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中国事業における広告法コンプライアンス上の注意点

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訳:コーポレート・M&A-日本業務

※本稿は、『MUFG BK 中国月報』(三菱UFJ銀行、2023年2月号)に掲載された原稿を編集・更新したものです。

はじめに

 中国広告法は、1995年2月1日の施行以来、これまで計3回にわたり改正が行われた。公開情報によると、広告法違反による処罰件数は2022年及び2023年のいずれも約2.5万件に達し、日系企業が対象となった事例も見受けられる。処罰されると、過料の金銭的負担のみならず、大々的な報道によるレピュテーション(評判)への影響も懸念される。本稿では、中国における広告宣伝が持つ独特の注意点や、中国で事業展開する外資系企業が遭遇しやすい広告法上の問題や注意点について論ずるものとしたい。

1. 中国の領土の完全性と関わる不適切な表現

 広告法9条4号によると、広告は、国家の尊厳又は利益を害し、国の秘密を漏洩してはならないとされている。近年では、中国の領土の完全性と関わる不適切な表現を広告に用いたとして処罰されるケースがしばしば見受けられる。例えば、会社の公式サイトにおける「当社の親会社は世界十数カ国において○○の拠点を設けている」との紹介文に台湾を1カ国として掲載していたこと、海外から仕入れた商品に「原産国:台湾」と記されたラベルを付して販売したこと、パンフレットやチラシに使用した中国地図が規範的でなく、台湾・南海諸島が中国領として完全に反映されておらず、国境線が不正確であったことなどを理由に、市場監督管理部門により数十万ないし広告法に定める過料の上限である100万人民元(約2,000万円)に処された事例があった。

 広告法違反のほか、規範的でない地図の使用については、「地図管理条例」等の法令に基づき、自然資源部門により処罰されることが考えられ、実際の処罰事例もあった。

 リスク軽減のため、外資系企業は、事業を展開する国・地域、関連会社、商品の原産国などの表記について中国領土の完全性の観点から工夫する必要がある。また、地図の使用に際しては、可能な限り中国で出版された地図や、中国の関係政府機関が公表した地図をそのまま用いるのが望まれるが、自ら地図を作成・加工する必要がある場合には、「地図管理条例」に基づいて、自然資源部門による審査を受けなければならない。

2. 絶対的な用語の使用

 広告法9条3号は、「国家レベル」、「最高レベル」、「最善」等の絶対的な用語を広告に用いることを禁止している。近年の処罰事例をみると、同号が列挙する文言のみならず、「トップクラス」、「第一ブランド」、「世界レベル」、「純天然」、「100%安全」等の使用も処罰されるリスクがある。

 絶対的な用語は一切の使用が禁止されるわけではなく、これまでに一部地域の市場監督管理部門が公布した法執行ガイドライン[1]は、広告法が禁止する絶対的な用語の認定方法を定めている。さらに、国家市場監督管理総局が2023年2月25日に公布し、同日に施行された「広告の絶対的な用語に関する法執行ガイドライン」は、広告法が禁止する絶対的な用語に該当しないと主張しうる状況を定めている。

 (1)商品事業者のサービス態度又は経営理念、企業文化、主観的願望のみを表明する場合

 (2)商品事業者の目標追求のみを表現する場合

 (3)絶対的用語が指す内容は広告で販売される商品の性能、品質と直接関連がなく、かつ消費者を誤認させない他の状況ではない場合

 (4)同一ブランド又は同一企業の商品を自ら比較するためのみに使用されている場合

 (5)宣伝する商品の使用方法、使用時間、保存期間などの消費表示にのみ使用する場合

 (6)国家標準、業界標準、地方標準などに基づき認定された商品分類用語に絶対的用語が含まれるとともに根拠を説明できる場合

 (7)商品名称、規格型番、登録商標又は特許に絶対的用語が含まれ、広告に商品名称、規格型番、登録商標又は特許を使用した商品を指し、他の商品と区別する場合

 (8)国の関連規定に基づき評価された賞、称号に絶対的用語が含まれている場合

 (9)具体的な時間、地域などの条件を限定した前提のもと、時空間順序の客観的状況を表現し、又は製品の販売量、売上高、市場占有率などの事実情報を宣伝する場合

 他方、これらの場合に該当するとしても、広告の真実性に関する立証責任は広告を行う主体が負うとされているため、依然として注意を要する。

3. 虚偽広告

 広告法28条は、「虚偽又は誤解を招く内容により消費者を欺き、誤導する広告」を「虚偽広告」と定め、次の事由のいずれかに該当すれば虚偽広告が成立するとの基準も列挙している。

 (1)商品又はサービスが存在しないこと

 (2)商品の性能、機能、生産地、用途、品質、規格、成分、価格、生産者、有効期限、販売状況、受賞歴等の情報、又はサービスの内容、提供者、形式、品質、価格、販売状況、受賞歴等の情報、並びに商品又はサービスに関する承諾内容等の情報が実際の状況と合致せず、購買行為に実質的な影響を及ぼしたこと

