「外国の法律及び措置の不当な域外適用の阻止に関する弁法」の要点解説

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1.はじめに

近年、経済のグローバル化の流れに逆行するように、一部の国で保護主義・一国主義が高まりつつあり、自国の法律・措置を不当に域外適用する事例が増加傾向にあるように見受けられる。こうした状況の下、2021年1月9日、商務部は国務院の承認を経て「外国の法律及び措置の不当な域外適用の阻止に関する弁法」(以下、「阻止弁法」という)を公布し、同日施行した。「阻止弁法」は、保護主義・一国主義に反対する中国政府の立場を表明するものであり、外国の法律・措置の不当な域外適用を受ける中国の公民・法人に実情に即した救済方法が提供される。商務部は昨年9月にも「信頼できない実体リストに関する規定」を公布しており、これらにより、現在、中国では、国外の法律・措置及び国外の実体による不当・違法な行為に対応する法体制が整備されたといえる。

実際のところ、「阻止弁法」に類似する立法は中国が初めてではない。むしろそれは多くの国・地区が行っている方法であって、EU、米国、カナダ、メキシコ、アルゼンチンなどの国・地区が相次いで阻止法令を制定しており、「阻止弁法」も一定程度EUの阻止法令(Blocking Statute)に照らしたものといえる。本稿は、「阻止弁法」の重要な条文の解説を起点として、「阻止弁法」が中国の公民・法人(中国国内で設立された外商投資企業を含む)に提供する保護措置・救済方法及び実務上の論点等について検討する。

2.重要条文の解説

(1)保護の対象

「阻止弁法」の保護の対象は、国の主権、安全、発展の利益及び中国の公民、法人又はその他組織の合法的な権利・利益である。ここにいう「国の発展の利益」は、国の主権の維持のみならず、国の生存・発展の条件たる安全の利益、経済的利益及び政治的利益の維持・創出を含むと解される。

(2)適用範囲及び判断基準

「阻止弁法」2条によると、同弁法による阻止の対象は外国の法律及び措置であり、その適用のためには、①外国の法律及び措置の域外適用という事実の存在、②国際法及び国際関係上の基本原則への違反、③中国の公民、法人又はその他組織が第三国(地区)及びその公民、法人又はその他組織との間で行う正常な経済貿易及び関連する活動の不当な禁止又は制限、これら3つの要件がすべて充足されなければならない。

注目すべき点は、「阻止弁法」が「ロングアーム管轄」原則に一概に反対することはせず、外国の法律及び措置の不当な域外適用に反対していることである。「不当」の判断基準について、「阻止弁法」6条は、その評価にあたり考慮すべき要素として次の4つを掲げる。

  国際法及び国際関係上の基本原則への違反の有無

  中国の国家主権、安全又は発展の利益に与えうる影響

  中国の公民、法人又はその他組織の合法的な権利・利益に与えうる影響

  その他考慮すべき要素

これらの評価の要素は、そのいずれにも具体化の余地があり、その具体化は、立法において実施細則を通じて行われ、あるいは法執行又は裁判例を通じて示されると考えられる。具体的な判断基準が明確化される前の段階において、「阻止弁法」2条の文言上の意義から、同弁法適用の大前提は、外国の法律・措置が国際法及び国際関係上の基本原則に明らかに違反し、経済制裁等の手段を通じて、中国の公民・法人が第三国(地区)の実体と行う正常な経済貿易又は関連する活動を侵害し又は侵害しうる事情が存することであると解される。一方で、中国国内の各実体の間における取引が影響を受ける事情は含まれない。したがって、企業が将来的に法的リスクの発生を回避するためには、「阻止弁法」適用の範囲、対象等の関連する重要な問題について、事前に中国商務部への如実な報告を行い、当局の正式な認定意見を取得することが望まれる。

(3)主管部門

商務部が昨年公布した「信頼できない実体リストに関する規定」と同様に、本法の主管部門は、同じく中央国家機関の関連部門が参加する職務遂行機構であり、その構成に関し、商務部による主導の下、商務部及び発展改革委員会が他の関連部門と共同して具体的事項につき責任を負う。本法の施行過程においては、外交部、税関総署、国家安全部、公安部、国家市場監督管理総局等の部門も各自の主管権限に基づいて関連する職務の遂行に参加し又は協力するものと予想される。

(4)報告制度

「阻止弁法」5条によると、中国の公民、法人又はその他組織は、外国の法律及び措置により第三国(地区)又はその公民、法人又はその他組織との正常な経済貿易及び関連する活動が禁止され又は制限される場合に当面したときは、30日以内に国務院商務主管部門(商務部)に如実な報告をしなければならない。報告者が秘密の保持を要求した場合、主管部門は、それを秘密として保持しなければならず、違法に秘密が漏洩されたとき、関連する人員は処罰され、刑事責任の追及もありうる。また、報告者も如実な報告の義務を負い、これに反したときは、警告及び罰金の処分となる。

