1. はじめに
2023年12月29日、第14期全国人民代表大会常務委員会第7回会議で改正会社法(以下「新会社法」という)が可決され、新会社法は2024年7月1日から施行される。今回の改正において、新会社法は、現行会社法の13章218条を基礎として、実質的に約70条の追加・改正を行った。
まず、新会社法による改正のうち大部分の日系企業と関わる内容を整理すると下表のとおりとなる。
(1)有限責任会社の企業統治
(2)株主、実質的支配者、董事・監事・高級管理職の責任
本稿では、会社資本充実原則の実施、一元的企業統治の枠組みの確立、企業統治への従業員の参加、支配株主・実質的支配者に対する規制の強化等の新会社法をめぐるいくつかの改正の要点について解説する。
2. 一部の要点の解説
(1)会社資本充実原則の実施
新会社法は、資本充実原則を実施するため、有限責任会社登録資本払込期限設定、株主権喪失制度、株主出資期限早期化制度、発起人出資不足連帯責任、株式譲渡当事者間責任配分等の多くの面で条項の追加・改正を行った。
2013年の会社法改正で、登録資本払込登記制が引受登記制に改められるとともに、有限責任会社の登録資本払込期限に関する規定が削除された。その後の実務においては、登録資本金が巨額な一方、株主が実際に払い込む金額は極めて低い会社が多く現れた。これにより、会社の資金的信用を示す登録資本の機能が低下し、市場取引信用を判断・評価するためのコストが増大した。今回、新会社法によって登録資本払込期限に関する規定(47条)が再び追加され、法律面から株主出資期限に関する規制が強化されることとなった。
また、新会社法は、株主の出資責任を強化するとともに、会社及び債権者の利益を保護するため、出資に瑕疵ある株主の会社に対する損害賠償責任及び関連する行政責任(49条・252条)、会社設立時の出資の瑕疵に関する株主間の連帯責任(50条)、株主の出資に対する董事会の検査・催告の義務、関連する董事の責任及び株主の権利喪失に関する制度(51条・52条)、権利喪失株式の処分及び他の株主の出資に関する責任(52条)、出資払戻時における関連する董事・監事・高級管理職の連帯賠償責任(53条)、出資に瑕疵ある株式の譲渡後における譲渡当事者の責任(88条)、違法減資時における株主及び関連する董事・監事・高級管理職の責任(226条)等に関する規定も追加した。
(2)一元的企業統治の枠組みの導入
1993年会社法から現在に至るまで、中国の会社統治制度は大陸法系の伝統を踏襲し、董事会と監事会による二元的な統治の枠組みを設けてきた。新会社法は一元制(董事会のみ)を導入して企業統治の構造に選択可能な案を提供し、これが今回の改正の大きな注目点となった。
新会社法69条によると、会社は定款に会社の統治構造を定め、伝統的な二元制(董事会、監事会を設け、監事会が監督の機能を担う)又は一元制(董事会に監査委員会を設け、監事会又は監事を設けない)を選択し、さらには混合制(監事会又は監事を設けると同時に、董事会に監査委員会を設ける)を採用することができる。また、新会社法83条によると、監事会又は監事は、もはや設置を強制される機関ではなくなり、規模が比較的小さく、又は株主の人数が比較的少ない有限責任会社は、全株主の一致した同意がある状況の下、監事会又は監事の設置をしないこともできる。
(3)従業員が企業統治に関与する民主的な管理制度の強化
現行会社法51条は、監事会の構成員の3分の1以上は従業員代表でなければならないと定め、また、現行会社法上、従業員代表による董事就任については、国有独資会社のほか、2つ以上の国有企業又は2つ以上のその他の国有投資主体が投資して設立した有限責任会社に限り、従業員代表董事を置かなければならないとされている。したがって、実務において、国有資本による出資を受けたこれらの類型の会社ではなく、監事会の設置もしていないときは、董事会及び監事のいずれについても、従業員代表を就任させる必要が存しない。
新会社法は、現行会社法におけるこれらの規定の留保を基礎として、従業員代表の企業統治への関与に関する更なる制度的な規定を設けた。新会社法68条1項によると、従業員数が300名以上の有限責任会社は、法により監事会を設置し、かつ、これに会社従業員代表が存在する場合を除き、その董事会の構成員に会社の従業員代表を含めなければならない。したがって、新会社法の下、国有資本による出資か否かにかかわらず、従業員数300名以上の有限責任会社でありさえすれば、少なくとも1名の従業員代表を監事会又は董事会いずれか一機関の構成員としなければならない。
しかし、新会社法のこれらの規定は、現有会社の遡及効、すなわち現存する300人以上の有限責任会社は新会社法のこれらの規定に基づく定款の変更、組織機構の調整、従業員代表の監事会又は董事会構成員への就任をしなければならないか否か、いつまでにそれをしなければならないか、また、関連する法的効果について明確な規定を定めておらず、今後における関連する法令、司法解釈等の公布を待つ必要がある。
(4)支配株主、実質的支配者を制約する制度の強化
現行会社法は、水平的法人格の否認に関する直接的な規定を定めていない。それゆえ、司法実務においては、株主が自己の支配する2つ以上の会社を利用して会社法人の独立的な地位及び株主の有限責任を濫用する行為について、現行会社法20条3項における垂直的法人格の否認に関する規定に照らして認定を行う必要があった。新会社法23条は、水平的法人格否認の直接的な規範的根拠を確立し、会社債権者の利益の保護にさらに有利となる。
また、現行会社法は、実務において多々見受けられる「影の董事」、「影の高級管理職」に関する責任、すなわち支配株主及び実質的支配者が自己の指名した董事、経理等を通じて間接的に会社をたびたび管理する一方で、自身は董事・監事・高級管理職に対する会社法上の義務の要求に制約されない問題について規定していない。この制度上の欠陥を補填するため、新会社法は、180条3項において、会社の支配株主、実質的支配者が会社の董事に就任しないものの、実際に会社の事務を遂行する場合には、董事・監事・高級管理職の忠実義務及び勤勉義務に関する規定の適用を受けるとする規定を、また、192条においては、会社の支配株主、実質的支配者が董事、高級管理職に対して会社又は株主の利益を害する行為を行うことを指示した場合には、その董事、高級管理職と連帯責任を負うとする規定をそれぞれ新設した。今回の改正は、会社の支配株主、実質的支配者の管理行為をさらに規範化し、その趣旨は、中小株主の利益の保護にある。
3. おわりに
今回の新会社法の改正は、会社の統治制度の改善に対してさらに豊富な制度の選択を提供するとともに、会社の組織及び行為をさらに規範化し、各主体の責任を強化した。新会社法の一部規定には、なお不明確な箇所があることから(例えば新旧法における整合の問題など)、今後における関連文書の公表に注意を払い、会社組織の枠組みの調整及び会社定款の変更に関する研究を適時に行って、法律の要求に適合することが望まれる。