1.はじめに
2020年12月2日、商務部、国家暗号管理局(以下、「国家暗号局」という)及び税関総署は共同で2020年第63号公告(以下、「63号公告」という)を発するとともに、その附属文書1として「商用暗号輸入許可リスト」(以下、「輸入リスト」という)及び「商用暗号輸出管理リスト」(以下、「輸出リスト」といい、これら両リストの総称として「商用暗号リスト」という)、附属文書2として「商用暗号輸出入許可手続」をそれぞれ公表し、これらは2021年1月1日から施行された。既に施行された注目の「輸出管理法」(2020年12月1日に施行)との関連性から、この時期に現れた商用暗号リストは、商用暗号の輸出入管理にどのような影響を与えるのだろうか。また、商用暗号輸出リストと「輸出管理法」下の管理品目リストとはどのような関係に立つのだろうか。本稿は、これらの点につき重点的に検討するものとしたい。
2.商用暗号リスト公表の背景
これまで、商用暗号の輸出入について、中国は主に1999年公布の「商用暗号管理条例」(以下、「管理条例」という)及び関係部門規則等に基づき、監督管理を行ってきた。その後20年近くの模索と蓄積を経て、2020年1月1日、暗号管理分野の第一部の総合的な法律である「暗号法」が正式に施行され、暗号に関するルールを法律レベルで再統合した。
そのうち、「暗号法」28条は、商用暗号の輸出入管理について原則的な規定を定めている。すなわち、「国務院商務主管部門及び国家暗号管理部門は、法に基づいて、国家の安全、社会の公共利益と関連し、かつ暗号化保護機能を有する商用暗号に対して輸入許可を実施し、国家の安全、社会の公共利益又は中国が国際義務を負う商用暗号に対して輸出管理を実施する。商用暗号輸入許可リスト及び輸出管理リストは、国務院商務主管部門が国家暗号管理部門及び税関総署と共同して制定するとともに公表する。大衆消費類製品に採用されている商用暗号については、輸入許可及び輸出管理制度を実施しない」。
しかし、「暗号法」施行後しばらくの間、重要な構成要素である商用暗号リストが公表されておらず、この過渡期の段階では依然として従来の許可条件及び手続に従って輸出入許可管理が実施されていた。具体的に、暗号製品及び暗号技術を含む設備の輸入業務に従事する場合は、国家暗号局及び税関総署が共同で公布した第18号・第27号の公告に従って処理する必要がある。すなわち、「暗号製品及び暗号技術含有設備輸入管理目録」に列挙された商品を輸入するには、全て「暗号製品及び暗号技術含有設備輸入許可証」を申請のうえ取得しなければならず、商用暗号製品の輸出に従事する場合は、国家暗号局又は各省(区・市)の暗号管理局に「商用暗号製品輸出許可」を申請し、「商用暗号製品輸出許可証」を取得しなければならない。
「暗号法」の施行から1年近くを経て、商用暗号リストが遂に公表され、63号公告の関連規定により、2021年1月1日における同公告の施行に伴い、これまでの一連の商用暗号輸出入管理に関する公告は廃止された。これにより、2021年から主管部門は主に「暗号法」、「輸出管理法」、「税関法」及び63号公告の内容をもとに、商用暗号の輸出入活動を管理するものと理解される。また、上位法である「暗号法」の施行の徹底及び同法との整合性を実現するため、「管理条例」の改正も2020年に開始された。
2.商用暗号輸出入管理制度の主な変化
商用暗号の輸出入管理について、上述したように、中国はこれまで主に「管理条例」や関連する部門規則などに基づいて行ってきたが、「暗号法」及び商用暗号リストが実施されると、商用暗号輸出入管理制度は、主に次のような変化がある。
(1)大衆消費類製品採用商用暗号の輸出入管理対象からの除外
商用暗号の管理については、従来の「管理条例」による商用暗号類型を区別しない全面的な管理から「暗号法」による分類管理へと変化した。「暗号法」28条は、秘密の性質に応じて商用暗号に対する次のような分類管理を行うことを明確に規定している。