(5)禁止令制度

禁止令制度は、禁止令の発出・遵守・免除これら3つの内容からなる。

禁止令の発出:関連する外国の法律及び措置に不当な域外適用の事情が存することを確認したとき、職務遂行機構は、関連する外国の法律及び措置の承認、執行又は遵守を禁じる禁止令を商務部において発することを決定することができる。禁止令の発出後、職務遂行機構は、実際の状況に基づいて禁止令の中止又は取消を決定することができる。

禁止令の遵守:禁止令は、その発出後直ちに強制力が生じ、それに従わない場合、関連する主体は、合法的な権利・利益の侵害を受けた者により民事賠償が請求されることのほか、商務部により警告が発せられ、期限内の是正が命じられるとともに、情状の軽重に基づいて罰金に処されることが考えられる。

禁止令の免除:中国の公民、法人又はその他組織は、商務部に禁止令の遵守の免除を申請することができる。それにあたり、申請者は、免除を申請する理由、免除を申請する範囲等の内容を含む申請書を提出することが求められ、商務部は、申請を受理した日から30日以内に、また、緊急を要する事情のときは速やかに、認可するか否かを決定しなければならない。

禁止令の適用主体が外国の企業を含むか否かについては一定の争いがあるが、筆者は、禁止令免除申請の主体が「中国の公民、法人又はその他組織」のみに限定されていることから、禁止令制度は、外国で登録されている企業に対してはその拘束力が生じないと考える。また、禁止令への違反を理由とした主管部門の警告・罰金について、これを外国の企業に適用するとしても、その執行は困難だと思われる。

(6)救済措置

救済措置に関し、「阻止弁法」9条によれば、中国の公民、法人又はその他組織は、関連する主体が禁止令の対象となる外国の法律及び措置を遵守したことによって自己の合法的な権利・利益が侵害されたとき、中国の法院に訴訟の提起及び強制執行の申立てを行うことができる。ただし、関連する当事者が法により免除を受けている場合はその限りでない。また、禁止令の対象となる外国の法律に基づいて下された判決又は裁定により中国の公民、法人又はその他組織が損害を受けたとき、損害を受けた者は法により中国の法院に訴訟を提起し、その判決又は裁定により利益を得た当事者に損害賠償を求めることができる。

換言すれば、「阻止弁法」は、当事者に禁止令の対象となる外国の法律に基づき下された判決、裁定又は措置によりもたらされた損害につき救済の権利を明確に与え、当事者は、その損害をもたらした相手方当事者に訴訟を提起しうるだけでなく、利益を得た主体に訴訟を提起して損害賠償を求めることもできる。

「阻止弁法」は、賠償の範囲、賠償請求の対象・手段・法適用などの問題に関して具体的な規定を定めていないことから、司法実務においては比較的大きな裁量の余地があるものと考えられ、「賠償額の計算方法」、「利益を得た当事者に国外の主体が含まれることの是非」等をめぐる問題については現在なお異なる見解が存在しており、今後の明確化が待たれる。

(7)支援措置

「阻止弁法」の施行過程で救済を必要とする主体が遭遇しうる困難について、「阻止弁法」10条・11条は相応の支援措置を定めている。これには、職務遂行機構を構成する政府の関連部門は外国の法律及び措置の不当な域外適用に対応するための指導・役務を中国の公民、法人又はその他組織に提供する責任を負うこと、また、中国の公民、法人又はその他組織が禁止令を遵守して関連する外国の法律・措置の遵守を拒んだことにより重大な損害を受けた場合には、政府の関連部門において具体的な状況に基づいて必要な支援を行うことが含まれる。

この「必要」な範囲の判断、「支援」が経済的な補償を含むか否か、それが含まれる場合における計算方法などの問題は、企業の高い関心を集めている。筆者は、「支援」に経済的な補償を含めることはおそらく困難であり、多くの場合、政策的な支援、その他措置に関する支援になるものと予想している。この点に関しても、同じく今後の法執行の実務における明確化が待たれる。

(8)報復措置

「阻止弁法」12条は、外国の法律及び措置の不当な域外適用に対し、中国政府は実際の状況及び必要に基づいて必要な報復措置を講ずることができると定めている。この条項は、疑いなく、より完全な保護を企業に提供するものである。また、「阻止弁法」においては、中国の締結した国際条約・協定の遵守も重ねて言明されており、この点は「阻止弁法」の適用と抵触しない。

3.実務的思考

(1)如実な報告の未履行及び禁止令への違反の法的責任

「阻止弁法」13条は、如実な報告の未履行及び禁止令への違反の法的責任について定めており、現行の関連法令によると、この罰金額の上限は3万元になると解されるが、2021年1月における行政処罰法の改正に鑑みると、将来的に罰金額の上限が引き上げられる可能性が排除されない。この点についても今後の動向を注視する必要がある。

