危険廃棄物とは、国家危険廃棄物目録に掲げられ、又は国が定める危険廃棄物識別基準及び識別方法に基づいて危険な性質を有するものと認定された固体廃棄物をいう。その取扱いについては、新固廃法80条において旧法の規定が基本的に踏襲され、危険廃棄物の収集・貯蔵・利用・処理の事業を行う単位は、国の関連規定に基づいて許可を申請しなければならない。また、新固廃法は処罰の大幅な強化もしており、旧固廃法が違法所得の3倍以下と定めていた過料額を100万元以上500万元以下へと引き上げたほか、法定代表者、主要責任者、直接責任を負う主管者その他責任者も10万元以上100万元以下の過料に処するものとした。
(4)危険廃棄物経営単位に対する危険廃棄物管理計画の策定及び登録申請の義務づけ
2020年12月、江蘇省南京市の某バルブ会社は、危険廃棄物管理計画の策定及び登録申請をしなかったため南京市生態環境局により違法行為の是正を命じられるとともに、15万元の過料に処された。また、江蘇省蘇州市の某電子部品塗装会社は、管理台帳を開設したものの危険廃棄物の産出量の記録が不正確であったため、最終的に蘇州市生態環境局により違法行為の是正を命じられるとともに、34.3万元の過料に処された。
工業固体廃棄物産出単位が管理台帳の開設義務を負うのと同じく、新固廃法78条は、危険廃棄物産出単位に対しても危険廃棄物管理台帳を開設して関連する情報を如実に記録することを求め、これまで部門規範文書に定められていた要求を法律上の要求へと格上げした。また、新固廃法は、危険廃棄物産出単位に対し、国の関連規定に基づいて危険廃棄物管理計画を策定するとともに、国の危険廃棄物情報管理システムを通じて危険廃棄物の種類、産出量、動向、貯蔵、処理等に関する資料の申告をすることも要求している。これに違反した場合には、同法112条に基づき、生態環境主管部門により是正命令、10万元以上100万元以下の過料、違法所得の没収とされ、その情状が重大なときは、営業停止又は閉鎖が命じられる.
4.企業の固体廃棄物処理コンプライアンスに関する対策の提言
(1)事前評価及び関連措置
固体廃棄物の産出・収集・貯蔵・輸送・利用・処理を行う企業は、事業の開始に先立ち、関連法令及び実務の要求を真摯に把握するとともに、どのような措置を講ずれば固体廃棄物による汚染を防止し減少しうるかを検討し評価しなければならない。例えば、工業固体廃棄物産出単位は、法に基づいてクリーン生産審査を行い、原材料、エネルギーその他の資源を合理的に選択のうえ使用し、より先進的な生産技術及び設備を採用して工業固体廃棄物の産出量を減じ、その危険性を低下させなければならない。また、工業固体廃棄物を産出する単位は、汚染物質排出許可証も取得しなければならない。
(2)環境保護の法令要求の厳格な実行
生産経営の過程において、企業は自社の実情に基づき、新固廃法の関連する要求を遵守しなければならない。例えば、工業固体廃棄物産出単位は、管理台帳を開設して工業固体廃棄物に関する情報を如実に記録し、遡及・照会を可能にする必要がある。他方、危険廃棄物生産経営単位においては、管理台帳の開設だけでなく、自社の状況に基づいて危険廃棄物に関するデータを関連する情報プラットフォームにシステムを通じて適時かつ如実に申告しなければならない。また、汚染物質排出許可管理制度を厳格に行って、日常的な排出・処理に対して厳格なコントロールをしなければならない。
(3)事後における残存固体廃棄物の適切な処理
企業は、生産経営の過程で法令を遵守するだけでなく、撤退後に固体廃棄物による汚染の問題を残さないことも確保しなければならない。例えば、工業固体廃棄物産出企業の閉鎖にあたっては、閉鎖の前に工業固体廃棄物の貯蔵・処理を行った施設や場所の汚染除去措置を行うとともに、未処理の工業固体廃棄物に対する適切な処理をしなければならない。他方、危険廃棄物産出企業の閉鎖にあたっては、収集した未処理の危険廃棄物及び自社が産出した廃棄物の利用・処理を資格のある企業に委託し、設備、土壌、壁体等を含め経営施設・場所に汚染除去の措置をとり、法に基づいて危険廃棄物経営許可証を抹消しなければならない。
以上のように、改正後の新固廃法に直面する企業に対しては、関連分野におけるコンプライアンスの意識を高め、関連する措置を法に基づいて積極的に講じ、自社の持続可能な発展を実現することが望まれる。