新「企業名称登記管理規定」に関する一考察

中国 | JP
Current site :    中国   |   JP
オーストラリア
ベルギー
中国
中国香港特別行政区
ドイツ
イタリア
日本
シンガポール
スペイン
アラブ首長国連邦
英国
米国
グローバル

1.はじめに

2020年12月28日、「企業名称登記管理規定」(以下、「新規定」という)が改正され、2021年3月1日から施行された。今回の改正により、中国で20年にわたって採用されていた企業名称事前認可(中国語:企业名称预核准)登記制度が自主申告制度に変更され、企業に自社の名称を選択する権利が与えられたほか、企業名称に対する監督管理制度が整えられた。以下において、新規定の主な変化及び企業名称の登記制度の変遷をめぐって考察する。

2、過去の企業名称事前認可登記制度について

企業名称事前認可登記制度は、1991年公布・施行の「企業名称登記管理規定」によって確立され、その後、1994年公布・施行の「会社登記管理条例」でも、会社を設立する際には企業名称について事前認可を受けなければならないとの旨が強調された。これら両規定については、それ以降も数回の改正が行われたが、企業名称の事前認可に関する内容は維持された。

企業名称事前認可登記制度の下、企業は登記機関から企業名称の事前認可を得て初めて、当該企業名称を使用して企業を設立することができるとされていた。しかし、現在の中国における企業数の増加スピードや政府による商事制度改革・「放管服(行政のスリム化と権限委譲)」改革の推進に伴い、行政手続の煩雑さ、効率の低さや企業名称の「類似性」についての判断の難しさなどにより、企業名称事前認可登記制度は、すでに実務上のニーズを満たさないものとなっていた。こうした状況を受けて、実務上、一部の地域(例えば、深セン市)においては、新規定の改正前に、既に企業名称の自主申告制度が導入されていた。また、2019年4月1日には、国家市場監督管理総局が「企業名称事前認可行政許可事項の取消の連携作業に関する通知」を公布し、企業名称の事前認可制度から自主申告制度への試みとなる第一歩を踏み出した。そして、今回改正された新規定によって、行政法規のレベルで正式に企業名称の自主申告制度が確立されることとなった。

3.企業名称の自主申告制度

企業名称の自主申告制度の確立は、今回の改正で最も注目すべきポイントであり、これにより、企業名称については「事前認可」から「登記中・登記後の監督管理」(中国語:事中事后监管)へと変更された。

(1)企業名称の自主申告制度における具体的な要求

申告者は、使用予定の企業名称につき、企業名称申告システム又は企業登記機関のサービス窓口への資料提出を通じて、企業名称の照会・比較・選別を行い、新規定に適合する企業名称を選択することができる(16条2項)。登記機関は、企業名称申告システムを通じて提出された企業名称を通常、2ヶ月間保留する(18条1項)。

(2)企業の承諾義務

新規定は、企業に対し自主申告権を与える一方で、企業は自ら提出した使用予定の企業名称が他の企業名称と近似し、他者の合法的権益を侵害した場合に法的責任を負うことを承諾する義務がある、と定めている(16条3項)。

(3)企業登記機関の職責及び企業名称申告システム・企業名称データベースの構築

これまで登記機関には、企業名称の事前認可を行うにあたり、使用予定の企業名称が他の企業名称と近似していないかを判断する職責があった。これに対し、現在の登記機関の職責は、主に企業の申請する企業名称についての照会や企業名称の選択に関するサービスを提供することである。これに関し、新規定2条によると、県級以上の地方人民政府の市場監督管理部門は登記機関として、中国国内に設立される企業の企業名称の登記管理を担当するのに対し、省級人民政府の市場監督管理部門は、当該行政区域における統一的な企業名称申告システム・企業名称データベースの構築を担当し、社会に公開することとされている。この企業名称データベースの構築は、企業の自主的な申告のために、重要な役割を果たすといえる。

4.企業名称登記の基本規範の整備

2012年に改正された旧「企業名称登記管理規定」(以下、「旧規定」という)と比較すると、今回の改正では、企業名称登記の基本要素及び構成規範が整備され、企業名称に関する禁止規範もより詳細化された。例えば、国家の尊厳・利益を損なう内容、社会公共利益又は社会公共秩序を妨害する内容、公衆を欺き誤解させる可能性のある内容を企業名称として使用することが禁止されている(11条)。そのほか、企業名称に「法律、行政法規及び国の規定により禁止される他の状況」があってはならないとの包括的条項も定められていることから、国は、企業名称について他の禁止規定を制定することもできると解される。

さらに、その他にも新規定は、外商投資企業の名称、企業の支店・分店の名称、グループ企業の名称に関する規則をそれぞれ定めている。

5.企業名称に関する登記機関の監督管理規制の変化

登記機関による「登記中・登記後の監督管理」について、登記機関は、企業登記の際に企業名称が新規定に適合しないことを発見した場合には登記を行わず、企業名称自主登記後においても、新規定に適合しない企業名称を是正する権利を有する(20条)。