(2)受動式免除申請

職務遂行機構が外国の法律及び措置の不当な域外適用について認定を行うにあたっては、受動式免除申請の事情についても十分に考慮しなければならない。例えば、ある外国の法律又は措置が一部の中国企業の合法的な権利・利益に対する侵害をもたらしたにすぎず、又はそのうちさらに一部の企業が外国政府の関連する許可を取得した場合、その外国の法律又は措施を概括的に「不当な域外適用」として認定され、かつ禁止令に組み入れられてしまうと、外国政府の関連許可を取得した企業が法により免除の申請をしなければならない事態が生じ、企業にとって一定の負担増となる。

(3)一方的輸出管理コンプライアンス条項の危険性

米中貿易摩擦の影響を受け、米国関連輸出管理によるサプライチェーン断絶のリスク又は経済制裁による業務中断のリスクを避けるため、一部の企業は、取引契約に米国関連輸出管理コンプライアンス義務条項を追加したり、あるいは取引相手方に米国関連輸出管理コンプライアンス誓約書の提出を求めたりして、対応しようとしている。しかし、注意喚起を要する点として、このような一方的条項が依拠する米国の法令が職務遂行機構により不当な域外適用の事情が存すると判断され禁止令の対象に組み入れられた場合、取引の相手方又は義務を負う者が自己の合法的な権利・利益が侵害されたと主張して損害賠償を求める訴訟を人民法院に提起する可能性がある。これについては、企業として、将来において関連するコンプライアンス義務条項を制定し又は修正する際、より客観的、中立的かつ総合的な文言を用いるべきか、あるいは特殊な取引について報告制度、禁止令免除制度を十分に利用すべきかなどの実務上の問題について、更なる検討を行うことが望まれる。

4.中国国内の各種企業に対する実務上の意義

近年、米中貿易摩擦が激化するにつれて、米国は頻繁に輸出管理及び経済制裁を利用し、これによって中国さらにはその他の国の企業が国際的な取引やグローバル経済において一定の影響や制限を受ける事態が生じている。今回の「阻止弁法」の公布は、特定国の法律に狙いを定めたものではないが、外界においては一般に、それは主に米国の制裁措置を遵守する行為を対象とするものと評されている。

(1)米国の経済制裁に対する阻止の効力

中国国内の外商投資企業を含む各種企業(以下、「中国企業」という)にとって、「阻止弁法」の実務面における最も重要な意義は、外国が中国企業に対して実施する二次制裁(Secondary Sanctions)の阻止を目的としていることである。米中貿易摩擦において、中国企業の損失を最も重大にしているのは、まさに米国の二次制裁の手段である。なぜなら、制裁対象となった企業は、国内外の銀行によるあらゆる金融サービスの停止、国内外の取引先による提携や取引の打切り、投資家による投資資金の引上げ、契約紛争の発生といった重大な結果に当面しうるからである。現時点において、「阻止弁法」は、政治的な見地から中国企業を支援する姿勢を示すものだと考えられるが、どのように実際に役立つのか、今後の観察が待たれる。

(2)米国の輸出管理に対する阻止の効力

第三者の不完全な統計ではあるが、2021年1月時点で、米国のエンティティリストに掲げられた中国企業は371社に上り、中国はロシアを抜いて、米国のエンティティリスト掲載企業数が最多の国となった。また、計59の中国の実体が「軍事エンドユーザーリスト」(以下、「MEUリスト」という)に掲げられている。エンティティリスト及びMEUリストに掲げられた企業は、米国からの一連の製品・技術の購入が制限され、それによりサプライチェーンの断絶、契約違反など一連の連鎖反応が生じうる。しかし、「阻止弁法」2条の文言からすると、同弁法は、米国による中国の実体に対する輸出管理面の制裁措置には適用されないと解される。また、米国の輸出管理制裁措置に対する報復措置について、中国の「信頼できない実体リストに関する規定」を通じて対応できるか否かも、現時点では明らかでない。

(3)軽視しえない中国企業のコンプライアンスの道

現段階において、「阻止弁法」は、これまでに定められた「信頼できない実体リストに関する規定」及び中国輸出管理法とともに、攻撃防御の双方を備えた中国の輸出管理及び報復の法体系の枠組を構築したが、中国企業にとっては、困難な選択を迫られることになったともいえる。例えば、イランとの貿易を停止しないと米国の制裁を受ける可能性があるが、米国の法律を遵守してイランとの貿易を正当な理由なく停止すると、中国の「阻止弁法」の要求に対する違反となる可能性がある。それゆえ、中国企業は、各国の複雑な法令が交錯する間隙において、各国の関連する監督管理政策を十分に理解したうえ、「法令遵守」及び「ボトムライン思考(bottom-line thinking)」の意識を培い、企業自身の特徴と合致するコンプライアンス体系を確立してその定期的な検査を行い、高級管理職及び関連従業員に対する専門的な研修を実行するとともに、最新の国際情勢に応じて自社に合った正確な判断を行うことが必要となる。

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