 (3)虚構、偽造又は検証不能の科学研究成果、統計資料、調査結果、要約、引用文等の情報を用いて証明資料としたこと

 (4)商品の使用又はサービスの享受の効果が架空のものであること

 (5)その他、虚偽の又は誤解を招く内容により消費者を欺いたり、誤認させたりした場合

 また、虚偽広告は、広告法のみならず、不正競争防止法上の虚偽宣伝(「虚偽の又は誤解を招く商業宣伝」)として処罰されるリスクもあり、実際に処罰事例も見受けられる。この虚偽宣伝について、法執行の実務におけるこれら両法の適用には曖昧な部分もある。広告法に基づく処罰では、原則として広告費用を基準に過料が計算されるのに対し、不正競争防止法に基づく処罰は、軽減事由等がない限り20万人民元が過料の下限とされており、いずれが高額な過料となるかは具体的な状況による。

4. 比較広告

 比較広告とは、法令における明確な定義はないが、一般に自社の商品・サービスと競合他社のそれとを比較して、自社の商品・サービスの特徴・長所を強調する広告をいう。

 広告法16条は、医療・薬品・医療機器に関する比較広告を禁じ、機能又は安全面の比較、他の医療機関との比較などを行ってはならないと定めている。それ以外の分野であれば比較広告は一般に禁じられていないが、「広告は、他の生産経営者の商品又はサービスを誹謗中傷してはならない」と定める広告法13条の遵守が求められる。また、不正競争防止法11条も商業誹謗を禁止しているため、不適切な比較広告はこの規定にも抵触し、同法に基づいて処罰されることもありうる。

 リスクを軽減するためには、競合他社の具体的な商品・サービスとの直接的な比較ではなく、客観的な真実に基づく内容をもって比較を行うものとし、他の商品・サービスを貶しめ、又は消費者に誤解を生じさせる文言の使用を避けることに注意しなければならない。

5. 特定の分野・方式の広告

 広告法その他広告関連法令には、特定の分野に関する広告や特定の方式による広告をより厳しく規制する特別な規定も定められており、例えば次のようなものがある。

(1)たばこ・酒類

 たばこの広告は、広告法において基本的に禁止されている。酒類の広告については、たばこほどの厳格な規制はないものの、同法23条により、広告内容において飲酒の動作を示すこと、緊張や不安の解消や体力増強の効能を明示・暗示することなどが禁止されている。

(2)医薬関連分野、健康食品、化粧品等

 医薬関連分野、健康食品の広告については、広告法のほか、「医療広告管理弁法」、「薬品、医療機器、健康食品、特別医学用途配合食品広告審査管理暫定弁法」等の個別法令にも特別な規定が定められ、その機能や安全性を断言・保証する内容やイメージキャラクターの起用を禁止する一方、健康食品の広告には薬品との代替ができない旨の明確な表明を義務づけており、特に注意を要する。また、これらの広告を行うためには、衛生部門や市場監督管理部門による審査を事前に受けなければならず、承認された広告内容を逸脱してはならない。

 化粧品の広告については、上海市市場監督管理局及び上海市薬品監督管理局が2024年2月28日に新たな「上海市化粧品業界広告宣伝コンプライアンス指針」を共同で公布している。

(3)インターネット広告

 インターネットの普及に伴う特別法令として、旧法を基礎に改正された「インターネット広告管理弁法」が2023年5月1日に施行された。同法は、アルゴリズムやライブ配信を利用した広告に関する規定が追加されている。

おわりに

 以上のように、中国において不当な広告宣伝は、広告法や不正競争防止法その他の法令に基づく処罰の対象とされ、医薬品や健康食品など一定分野の広告やインターネットによる広告については、特別な規制が行われている。そのため、外資系企業が中国での事業展開においては、広告宣伝の観点からもコンプライアンスの確立・整備に注意を払うことが求められる。

例えば、2017年に当時の上海市工商行政管理局が公布した「一部広告の審査要求の再説明に関する審査提示」などが挙げられる。

参考資料

  • [1]

    例えば、2017年に当時の上海市工商行政管理局が公布した「一部広告の審査要求の再説明に関する審査提示」などが挙げられる。

お知らせ
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「両用品目輸出管理条例」(以下、「条例」という)が、国務院第41回常務委員会会議における可決(2024年9月18日)を経て2024年10月19日に公布され、同年12月1日から施行される予定である。この「条例」は、輸出管理法を更に徹底するものであり、発展と安全の総合的な均衡を図り、両用品目輸出管理における従来の実務の総括と国際的な経験に基づいて輸出管理の措置を整備し、国の安全と利益の維持のために制度的な支柱と法治による保障を与えることをその目的としている。本稿においては、全6章50条からなる「条例」の要点を解説し、企業の実務運用上の参考を提供するものとしたい。輸出管理・制裁,日本業務

2024/12/03

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中国広告法は、1995年2月1日の施行以来、これまで計3回にわたり改正が行われた。公開情報によると、広告法違反による処罰件数は2022年及び2023年のいずれも約2.5万件に達し、日系企業が対象となった事例も見受けられる。処罰されると、過料の金銭的負担のみならず、大々的な報道によるレピュテーション(評判)への影響も懸念される。本稿では、中国における広告宣伝が持つ独特の注意点や、中国で事業展開する外資系企業が遭遇しやすい広告法上の問題や注意点について論ずるものとしたい。

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