・国家の安全又は社会の公共利益と関連し、かつ暗号化保護機能を有する商用暗号に対しては輸入許可を実施する。
・国家の安全、社会の公共利益又は中国が国際義務を負う商用暗号に対しては輸出管理を実施する。
・大衆消費類製品に採用されている商用暗号は、国家の安全及び社会の公共利益に及ぼすリスクが小さく制御可能であるため、輸入許可及び輸出管理制度を実行しない。
分類管理により、特殊類型の商用暗号に対して必要な監督管理を行うとともに、通常貿易への影響も減少した。これは、国際社会における一般的な方法であり、中国の現有の商用暗号輸出入管理実務にも適合する。
しかし、「大衆消費類製品に採用されている商用暗号」の具体的な範囲及び内包については、現在のところ明確な規定がなく、国家暗号局が政策に関する質疑応答において示した解釈によると、大衆消費類製品に採用されている商用暗号とは、社会の公衆が制限を受けずに通常の小売経路で購入し、個人に使用することができ、暗号機能を容易に変更しえない製品又は技術をいうとされている。
(2)輸出入許可証発行機関の変化
「管理条例」13条及び国家暗号局・税関総署公告第18号の関連規定によると、これまで、暗号製品及び暗号技術含有設備の輸入又は商用暗号製品の輸出は、国家暗号局の許可を得て、輸入許可証又は輸出許可証の申請をしなければならないものとされてきた。この点、63号公告は、輸出入の商用暗号をデュアルユース品目及び技術の管理の範疇に含めることを明らかにしており、商務部がデュアルユース品目及び技術の主管部門として、今後においては、商用暗号のデュアルユース品目及び技術輸出入許可証の手続の担当官庁となる。
なお、63号公告附属文書2「商用暗号輸出入許可手続」2条の下、商務部においては事業者からの申請を受けた後、国家暗号局等の関係部門と審査を行い、法定期限までに許可又は不許可の決定を行う。ここからわかるように、国家暗号局が依然として輸出入申請の一部を審査する役割を担い、また、重大な難問と遭遇した場合には、これまでこの職務を担当してきた国家暗号局が実質的な主導機関となる可能性が排除されない。具体的には、商務部及び国家暗号局が商用暗号の輸出入申請審査において果たす役割、両部門の職務の分担などについて、今後の実務運用による明確化が待たれる。
(3)商用暗号輸入主体の拡張
従来、「管理条例」14条・15条、「一連の行政許可事項の廃止に関する国務院の決定」及び国家暗号局による暗号製品輸入管理ガイドラインの関連規定の下、輸入申請者となりうるのは外商投資企業又は国外の組織若しくは個人だけであり、暗号製品は、輸入後の用途が輸入申請者による自己使用のみに限られ、それを譲渡することはできず、内資企業は、国外から暗号製品を輸入することができないとされていた。
「暗号法」28条及び63号公告は、輸入申請主体の範囲を明確に定めていないが、①「暗号法」21条は内外資平等原則を規定していること、②63号公告は輸出入される商用暗号をデュアルユース品目及び技術の管理の範疇に含めることを明確化していること、③申請主体は「輸出入事業者」との文言で表現されていること、これら3つの変化からわかるように、理論上、渉外主体でない内資企業も、商用暗号輸入の適格主体になりうると理解される。もちろん、関連する具体的な実施と解釈については、今後の一連の法規及び実務の運用による明確化が待たれる。
(4)輸出リストの一本化
