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最近の法施行及び実務を踏まえた中国独禁法関連新規定の解説

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訳:クロスボーダー投資と M&A

中国では改正独禁法が2022年8月1日に施行された後、「事業者結合審査規定」、「独占協定禁止規定」、「市場支配的地位濫用行為禁止規定」も相次いで公布され、2023年4月15日に施行された。そこで、本稿においては、近時の法執行実務を踏まえ、これら3つの規定内容から見る法執行の実務動向について解説を行う。

Ⅰ.事業者結合に関する新規定と実務動向

1.支配権の判断に当たって実情をより重視

 事業者結合の本質は、事業者が他の事業者に対する支配権を取得し、又は決定的影響力(以下、支配権と決定的影響力を併せて「支配権」という)を及ぼすことであるため、事業者結合届出の要否は、支配権の取得の有無により左右される。支配権の取得の判断に当たり考慮すべき要素について、「事業者結合審査規定」5条1項は、これまでの規定を基礎としながらも、「株主総会」を「株主(総)会等の権力機関」に、さらに「董事会(取締役会に相当)又は監事会(監査役会に相当)」を「董事会等の決定又は管理機関」に改め、監事会の運用メカニズムを支配権に関して考慮すべき要素から除外するとともに、ファンド等のパートナーシップ企業に設立された「経営調整委員会」、「意思決定委員会」等の管理機関を考慮すべき要素として加えるものとした。すなわち、「事業者結合審査規定」は、初めて正式に「董事会等の決定又は管理機関」を「株主(総)会等の権力機関」と同様に、その過去の出席率及び議決の状況も含め、考慮すべき要素に組み込むものとしたのであり、この変更から、独占禁止当局は支配権の取得の実務判断に当たって、事業者の経営管理の「実情」に対する審査をより重視する姿勢を示したことがうかがわれる。支配権の取得の判断に当たっては、多数の要素をもって「実情」に基づきケースバイケースで判断するものとしており、これは過去の届出義務不履行に対する処罰事例からもよく分かる。

2.各側面から事業者結合の違法な実施に注意

 「事業者結合審査規定」8条3項は、「結合の実施」の判断に際して考慮すべき要素を追加し、市場主体の登記又は権利変更登記、上級管理職の派遣、経営上の決定・管理への実質的な関与、他の事業者との機微情報の交換、業務の実質的な統合の有無などを含むが、これらに限られないものと定めた。

3.通報制度の改正によるリスクの顕在化

 第三者からの通報が当局による調査・処罰のきっかけとなった実例は少なくない。「事業者結合審査規定」は、次の二つの観点から事業者結合通報制度の改正を行った。第一に、届出基準に達しないものの、競争を排除・制限する効果又はそのおそれがある事業者結合について、いかなる組織及び自然人も市場監管総局に書面をもって通報することができるものとされた(同規定43条1項)。なお、通報に際しては、関連する事実及び証拠も一緒に提出することが求められる。第二に、事業者結合の違法な実施について、いかなる組織及び自然人も市場監管総局に通報することができ、通報に際しては、関連する事実・証拠の提出を含め、書面形式を採用するものとされた(同規定57条)。

Ⅱ.独占協定の新規定と実務動向

1.潜在的な競争相手とも独占協定が成立し得る

 競争相手の範囲について、「独占協定禁止規定」8条は、「競争関係を有する事業者は、同一の関連市場において競争を行う実際の事業者及び関連市場に参入して競争を行い得る潜在的事業者を含む」と新たに規定した。すなわち、独占協定の成否を判断する際に、市場に現存する競争関係にある事業者を分析するだけでなく、市場参入の計画と能力を有する潜在的な事業者も検討対象に加えなければならない。

2.「セーフハーバー」制度の市場占有率基準はいまだ不明確

 中国独禁法18条3項は、各業界の関連する垂直的独占協定に適用される「セーフハーバー」制度を確立し、「事業者が、その関連市場における市場占有率が国務院独占禁止法執行機関の定める基準を下回っており、かつ、国務院独占禁止法執行機関の定めるその他の要件を充足することを証明できる場合は、禁止しない」と定めている。しかし、正式に公布された「独占協定禁止規定」は、その17条において、「独占協定禁止規定(意見募集稿)」に定める具体的な適用要件を規定せず、中国独禁法18条3項と同様の文言にとどめた。