また、企業名称に関する紛争処理について、企業は、他の企業名称が自社の企業名称の合法的権益を侵害すると考える場合は、人民法院に提訴するほか、登記機関に申立を提出することもできる。登記機関は、調停を行うことができ、調停で解決しない場合には、受理日から3ヶ月以内に行政裁決を下す必要がある(21条)。

さらに、人民法院又は登記機関が企業名称の使用を停止すべきと認定した場合には、企業は指定された期限内に企業名称変更登記を行わなければならず、これを行わない場合、登記機関は、同企業を経営異常企業リストに記載することができる(23条2項)。

そのほか、新規定の公布・施行に伴い、2021年2月10日に、国家市場監督管理総局が「企業名称紛争処理暫定弁法(意見募集稿)」(以下、「意見募集稿」という)を公布し、企業名称に関する紛争処理について、より詳細な規定を設けている。例えば、「意見募集稿」19条及び22条は、次の状況が存する場合、登記機関は企業名称の使用を停止するとの行政裁決を下すことができると規定している。すなわち、1)紛争に関わる企業名称が自主申告により登記されたものであって、申請者の企業名称が同一又は類似に関するリスク提示において明確に告知されていた場合、2)登記された企業名称が使用中に公衆を欺き又は誤解させ、企業名称の権利を侵害する場合、3)行政機関又は裁判所が、登記された企業名称が他者のその他権利を侵害することを認定した場合などが挙げられる。

6.新規定に違反した場合の行政処罰

新規定に違反した場合の行政処罰について、新規定は、旧規定に定められた行政処罰に関する内容を全面的に削除したが、具体的な行政処罰は定めておらず、22条で「企業名称を利用し不正な競争を引き起こした場合、関連する法律、行政法規に従い処理する」、24条で「企業登記に関連する法律、行政法規に基づき処罰する」と定めているのみである。ここでいう「関連する法律、行政法規」としては、会社法、不正競争防止法、会社登記管理条例が挙げられるが、新規定の正式施行に伴い、今後の関連法令の制定・改正及び法運用の実務に注目することが望まれる。

7.おわりに

以上のように、新規定の施行に伴い、関連する監督管理規制も整備されつつある。企業側にとっては、自社の名称を登録する際に自由度・便利さが高まる一方で、不正競争などを引き起こさないよう注意する必要があるほか、自社の名称や商標などが他社の社名によって侵害された場合には、告発、訴訟などを通じて自身の合法的権益を守ることが重要である。

最新記事
インサイト
中国では独禁法分野において、2021年11月18日に3つの大きな出来事があった。1つ目は、「国家市場監督管理総局独禁局」が「国家独禁局」に改められ、トップが日本でいえば副大臣クラスに相当するレベルへと格上げされる組織改編が行われた。2つ目は、「原薬の分野における独占禁止に関するガイドライン」(以下、「原薬独占禁止ガイドライン」という)が公布され、2021年11月15日より実施された。3つ目は、中国南京市の某原薬販売会社に対して市場支配的地位の濫用を理由とした処罰が行われ、約658万人民元(約1.2億円)の違法収入の没収・過料が科された。

2021/12/10

インサイト
中国の「個人情報保護法」が2021年11月1日に施行された。同法は、個人情報保護分野の「基本法」として、個人情報の取扱や個人情報越境提供に関する規制、個人の権利と個人情報取扱者の義務などについて、全面的かつ系統的に定めている。企業を含む個人情報取扱者が遵守すべき義務についても明確な規定を設けていることから、社会の大きな注目を集めている。他方、「個人情報保護法」は「基本法」としての位置づけであることから、その一部の規定について、実務上どのように取り扱うべきか詳細に定めていない。このため、その他の関連する法規、国家基準などを参考にする必要があり、一部の内容については、今後の付随的な法規、細則又は基準などによるさらなる整備が待たれる。

2021/11/03

インサイト
個人情報の保護の専門的な法律として「中華人民共和国個人情報保護法」(以下、「個保法」という)が2021年8月20日に可決・公布され、同年11月1日にその施行日を迎える。これは、同法が2018年に中国全国人民代表大会常務委員会の立法計画に組み込まれた後、3年にわたる立法作業の成果であり、その第1条は、その立法根拠として憲法を追加し、「中華人民共和国公民の人格的尊厳の不可侵」や「中華人民共和国公民の通信の自由及び秘密に対する法律的保護」など、憲法の規定を具体化・確実化するものとして重大な意義を有している。本誌2021年6月号では、2021年4月に公布された個保法の第二次審議稿(以下、「第二次審議稿」という)について紹介したが、本稿では、第二次審議稿との比較を含む個保法の要点などに関し論ずるものとしたい。

2021/09/01