商用暗号の輸入管理は、今回の輸入リスト公表前から専門的な「暗号製品及び暗号技術含有設備輸入管理目録」が存在していたが、商用暗号の輸出管理については、これまで専門的な輸出管理リストが制定されておらず、主に関連分野の関連する輸出管理目録/リストに基づいて管理されていた。例えば、「核両用目及び関連技術輸出管理リスト」第3節(ウラン同位体分離設備及び部品)の3.4「ソフトウェア」における3.4.2項は、「3.1.1項に定める特性に達し又はそれを超えるように、3.1.1項が管理しない設備の性能特性を強化し又は発揮するため特別に設計されたソフトウェア又は暗号鍵/コード」を管理対象としている。今回公表された輸出リストは、従来の各種関連する内容を1つのリストに統合し、主管部門の管理にも有利であり、企業がより法律・規則を遵守して業務を展開することにも便宜を与える。
3.企業において注目すべき重要な内容
(1)商用暗号輸出リストと「輸出管理法」下の管理品目リストとの関係
商用暗号輸出リストの公表日は、ちょうど「輸出管理法」が正式に施行された翌日であったため、それが公表されると、多くの企業、特に外国企業及び外資系企業の注目を集め、「輸出管理法」下の管理品目リスト(以下、「管理品目リスト」という)との関係が論じられ、あるいは管理品目リスト公表の前兆ではないかとの推測がなされるなど、少なからぬ反応が示された。
これについて、「暗号法」が2019年10月26日に公布された際、既に同法28条において商用暗号輸出リストの制定が明確に定められていたことから、起草、意見募集などの過程を経て、ちょうどこの時期の公表となったにすぎないと思われる。また、管理品目リストは、現行の「デュアルユース品目及び技術輸出入許可証管理目録」、「軍用品輸出管理リスト」、今回公表された商用暗号輸出リストなどの専門分野のリストをさらに統合し、具体的な状況に応じて新たな管理品目を追加する可能性があるため、その公表にはまだ時間がかかると予想される。
(2)商用暗号輸出入関連規定違反の法的責任
「管理条例」20条は、暗号製品若しくは暗号技術含有設備の輸入又は商用暗号製品の輸出を許可なく行った場合には、国家暗号管理機関が状況に応じそれぞれ工商行政管理部門、税関などと共同して暗号製品を没収し、違法所得があればそれも没収し、情状が重大なときは、違法所得の1~3倍の過料を併科しうると定めている。
これに対し、「暗号法」38条は、輸入許可、輸出管理を実施する規定に違反し、商用暗号の輸出入を行った場合には、国務院商務主管部門又は税関が法に基づいて処罰すると定める。したがって、今後、商用暗号輸出入関連規定に違反する行為を処罰する法執行機関は、国家暗号局から商務部又は税関に変更され、処罰の根拠に「輸出管理法」が含まれることが予想される。
具体的には、「輸出管理法」34条によると、輸出事業者が許可なく管理品目を輸出し、又は輸出許可証に定める許可の範囲を超えて管理品目を輸出した場合、違法行為の停止が命じられ、違法所得が没収され、違法経営額が50万元以上のときは、違法経営額の5倍以上10倍以下の過料が併科される。違法経営額がなく、又はそれが50万元未満のときは、50万元以上500万元以下の過料が併科される。情状が重大なときは、関連する管理品目の輸出経営資格の取消しまで休業整頓が命じられる。このように、「輸出管理法」によると、大幅な重罰化となることがわかる。しかも、情状が重大な場合、密輸罪成立の可能性もある。それゆえ、商用暗号リスト所掲の商用暗号の輸出入に従事する事業者は、違反行為として処罰されないため、法律に基づいてデュアルユース品目及び技術輸出入許可証を取得する必要がある。
4.おわりに
現在の世界は情報が急速に伝播する時代にあり、一部の商用暗号は、国家の安全、社会の公共利益と関わるため、国の厳しい管理が必要な時代が到来した。「暗号法」及び63号公告の施行に伴い、中国は商業暗号に対する新たな輸出入管理制度を整備していくこととなるが、外資系企業・内資企業いずれも、今後の法運用の動向を持続的に注視すると同時に、関連法規に基づいて適時に相応の内部コンプライアンス管理システムを構築して、重大な違法リスクの発生を予防することが求められる。