3.責任者個人への事情聴取が可能に

 中国独禁法55条によると、独禁法違反の疑いがある場合、当局は、事業者の法定代表者又は責任者の事情聴取を行い、改善措置を行うよう求めることができる。これを踏まえ、今回の「独占協定禁止規定」は、「事情聴取」制度の内容、手続及び方法を更に具体的に規定した。

4.個人及び独占協定の締結を手配・組織した者にも適用されるリニエンシー制度

 「独占協定禁止規定」37条は、独占協定の締結に対して個人的責任を負う者にもリニエンシー制度を適用し得ることを明確に定め、これらの者による申請の時期、資料提出に関する具体的な要求、提出すべき重要な証拠の基準などを明確にした。同規定47条は、更に処罰の軽減又は免除の幅を規定し、独占協定の成立に個人的責任を負う事業者の法定代表者、主要責任者及び直接責任者に対して、「独占禁止法執行機関は50%の処罰を軽減又は免除することができる」と定めた。

Ⅲ.市場支配的地位の濫用の新規定と実務動向

 市場支配的地位の濫用について、「市場支配的地位濫用行為禁止規定」は、近年の各分野における法執行の実務を基礎として総括・集約を行い、一部濫用行為の態様を具体化し、「取引相手において受入困難な価格の設定」、「取引相手からの商品の買戻し」、「取引相手との別取引の実施」等を含めるものとした。

Ⅳ.おわりに

 法改正の影響は今後の実務に反映されていくため、企業としては、関連新規定を的確に把握しつつ、法執行実務の動向に注目し、日常的な経営における独占禁止法分野のコンプライアンスを徹底することにより、中国独禁法違反による高額な課徴金やレピュテーションリスクの回避に努めることが望まれる。

お知らせ
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会社の登記管理を規範化するために、2024年12月20日、国家市場監督管理総局は「会社登記管理実施弁法」(以下、「弁法」という)を公布し、これを2025年2月10日から施行するものとした。弁法は、改正を経て2024年7月1日に施行された「中華人民共和国会社法」(以下、「改正会社法」という)などを基礎に、会社の登記に関する規定をさらに具体化するものである。本稿においては、在中日系企業のほとんどが有限責任会社であることに鑑み、「弁法」における有限責任会社に関する要点について概説するものとしたい。日本業務

2025/04/17

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中国においては、オンラインによる「人民法院事例集」の正式な公表が2024年2月27日から開始され、2025年2月24日時点で所収の事件は計4771件に上り、これによって、最高人民法院の指導的役割が十分に発揮され、各事件における各裁判官の判断が更に規範的であるものとなることが期待されている。 これらの事件のうち、安全生産法違反に関する事件に着目してみると、刑事事件8件(危険作業罪2件・重大責任事故罪5件・重大労働安全事故罪1件)、行政事件7件、民事事件4件の計19件が挙げられ、以下本稿においては、刑事・民事各1件の典型的な事件を対象に、その裁判要旨を参考として、違法行為の成立と企業責任者に対するその責任の追及のほか、安全生産に関する企業・責任者への法令の要求について論じるものとしたい。日本業務

2025/04/17

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「両用品目輸出管理条例」(以下、「条例」という)が、国務院第41回常務委員会会議における可決(2024年9月18日)を経て2024年10月19日に公布され、同年12月1日から施行される予定である。この「条例」は、輸出管理法を更に徹底するものであり、発展と安全の総合的な均衡を図り、両用品目輸出管理における従来の実務の総括と国際的な経験に基づいて輸出管理の措置を整備し、国の安全と利益の維持のために制度的な支柱と法治による保障を与えることをその目的としている。本稿においては、全6章50条からなる「条例」の要点を解説し、企業の実務運用上の参考を提供するものとしたい。輸出管理・制裁,日本業務

2024/12/03